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パワーハラスメントとは、職場の優越的な関係を背景に行われる、業務の適正な範囲を超えた言動により、労働者の就業環境が害される行為を指します。
一般的に「パワハラ」と略され、深刻な社会問題となっています。
この記事では、パワーハラスメントの法律上の定義、判断基準となる3つの要素、そして具体的な行為を分類した6つの類型について詳しく解説します。
目次
2020年6月に施行された改正労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)により、職場のパワーハラスメントの定義が法律で初めて明確化されました。
厚生労働省によると、職場におけるパワーハラスメントは「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要素をすべて満たすものと定義されています。
この法律により、事業主にはパワハラ防止措置を講じることが義務付けられました。
パワーハラスメントに関する使用者側弁護士の解説については「[パワーハラスメント(パワハラ)への法的対応](https://www.labor-management.net/laborcolumn/056/)」で詳しく紹介しています。
ある言動がパワハラに該当するかどうかは、特定の状況や文脈によって判断が異なります。
そのため、厚生労働省は客観的な判断基準として3つの要素を提示しています。
この3つの要素は、個別の事案がパワハラにあたるかどうかを見極めるための重要な指標となります。
以下で、それぞれの要素について具体的に解説します。
「優越的な関係」とは、単に役職の上下関係だけを指すわけではありません。
職務上の地位の優位性はもちろんのこと、専門知識や経験、人間関係など、様々な優位性が含まれます。
例えば、特定の業務に精通している同僚や部下が、その知識の優位性を背景に指示を無視したり、非協力的な態度をとったりする場合も該当する可能性があります。
このように、抵抗または拒絶することが困難な関係性が背景にある言動が一つ目の要素です。
この要素は、その言動が仕事を進めるうえで本当に必要な指示や指導の範囲内か、また、その表現方法や態様が社会通念に照らして許容されるレベルかという観点で判断されます。
例えば、業務上のミスを注意する際に、人格を否定するような暴言を吐いたり、必要以上に長時間にわたり執拗に叱責したりする行為は、業務の適正な範囲を超えていると判断される可能性が高いです。
仕事上の指導であっても、その手段や方法が不適切であればこの要件に該当します。
対象の言動によって、労働者が身体的または精神的な苦痛を感じ、その結果として職場環境が悪化し、能力の発揮に重大な悪影響が生じる状態を指します。
具体的には、恐怖心から業務に集中できなくなったり、精神的な負担で休職に至ったりするケースが考えられます。
この判断は、「平均的な労働者の感じ方」を基準とし、同様の状況で他の労働者が同じような苦痛を感じるであろう客観的な状況であるかどうかが考慮されます。
厚生労働省は、職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の例を6つの類型に分類して示しています。
これらの類型は、パワハラに該当しうる行為を具体的に理解するのに役立ちますが、あくまで例示であり、すべてのパワハラがこの6つに限定されるわけではありません。
実際の判断は、前述した3つの要素をすべて満たすかどうかによって行われます。
殴る、蹴る、叩くといった直接的な暴力行為や、物を投げつけるなどの行為がこれに該当します。
この種の行為は、業務上の指導とは全く関係がなく、いかなる理由があっても正当化されません。
身体的な攻撃は、被害者に肉体的な苦痛を与えるだけでなく、深刻な精神的なダメージも引き起こします。
明確なパワハラであり、場合によっては刑法の暴行罪や傷害罪に問われる可能性もある悪質な例です。
脅迫、名誉毀損、侮辱、ひどい暴言など、人格を否定したり、尊厳を傷つけたりする言動や行為を指します。
他の従業員がいる前で大声で叱責する、能力を執拗に罵る、「給料泥棒」「辞めてしまえ」といった発言などが具体的な例です。
被害者の自尊心を深く傷つけ、精神的な苦痛を与える行為であり、うつ病などの精神疾患を引き起こす原因にもなり得ます。
特定の従業員を意図的に孤立させる、仲間外れにする、無視するといった行為が該当します。
具体的には、一人だけ別の部屋に席を移動させる、会議や社内行事に意図的に参加させない、業務上必要な連絡を伝えないといった例が挙げられます。
このような行為は、職場内でのコミュニケーションを阻害し、被害者に深刻な孤独感や疎外感を与え、円滑な業務遂行を困難にします。
業務上明らかに不要なことや、遂行不可能な業務を強制する行為を指します。
これには、新入社員に対して到底達成不可能なノルマを課す、専門外の仕事を十分な教育なしに丸投げする、あるいは私的な雑用を強制するといった例が含まれます。
本人の能力や経験をはるかに超えた仕事を与えることは、意図的な嫌がらせと見なされ、パワハラに該当する可能性が高いです。
過大な要求とは逆に、本人の能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じたり、仕事そのものを与えなかったりする行為です。
例えば、専門職として採用された従業員に、一日中シュレッダーがけや草むしりだけをさせるといった例が該当します。
本人のキャリアや意欲を軽視し、自主退職に追い込むことを目的として行われる場合もあり、これもパワハラの一類型とされています。
プライベートな事柄に過度に立ち入る行為を指します。
「個」とは個人のプライバシーや私生活のことです。
恋人の有無や休日の過ごし方について執拗に詮索する、本人の同意なく個人情報を他人に漏らす、思想や信条、性的指向などを理由に不適切な発言をするといった行為が例として挙げられます。
業務とは無関係な私生活への過剰な干渉は、個人の尊厳を侵害するパワハラ行為です。
部下を育成する上で、時に厳しい指導が必要になる場面もあります。
しかし、その指導が「パワハラ」と受け取られてしまうケースも少なくありません。
この二つの境界線は、「業務上の必要性」と「言動の相当性」という客観的な基準によって判断されます。
指導する側の意図がどうであれ、その行為が社会通念に照らして適正な範囲を逸脱していれば、パワハラと見なされる可能性があります。
業務上の指導として認められるのは、その行為に正当な目的があり、社会通念上相当と認められる範囲内で行われる場合です。
例えば、度重なる遅刻に対して改善を促すための注意や、業務上のミスについて原因を明確にし、再発防止策を具体的に指示するような行為は、適正な指導の範囲内と判断されます。
指導の目的が、あくまで相手の成長や業務改善にあることが重要です。
仕事の質や効率を高めるための、客観的で合理的な指示はこれに含まれます。
一方、業務上の指導という名目であっても、その言動が社会通念を逸脱している場合はパワハラと判断されやすくなります。
例えば、ミスに対して人格や能力そのものを否定するような発言をする、他の従業員の前で見せしめのように大声で叱責する、目的が不明瞭なまま長時間にわたり説教を続けるといった行為が挙げられます。
また、指導の範囲を超えて、相手の退職を促すような言動もパワハラに該当する可能性が高い例です。
改正労働施策総合推進法(パワハラ防止法)により、すべての事業主に対して、職場のパワーハラスメントを防止するための措置を講じることが義務付けられました。
企業は、従業員が安心して働ける環境を整備する「安全配慮義務」を負っており、パワハラ対策を怠った場合はその責任を問われます。
コンプライアンスの観点からも、企業には具体的な対策の実施が求められています。
業主は、職場におけるパワーハラスメントの内容や、パワハラを行ってはならないという方針を明確にし、それを全従業員に周知・啓発する義務があります。
具体的には、就業規則などの社内規程にパワハラの禁止条項を盛り込む、社内報やポスターで啓発活動を行う、管理職や従業員を対象とした研修を実施するなどの対策が挙げられます。
これにより、パワハラを許さないという企業の姿勢を明確にし、発生の予防を図ります。
従業員がパワハラについて安心して相談できる体制を整備することも、事業主の重要な義務です。
相談窓口をあらかじめ設置し、その存在を全従業員に周知する必要があります。
相談担当者が、相談内容や状況に応じて適切に対応できるように、研修などを行うことも求められます。
窓口は形式的に設置するだけでなく、プライバシーが守られ、相談者が不利益な扱いを受けないことを保証するなど、実質的に機能する体制の構築が重要です。
実際にパワーハラスメントに関する相談があった場合、事業主は迅速かつ適切に対応する義務を負います。
まず、相談者と行為者の双方からヒアリングを行うなどして、事実関係を正確に確認しなければなりません。
パワハラの事実が確認された場合は、速やかに被害者に対する配慮措置や、行為者に対する懲戒処分などの措置を講じる必要があります。
また、同様の問題が二度と起こらないよう、再発防止策を講じることも義務付けられています。
セクハラ・パワハラ事案の相談事例については「[セクハラ・パワハラ事案の相談事例](https://www.labor-management.net/laborcolumn/035/)」で詳しく紹介しています。
パワハラに関する相談や調査の過程で、事業主は相談者や調査に協力した人のプライバシーを保護するために必要な措置を講じなければなりません。
また、パワハラの相談をしたこと、あるいは事実関係の確認に協力したことなどを理由として、労働者を解雇したり、その他不利益な取り扱いをしたりすることは法律で固く禁止されています。
安心して相談できる環境を確保するための重要な対策です。
職場におけるハラスメントには、パワーハラスメントの他にも様々な種類が存在します。
特に「モラルハラスメント(モラハラ)」や「セクシュアルハラスメント(セクハラ)」はパワハラと混同されやすいですが、それぞれ定義や行為の性質に違いがあります。
これらのハラスメントは複合的に発生することもあり、それぞれの違いを理解しておくことが適切な対応につながります。
以下で、その分類と定義の違いを解説します。
モラルハラスメント(モラハラ)は、言葉や態度、身振りなどによって、相手の人格や尊厳を傷つける精神的な嫌がらせを指します。
パワハラと重なる部分も多いですが、最大の違いは「優越的な関係」が必ずしも要件ではない点です。
パワハラが職場の地位や関係性の優位性を背景とするのに対し、モラハラは同僚間や家庭内など、あらゆる人間関係において成立しうる、より広範な概念です。
職場においては、優越的な関係が明確でない同僚間の嫌がらせなどがモラハラに該当する場合があります。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、相手の意に反する「性的な言動」によって、労働者が不利益を受けたり、就業環境が害されたりすることを指します。
パワハラとの最も大きな違いは、その行為が「性的」な性質を持つかどうかという点です。
パワハラは優越的な関係を背景とした業務に関連する言動が中心ですが、セクハラは性的な言動が定義の要件となります。
ただし、地位を利用して性的な関係を強要するなど、パワハラとセクハラが複合して発生するケースも少なくありません。
セクシャルハラスメントの法律上の定義や判断基準については「[セクシャルハラスメントの法律上の定義と判断基準](https://www.labor-management.net/laborcolumn/172/)」で詳しく紹介しています。
こでは、パワーハラスメントに関して特に多く寄せられる質問とその回答をまとめました。
具体的な状況における判断や、企業の対応について理解を深めるためにお役立てください。
業務上必要かつ相当な範囲で行われる指導であれば、パワーハラスメントには該当しません。
しかし、人格を否定する暴言や、必要性を超えた叱責など、客観的な基準で見て適正な範囲を逸脱している場合はパワハラと判断される可能性が高いです。
会社には、相談者のプライバシーを保護しつつ、迅速に事実関係を調査する責任があります。
パワハラの事実が確認された場合は、被害者のケア、行為者への適切な措置、再発防止策を講じる法的義務を負います。
中立的な立場で誠実に対応することが求められます。
本記事では、パワーハラスメントの法律上の定義、判断基準となる3つの要素、具体的な6つの類型、そして企業の防止対策について解説しました。
パワハラは、個人の尊厳を傷つけ、職場の生産性を低下させる深刻な問題です。
従業員と企業双方が正しい知識を持ち、健全な職場環境を築くための対策を講じることが不可欠です。
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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士
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