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職場におけるセクシュアルハラスメント(セクハラ)の境界線は、非常に曖昧に感じられることがあります。
「この発言はセクハラにあたるのか」「どこからが許されない行為なのか」と、被害者も、そして無自覚な加害者になりたくない人も悩む問題です。
セクハラは個人の尊厳を傷つけるだけでなく、職場環境を悪化させ、企業の生産性にも影響を及ぼします。
この記事では、厚生労働省の定義に基づき、セクハラの客観的な判断基準、具体的なNG発言・行動例、そして被害に遭った際の対処法や企業が取るべき措置について解説します。
目次
セクシュアルハラスメント(セクハラ)とは、厚生労働省によると「職場において行われる、労働者の意に反する性的な言動により、労働者が労働条件について不利益を受けたり、就業環境が害されること」と定義されています。
ここでの「職場」とは、通常の勤務場所に限らず、出張先、取引先との打ち合わせ場所、接待の席なども含まれます。
「労働者」は正社員だけでなく、パートタイム労働者や契約社員など、すべての従業員が対象です。
セクハラは、その態様から大きく「対価型」と「環境型」の2種類に分類されます。
セクシュアルハラスメントの定義や種類については「[セクシュアルハラスメントの対応と防止](https://www.labor-management.net/laborcolumn/055/)」で詳しく紹介しています。
対価型セクシュアルハラスメントとは、労働者の意に反する性的な言動に対して、拒否や抵抗をしたことを理由に、その労働者が解雇、降格、減給、不利益な配置転換などの不利益を受けることです。
例えば、上司が部下に対して性的な関係を要求し、それを拒否した部下の人事評価を不当に下げるといったケースが典型例です。
この類型は、職務上の地位や権限を利用して行われることが多く、労働者の雇用や待遇に直接的な影響を及ぼす点が特徴です。
環境型セクシュアルハラスメントとは、労働者の意に反する性的な言動により、職場環境が不快なものとなり、労働者の能力の発揮に重大な悪影響が生じることです。
例えば、職場で性的な冗談や噂を流す、わいせつな画像を掲示する、必要なく身体に触るといった行為が該当します。
これにより、労働者が精神的な苦痛を感じて集中できなくなり、業務に支障が出るなどの影響が考えられます。
対価型と異なり、直接的な不利益がなくとも、働く意欲の低下や職場環境の悪化をもたらす点で問題となります。
ある言動がセクハラに該当するかどうかは、個人の主観だけで決まるわけではありません。
客観的な判断基準が存在し、特に裁判などでは総合的に考慮されます。
セクハラかもしれないと感じる発言や行動に直面した際、または自身の言動を振り返る際に、以下の3つのポイントを参考にすることで、より客観的に状況を把握できます。
これらの基準は、被害者が声を上げる際や、企業が事実調査を行う上で重要な指標となります。
セクハラが成立するための大前提は、その言動が「相手の意に反する」ものであり、かつ「性的なもの」であることです。
「性的な言動」には、性的な内容の発言だけでなく、性的な行動も含まれます。
例えば、性的な事実関係を尋ねる、食事やデートへ執拗に誘う、身体に不必要に接触する、といった行為が該当します。
重要なのは、言動を受けた側がそれを不快に感じたかどうかであり、言動の意図とは無関係に、相手の主観が尊重される点が基本となります。
セクハラの判断において、加害者の意図は原則として考慮されません。
「好意があった」「親しみを込めて言った」「冗談のつもりだった」といった言い分は、セクハラの成立を否定する理由にはなりません。
たとえ恋愛感情に基づく発言や行動であっても、相手がそれを望んでおらず、不快に感じたのであればセクハラに該当する可能性があります。
重要なのは、その言動が相手の尊厳を傷つけ、不快感を与えたという客観的な事実です。
相手の主観が基本となる一方で、判断には客観性も求められます。
その基準とされるのが、「平均的な女性労働者」または「平均的な男性労働者」の感じ方です。
これは、個人の感覚が過度に敏感、あるいは鈍感である可能性を排除し、社会通念に照らして判断するための指標です。
ある発言に対して、一般的に多くの労働者が不快に感じ、就業環境が害されると認識するであろう内容であれば、セクハラと認定されやすくなります。
具体的にどのような言動がセクハラと見なされるのでしょうか。
ここでは、職場やその延長線上で起こりうる、セクハラに該当する可能性が高い発言や行動の例を挙げます。
意図せず相手を不快にさせないため、また、受けた行為が問題かどうかを判断するためにも、これらの具体例を参考にしてください。
ただし、下記はあくまで一例であり、身体を執拗に触るなど、状況によっては一度の行為でも重大なセクハラと判断されることがあります。
業務とは無関係な容姿や身体的特徴についての発言は、セクハラと見なされる可能性が高い行為です。
例えば、「太ったね、痩せたね」「脚がきれいだね」「胸が大きい」といった発言は、たとえ褒めているつもりであっても、相手に羞恥心や不快感を与えることがあります。
また、「もっと化粧をしたらどうか」など、個人のスタイルに対する否定的な発言も同様に問題視されます。
容姿に関するコメントは、職場でのコミュニケーションにおいて特に慎重になるべきです。
業務に関係のないプライベートな事柄を、執拗に聞いたり詮索したりする行為もセクハラに該当します。
「彼氏(彼女)はいるのか」「結婚はまだしないのか」「休日は誰と過ごしているのか」といった発言は、個人のプライバシーを侵害するものです。
特に、恋愛経験や交際相手に関する質問は、多くの人が不快に感じます。
このような個人的な話題は、相手から話さない限り、職場では避けるべきです。
度重なる質問は、相手に精神的な苦痛を与える可能性があります。
性的な内容の冗談やからかい、いわゆる下ネタを職場で話すことは、環境型セクハラに該当する典型例です。
本人は場を和ませるつもりの発言かもしれませんが、聞かされる側にとっては不快でしかなく、業務への集中を妨げる原因になります。
性的な経験を尋ねたり、性的な内容を含むあだ名で呼んだりする行為も同様です。
このような発言が蔓延すると、職場全体の品位が下がり、健全な就業環境が損なわれます。
相手が断っているにもかかわらず、二人きりでの食事やデートにしつこく誘う行為はセクハラと判断されることがあります。
特に、上司と部下など、職務上の優位な立場を利用して誘う場合、部下は断りにくく、精神的なプレッシャーを感じます。
一度断られたのであれば、それ以上誘うべきではありません。
プライベートな誘いの発言を繰り返すことは、相手に恐怖心や不快感を与える行為と見なされます。
業務上の必要性がないにもかかわらず、相手の身体に触る行為はセクハラに該当します。
肩を組む、腰に手を回す、頭をなでる、髪の毛に触れるといった行為は、たとえ「励ますつもり」「親しみの表現」といった意図があっても、相手が不快に感じれば許されません。
特に、意図的に胸や尻などを触る行為は、悪質性が高く、一度でも重大な人権侵害と見なされ、場合によっては強制わいせつ罪などの刑事事件に発展する可能性もあります。
特定の従業員に関する性的な内容の噂を、意図的に職場内に広める行為は、名誉棄損やプライバシー侵害にあたる悪質なセクハラです。
「〇〇さんは複数の異性と関係があるらしい」といった根拠のない発言を流布することは、対象者の社会的評価を著しく低下させ、精神的に深く傷つけます。
また、このような噂が広まることで、職場全体の人間関係が悪化し、就業環境を害する原因にもなります。
もし自分がセクハラ被害に遭っていると感じたら、一人で抱え込まず、冷静に行動することが重要です。
適切な手順を踏むことで、問題解決への道筋が見え、自分自身を守ることにつながります。
感情的になってしまうかもしれませんが、まずは状況を整理し、証拠を集め、信頼できる窓口へ相談・通報することが解決の鍵となります。
ここでは、被害に遭った際に取るべき具体的な4つのステップを解説します。
セクハラ行為を受けた際、可能であればその場で「やめてください」「不快です」とはっきりと意思表示することが重要です。
加害者がセクハラをしているという自覚がない場合、意思表示によって行為が止まる可能性があります。
曖昧な態度や作り笑いは、相手に「合意している」と誤解させる恐れがあります。
勇気がいる行動ですが、毅然とした発言や態度で拒否の意思を示すことは、自身の尊厳を守るための第一歩です。
後の相談や通報に備え、被害の事実を証明するための証拠を記録しておくことが極めて重要です。
「いつ、どこで、誰から、どのような言動をされたか」「それに対して自分がどう対応し、どう感じたか」「周囲に目撃者はいたか」などを、できるだけ具体的に記録しましょう。
メールやチャットでの不適切なメッセージはスクリーンショットを撮って保存します。
客観的な記録は、社内窓口や外部機関へ相談する際に、状況を正確に伝えるための強力な証拠となります。
一人で問題を抱え込まず、社内に設置されている相談窓口(コンプライアンス部門や人事部など)に相談しましょう。
企業にはセクハラ相談に対応する義務があり、専門の担当者が対応してくれます。
もし、そのような窓口がない、あるいは利用しづらい場合は、信頼できる上司に相談することも一つの方法です。
相談する際は、ステップ2で記録した証拠を持参すると、事実関係が伝わりやすくなります。
社内で相談しても適切な対応がなされない場合や、そもそも社内での解決が望めない場合は、社外の専門機関に相談することを検討します。
各都道府県労働局に設置されている「総合労働相談コーナー」では、無料で専門の相談員に相談できます。
また、法的な解決を視野に入れるのであれば、弁護士への相談が有効です。
問題の通報と解決に向けて、専門家の助言を求めることが、状況を打開する助けとなります。
セクハラは、被害に遭うだけでなく、誰もが意図せず加害者になってしまう可能性があります。
「そんなつもりはなかった」という言い訳は通用しません。
特に、価値観や世代間のギャップがある現代において、他者とのコミュニケーションには細心の注意が求められます。
自分の発言や行動が相手を不快にさせていないか、常に客観的な視点を持つことが重要です。
安易に身体に触る行為などを避け、以下に示すポイントを意識することが、無自覚の加害を防ぎます。
「普段から仲が良いから、これくらいは許されるだろう」といった思い込みは非常に危険です。
相手が笑顔で応じていても、内心では不快に感じ、関係性を壊したくないために我慢しているだけかもしれません。
親しい間柄であっても、相手を一人の人間として尊重し、敬意を払う姿勢が基本です。
特に職務上の立場が上の場合は、相手が本音を言いにくい状況にあることを自覚し、より慎重な発言や行動を心がける必要があります。
自分が育ってきた環境や世代で「当たり前」とされてきたことが、必ずしも他者にとっての常識とは限りません。
特にジェンダーに関する価値観は時代とともに大きく変化しています。
「女性はこうあるべきだ」「男ならこれくらい」といった固定観念に基づいた発言は、相手を不快にさせるだけでなく、個人の多様性を否定することにもつながります。
自分の価値観を基準にせず、相手がどう感じるかを想像することが大切です。
職場は公的な場であり、業務を遂行する場所です。
プライベートな飲み会などとは異なり、性的な冗談や下ネタ、個人の恋愛に関する話題は、基本的に持ち込むべきではありません。
一部の人が盛り上がっていたとしても、その話題に加われない、あるいは不快に感じている人がいる可能性を常に念頭に置くべきです。
業務に関係のない性的な発言は、職場全体の規律を乱し、環境型セクハラの温床となります。
男女雇用機会均等法により、企業は職場におけるセクハラを防止するために必要な措置を講じることが義務付けられています。
これには、事前の防止策だけでなく、問題が発生した後の迅速かつ適切な対応も含まれます。
企業がこれらの義務を怠った場合、安全配慮義務違反として損害賠償責任を問われる可能性があります。
従業員が安心して働ける環境を整備するため、相談や通報があった際に適切に対応できる体制づくりが不可欠です。
企業はまず、職場におけるセクシュアルハラスメントを一切容認しないという方針を明確に打ち出す必要があります。
その内容を就業規則などの社内規程に明記し、セクハラを行った者には厳正に対処する旨を定めます。
そして、研修や社内報などを通じて、この方針を全従業員に周知・啓発することが重要です。
これにより、セクハラは許されない行為であるという意識を組織全体で共有し、問題の発生を未然に防ぎます。
従業員がセクハラの被害について安心して相談できる窓口を設置することが法律で義務付けられています。
相談窓口は、人事部やコンプライアンス部門などに設置されることが一般的で、担当者は中立的な立場で対応する必要があります。
相談者のプライバシー保護を徹底し、相談したことによって不利益な扱いを受けないことを明確に定め、全従業員に周知することが、窓口を機能させる上で不可欠です。
形骸化させない運用が求められます。
セクハラの相談や通報があった場合、企業は迅速に事実関係の調査を開始しなければなりません。
相談窓口の担当者が、被害者と加害者とされる人物の双方から公平に事情を聴取します。
必要に応じて、第三者(目撃者など)からも話を聞き、客観的な事実認定に努めます。
調査中は、被害者のプライバシーを守るとともに、加害者とされる人物からの接触を防ぐための配置転換など、被害者の安全を確保する措置を講じます。
調査の結果、セクハラの事実が確認された場合、企業は就業規則に基づき、加害者に対して厳正な処分を行わなければなりません。
処分内容は、行為の態様、頻度、被害の程度といった影響を総合的に考慮して決定されます。
懲戒処分には、譴責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇などがあり、事案の悪質性に応じた適切な処分を下すことが、組織の規律を維持する上で重要です。
処分が不当に軽いと、再発防止につながりません。
個別の事案への対応が完了した後、企業は同様の問題が二度と起こらないよう、再発防止策を講じる義務があります。
例えば、改めて全従業員を対象としたセクシュアルハラスメント防止研修を実施する、管理職への教育を強化する、社内報などで注意喚起を行うといった対策が考えられます。
個別の問題として処理するだけでなく、組織全体の問題として捉え、職場環境の継続的な改善に努める姿勢が求められます。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)の境界線は曖昧に感じられることが多く、具体的な状況について多くの疑問が寄せられます。
ここでは、「どこからがセクハラか」という問題に関して、特によくある質問とその回答をまとめました。
自身の経験がセクハラに該当するのか、あるいは自分の発言が問題ないかを確認する際の参考にしてください。
なります。
セクハラの判断基準は、加害者の意図ではなく、言動を受けた相手が不快に感じたかどうかです。
たとえ好意に基づく発言や行動であっても、相手がそれを望んでおらず、性的な言動によって不快感や屈辱感を抱いた場合はセクハラに該当します。
対象になります。
職場の人間関係を利用した業務時間外の連絡も、実質的に職務の延長線上にあると見なされるためです。
性的な画像の送付や、執拗にプライベートな連絡を繰り返す行為は、セクシュアルハラスメントと判断される可能性が十分にあります。
あります。
行為の悪質性や内容によっては、一度きりの言動でもセクハラと認定されます。
例えば、第三者がいる前で侮辱的な性的発言をする、無理やり身体に触るといった行為は、一度でも被害者の尊厳を著しく傷つけ、職場環境を害する重大な問題です。
セクシュアルハラスメント(セクハラ)は、加害者の意図に関わらず、相手が不快に感じる性的な言動によって成立します。
その判断基準は「平均的な労働者」の感じ方が一つの指標となり、対価型と環境型の二つに大別されます。
容姿への言及や不必要な身体接触、プライベートの詮索などは代表的な例です。
被害に遭った場合は一人で抱え込まず、言動を記録し、社内外の窓口に相談することが重要です。
また、誰もが無自覚の加害者にならないよう、日頃から他者への配慮と正しい知識を持つことが求められます。
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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士
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