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パワーハラスメント(パワハラ)の相談が寄せられた際、企業は迅速かつ適切な対応が求められます。
その対応の中核となるのが、客観的な事実に基づいた調査報告書の作成です。
この報告書は、事実関係を明確にし、公正な措置を決定するための重要な根拠となります。
本記事では、企業の担当者向けに、法的リスクを抑えつつ実態に即したハラスメント調査報告書の書き方について、具体的な例文を交えながら解説します。
目次
パワハラ報告書とは、社内で発生したハラスメント事案に関して、相談者や行為者、第三者へのヒアリングを通じて得られた事実関係をまとめ、会社の公式な記録として残すための文書です。
この報告書を作成する主な目的は、事実関係を正確に把握し、パワハラの有無を客観的に判断することにあります。
また、調査結果に基づき行為者への懲戒処分や被害者の救済措置を適切に決定し、再発防止策を講じるための基礎資料となります。
さらに、将来的に訴訟など法的紛争に発展した場合に、会社が適切に対応したことを証明する重要な証拠としての役割も担います。
パワハラ調査報告書は、客観性と正確性が求められる極めて重要な文書です。
人事担当者は、主観を排し、事実のみを淡々と記述する書き方を徹底する必要があります。
このセクションでは、ハラスメントの調査報告書を作成する上で必須となる項目から、具体的な記入例までを順を追って解説します。
適切な報告書を作成することで、社内での公正な判断と、将来的なリスク回避につながります。
ハラスメント調査報告書には、事実関係や判断の根拠を明確にするため、以下の9つの項目を漏れなく記載することが不可欠です。
これらの項目を網羅することで、報告書の網羅性と信頼性が高まり、後の対応をスムーズに進めることができます。
1.報告書の作成日・作成者名・宛名
2.事案の当事者(相談者・行為者の氏名、所属部署)
3.相談があった日時と概要
4.調査の目的と調査期間
5.調査の対象者と実施した調査方法(例:ヒアリング)
6.調査によって認定された事実関係(5W1Hを明確に)
7.事実に基づくパワハラの有無の判断とその理由
8.今後の対応に関する会社の意見・措置案
9.具体的な再発防止策
ここでは、前述した必須項目の中でも特に重要となる「事案の概要」「ヒアリング内容」「パワハラ該当性の判断理由」について、具体的な書き方と例文を解説します。
ハラスメント報告書を作成する際は、誰が読んでも事実関係を正確に理解できるよう、客観的かつ具体的に記述することが重要です。
以下の記入例を参考に、状況に応じた適切な表現を用いてください。
事案の概要は、報告書の冒頭で全体像を把握するために重要な項目です。
「いつ」「どこで」「誰が」「何を」「なぜ」「どのように」の5W1Hを明確に記述します。
相談者の主観的な訴えと、調査で明らかになった客観的な事実を区別して記載することが、正確な書き方のポイントです。
2024年5月10日14時頃、本社営業部オフィス内において、部長A氏が担当B氏に対し、他の社員がいる前で「こんな簡単なこともできないのか」「本当に使えないな」といった発言を行った。
発端は、B氏が提出した報告書の数字に誤りがあったことによる。
関係者からのヒアリング内容は、報告書の客観性を担保する上で最も重要な部分です。
相談者、行為者、そして目撃者などの第三者、それぞれから聴取した内容を分けて記載します。
発言内容は「」を用いて正確に引用し、作成者の解釈や推測は含めない書き方を徹底します。
相談者B氏からのヒアリング(2024年5月15日実施)
「報告書のミスを指摘された際、A部長から皆の前で『本当に使えないな』と叱責された。人格を否定されたように感じ、精神的に苦痛だった」との発言があった。
行為者A氏からのヒアリング(2024年5月16日実施)
「指導の一環であり、パワハラの意図はなかった。しかし、『使えない』という表現は不適切だったと認識している」との発言があった。
ヒアリング等で認定された事実に基づき、その言動がハラスメントに該当するか否かを判断し、その理由を具体的に記述します。
判断の根拠として、厚生労働省が示すパワハラの定義や6類型、自社の就業規則などを挙げることが重要です。
客観的な基準に照らし合わせた書き方をすることで、判断の正当性を示します。
行為者A氏の「使えない」という発言は、業務指導上不必要な人格を否定する言動であり、厚生労働省が定めるパワーハラスメントの6類型のうち「精神的な攻撃」に該当する。
また、他の従業員がいる前での叱責は、相談者B氏の就業環境を害するものであり、業務上適正な範囲を超えていると判断する。
パワーハラスメントに該当するか否かは、客観的な基準に基づいて判断されます。
厚生労働省は、職場のパワハラの概念として「優越的な関係を背景とした言動」「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」「労働者の就業環境が害されるもの」という3つの要素を全て満たすものと定義しています。
さらに、代表的な言動の類型として以下の6つを挙げており、これらはハラスメント認定の具体的な判断基準となります。
1.身体的な攻撃:暴行・傷害
2.精神的な攻撃:脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言
3.人間関係からの切り離し:隔離・仲間外し・無視
4.過大な要求:業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制
5.過小な要求:能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じること
6.個の侵害:私的なことに過度に立ち入ること
報告書の信頼性を確保するためには、客観的な事実のみを記述することが不可欠です。
作成者の主観や憶測を排除するために、以下の3つのポイントを徹底してください。
第一に、日時、場所、関係者の言動など、具体的な事実を5W1Hで明確に記述します。
「〜と感じた」「〜と思われる」といった曖昧な表現は避け、断定できる事実のみを記載します。
第二に、関係者からのヒアリング内容は、「」を用いて発言を直接引用します。
これにより、報告書作成者の解釈が入ることを防ぎ、事実をありのままに記録できます。
第三に、事実と意見を明確に区別します。
事実関係を述べた後に、パワハラ該当性の判断などの意見を記述する際は、「以上の事実から〜と判断する」のように、両者が混同しない構成にします。
パワハラの問題解決は、当事者への対応だけでなく、組織全体での再発防止策を講じて初めて完結します。
企業には職場環境配慮義務があり、再発防止策の策定と実行は法的リスクを回避する上で極めて重要です。
具体的な再発防止策としては、まず行為者に対する研修の実施や、必要に応じた配置転換が挙げられます。
さらに、全従業員を対象としたハラスメント研修を定期的に開催し、意識啓発を図ることも有効です。
また、相談窓口の役割や利用方法を改めて周知徹底し、従業員が安心して相談できる体制を強化することや、匿名でのアンケート調査を実施して潜在的な問題を発見する取り組みも考えられます。
パワーハラスメントの報告書は、その内容の正確性だけでなく、作成から提出、保管に至るまでのプロセス全体で細心の注意が求められます。
特に、関係者のプライバシー保護や、相談者が不利益を被らないようにする配慮は、企業の法的義務でもあります。
ここでは、報告書の取り扱いに関する重要な注意点を解説します。
パワハラ報告書には、相談者、行為者、そしてヒアリングに協力した第三者など、多くの関係者の個人情報が含まれます。
そのため、報告書の取り扱いには最大限の注意を払い、プライバシー保護を徹底しなければなりません。
具体的には、報告書の閲覧権限を人事部長や役員など必要最小限の範囲に限定し、施錠できるキャビネットで厳重に保管する、あるいはパスワードを設定した上でアクセス制限をかけるといった物理的・技術的な安全管理措置を講じることが必要です。
パワハラについて相談したことや、調査に協力したことを理由として、労働者に対して解雇や降格、減給、配置転換といった不利益な取り扱いを行うことは、労働施策総合推進法(パワハラ防止法)で固く禁じられています。
企業は、相談者が安心して声を上げられる環境を保証する義務があります。
この禁止事項は、報告書内や関係者への説明の際に明記し、相談者や協力者の保護を明確に示すべきです。
不利益な取り扱いが行われれば、企業の法的責任が問われることになります。
パワハラの調査および報告書の作成は、常に中立・公正な立場で行う必要があります。
調査担当者は、相談者と行為者のどちらか一方の主張に偏ることなく、双方から平等に事情を聴取し、客観的な事実を積み重ねていかなければなりません。
予断や偏見を持って調査に臨むことは、事実認定を誤らせ、報告書の信頼性を著しく損なう原因となります。
報告書には、調査が公平な手続きに則って行われたことを示す記録を残すことも重要です。
ここでは、パワーハラスメントの報告書作成に関して、人事担当者から寄せられることの多い質問とその回答をまとめました。
客観的な記述方法や、証拠の有効性など、実務上の疑問点を解消するための参考にしてください。
発言者の主観と客観的事実を明確に区別して記述します。
具体的には、発言内容を「」で直接引用し、「〜と感じた」という主観と、「〜と言われた」という事実を分けて記載することが重要です。
作成者の推測や評価を一切含めず、聴取した内容をそのまま記録することで、ハラスメント報告書の客観性が高まります。
客観的にパワハラの事実を証明できる証拠が有効です。
具体的には、暴言が記録された音声データ、侮辱的な内容のメールやビジネスチャットのスクリーンショット、精神的苦痛による通院を示す医師の診断書、目撃した同僚の証言をまとめた陳述書などが挙げられます。
日時が明確な証拠は、信憑性を高める上で特に重要です。
パワーハラスメントの調査報告書は、事実関係を正確に記録し、企業が適切な対応を行うための根幹をなす文書です。
作成にあたっては、客観的な事実のみを記載することを徹底し、5W1Hを明確にした上で、関係者のヒアリング内容を正確にまとめる必要があります。
また、厚生労働省が示す6類型などを基準に、公正な判断理由を記述することが求められます。
関係者のプライバシー保護や不利益取り扱いの禁止といった法的要請を遵守し、信頼性の高い報告書を作成することが、健全な職場環境の維持につながります。
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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士
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