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弁護士の平野剛です。今回は、能力不足社員に対して業務改善計画(PIP)を実施した後に行った解雇の有効性が争われた事件(東京地裁令和6年3月18日判決)をご紹介します。
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外資系会社を中心に、能力不足の社員に対して業務改善計画(PIP:Performance Improvement Plan)を実施することがあります。
PIPを実施しても改善しない場合に退職勧奨や解雇をする事例も見られますが、PIPの元来の目的はあくまで当該社員のパフォーマンスの向上にあります。
ちなみに、PIP実施後の解雇事案として著名なブルームバーグ・エル・ピー事件(東京高裁平25.4.24)ではPIPを3回実施しており、改善を目的としているからこそ複数回実施されたものと思われます(3回実施の結果、改善が見られ、その後に行った解雇は無効と判断されました)。
本件の被告会社はIT関係の会社で、原告は複数の会社で約7年デジタルマーケティング担当等を経験した後に、シニアデジタルマーケティングマネージャーとして被告会社に入社しました。
しかし、原告には業務遂行における責任感の意識が不十分であったり、他の社員とのコミュニケーションが不十分であるなど、様々な問題が見られました。
そこで、被告会社は原告の入社から1年を経過した後の2019年9月2日から2か月間、業務改善計画(本件PIP)を実施しました。
本件PIPを実施する理由と改善点リストには、〔1〕デジタルメディア購買PDCAサイクルの問題がある、〔2〕責任者として責任感の意識が欠如/不十分である、〔3〕同僚やマネージャーとのコミュニケーションが欠如/不十分であると記載されていました。また、本件PIPの目標として、〔1〕デジタル広告の立案、〔2〕年間デジタル広告の効率的なPDCA、〔3〕A社広告のための効率的なPDCA、〔4〕K社広告のための効率的なPDCA、〔5〕部門内の情報共有が挙げられていました。被告会社は、この目標の達成度について、〔1〕の目標は80%、その他の目標は80%未達成と評価していました。
実際に、本件PIP期間中にも、原告は上司から自ら分析した報告を提出するように指示を受けながら、代理店が分析したデータを添付した報告をするという状況でした。
本件PIPの終了後にも原告に任務懈怠があったため、被告会社は原告に対して退職勧奨を行い、合意に至らなかったことから、原告を解雇しました。
裁判所は、原告について、デジタルマーケティングにおける専門的能力の発揮が求められる従業員の適格性を疑わせる事情があることを認め、「被告が原告の就労状況を踏まえ、本件PIPを実施したことは相当であったというべき」と述べました。
しかしながら、裁判所は、以下のように、本件PIPのプロセスやその後の対応についての問題点を指摘しました。
・ 本件PIP期間を終えて退職勧奨に踏み切る前に、被告において求められる業務の在り方についてより踏み込んだ指導や教育を施す余地はあったと考えられる。
・ 一例を挙げれば、q9本部長は繰り返し数字の報告にとどまらない「分析」を求めたが、原告は被告において求められる「分析」がいかなるものか理解できないまま、従前どおり被告には「分析」とは評価し得ない程度のコメントを付することを繰り返していたことが窺われる。
・ 本件PIPについても、その目標設定は原告の就労状況に照らして適切なものと考えられるが、実施の過程で原告と上長との面談等がどの程度行われ、被告が原告に求める業務改善の具体的内容について原告との間で共有されていたのか、本件PIP実施中の原告の取組みにつきどのようなフィードバックがされていたのか等の詳細については、本件証拠上明らかでない。
結論として、「指導、教育が十分に行われた事実が認められないにもかかわらず、能力不足を理由に行われた本件解雇については、客観的合理的理由があり社会通念上相当であるとはいえず、無効である」と判断しました。
弊所ではローパフォーマーに対して日報等での管理、指導による改善についてのアドバイスをさせていだたくこともありますが、PIPにおいても、基本的に同じ発想、心構えが必要であると考えています。すなわち、いずれの取組みも、あくまで当該労働者の業務遂行の改善、向上を目的としたものであって、その目的達成のために使用者側においても尽力しようとする意思と実際の取組みが必要になります。
そのような労力をかけた取組みを実施しても、残念ながら当該労働者の業務遂行に改善、向上が見られず、結果として雇用契約の解消へと進まざるを得ない場合には、そのような使用者側の取り組みが使用者側にとってプラスの材料になりますが、あくまで副次的なものというくらいの認識でいた方がよいかもしれません。
本件では、実際には使用者側での取組みがあったのに証拠が残っていなかったり、判決文には反映されていなかったりする可能性もあるのかもしれませんが、PIPを実施する前の段階で、具体的に原告のどのような部分に問題があって、どこまで達すればその問題をクリアしたことになるのかについて、適切に認識が共有されたうえでPIPの実施に至ったようには窺えません。
また、会社側での評価による目標達成度は1項目を除き80%未満だったとのことですが、評価基準や評価方法なども判決文からは不明です。
実施過程での面談や情報共有、フィードバックが不明なことについては判決文でも指摘されています。
本当に当該労働者を改善させようという意思があれば、これらの事項は当然に行われてしかるべきものと思われます。
時間と労力をかけてPIPを実施しても、解雇のための材料づくりであるという使用者側の意図が強く窺われると、裁判所からはネガティブに評価されてしまいます。
実施前に課題や目標(到達すべきゴール)、評価基準・方法についての認識をすり合わせ、実施期間中、実施後の各場面において、タイムリーなフィードバックや必要となる指導などのきめ細やかな対応をするように使用者側で意識して対応することが必要です。
この記事の監修者:平野 剛弁護士
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