有期雇用契約の高年齢者の契約更新に対する合理的な期待

有期雇用契約の高年齢者の契約更新に対する合理的な期待

 

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1. 雇止めの合理的な期待と高年齢者雇用

労働契約法19条2号は、「当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められる」場合(いわゆる「合理的期待」が認められる場合)、有期労働契約の雇い止めを行うためには、客観的合理的理由、社会通念上の相当性が必要になると規定しています。

合理的期待がない場合、有期労働契約は、期間の満了によって終了するのが原則となりますので、合理的な期待があるかどうかは非常に重要なポイントとなります。

そこで問題になるのが高年齢者の有期雇用契約です。

世の中には有期雇用契約で働いている高年齢者の方がたくさんいらっしゃいます。皆さんお元気ですが、いつかは仕事を辞める(辞めざるを得ない)日が来ます。

有期雇用契約においても定年(有期雇用契約において定年という概念は本来無いのですが、年齢更新上限という意味で使用します)を設定している会社があり、その場合は定年で退職してもらうことがあります。

一方、有期雇用契約の定年を設定していない場合、何歳で退職していただくかは悩ましい問題です。

元気な方は80歳でも働いていますが、いつかは体力的に難しくなる時期がきます。

高年齢者の有期雇用契約の雇い止めという難しい問題が現実に起きています。

私の知る限り、これまでこの問題に関する裁判例は無かったのですが、最近、有期雇用契約を締結した高年齢者の契約更新に対する合理的期待について判断した裁判例がありましたのでご紹介します。

 

2. S社事件(東京地裁令和3年2月18日判決)

事例

本件で被告になったのは、債権回収等を目的とする株式会社です。

原告になったのは、昭和24年生まれの男性です。

66歳の時、被告との間で有期労働契約を締結し、本社監査室で監査業務に従事していました。

被告との間の有期労働契約は、平成28年1月25日に交わされた後、平成28年4月1日~平成29年3月31日、平成29年4月1日~平成30年3月31日、平成30年4月1日~平成31年3月31日と更新しましたが、それ以降は契約を更新しませんでした。

これに対し、労働契約法19条の雇止め法理の適用を主張し、地位確認等を求める訴えを提起したのが本件です。

雇止め当時、原告の方は69歳でしたが、被告の就業規則には、有期雇用契約における定年制(年齢更新上限)に関する規定はありませんでした。

また、原告が被告に応募した際の求人票には、「雇用期間の定めあり」「3か月」「契約更新の可能性あり(原則更新)」と、被告との間で取り交わした雇用契約書には、「更新の有無契約を更新する場合がある」と書かれていました。

原告は、監査業務において関係各部署と感情的な衝突を繰り返し、怒鳴り合いの口論になることもしばしばありました。

原告の言動が原因の一つとなり回収部において内部監査が一年以上行われないことに発展しました。

被告が原告に注意指導をしても原告の態度は変わらず、その他の問題行動もあり(原告の居眠り、会社の備品を無断で持ち出そうとしたこと等)雇い止めを行うことになりました。

(2)裁判所の判断(社内の前例から70歳を超える契約までは(弱い)合理的な期待あり)

長いので要約しますと①過去の前例から70歳までの契約更新には合理的な期待は無いとはいえない②しかし70歳以降も当然に更新されるといえるほどの強い合理的な期待は無いという微妙な表現で判断しています(弱い合理的な期待とでも言うべき微妙な表現です)。

その上で、数々の問題行動から雇い止めには客観的合理的理由、社会通念上の相当性があるとして雇い止めは有効であると判断しました。

「原告は、被告との間で本件労働契約を合計3回にわたり更新し、3年2か月の間、おおむね週5日、1日8時間の勤務を継続していた。また、前記認定事実・・・のとおり、大会社である被告において内部監査体制の整備は法律上義務付けられているものであり、被告が大会社に該当しなくなる見込みがあると認めるに足りる証拠もないから、原告が担当していた監査業務は臨時的に設けられたものではなく常用性のある業務であり、基幹的業務に当たるともいえる業務である。

さらに、前記前提事実・・・並びに前記認定事実・・・のとおり、被告の求人票の雇用期間欄には『契約更新の可能性あり(原則更新)』と記載されている部分があり、原告に適用される就業規則には年齢による更新上限や定年制の規定はなく、原告は本件雇止め当時70歳には至っていなかった。

そして、本件労働契約締結時及び更新時並びに最後の更新後本件雇止めまでの間に、被告から原告に対し、更新上限及び最終更新並びに業務の遂行状況による雇止めの可能性等に関する具体的な説明があったとは認められない。

これらの事情からすれば、前記前提事実・・・のとおりの契約書の更新条件等の記載、前記認定事実・・・のとおり被告においてパート従業員以外に70歳を超えて雇用された労働者がいたとは認められないことなどを併せ考えても、原告において本件労働契約の契約期間の満了時(平成31年3月31日の満了時)に同契約が更新されるものと期待することがおよそあり得ないとか、そのように期待することについておよそ合理的な理由がないとはいえず、本件労働契約は労働契約法19条2号に該当する。

ただし、前記前提事実・・・のとおり本件労働契約の各契約書には更新の基準として勤務成績、態度(、健康状態、能力、能率、作業状況等を総合的に判断する旨記載されているのであるから、これらについて問題がある場合には更新されない可能性があることは原告にとっても十分に認識可能であることに加えて、原告の周りに現に70歳を超えてフルタイムの契約社員として勤務している者が存在したわけではないことからすると、原告が、平成31年3月31日の満了時に同契約が更新されることについて強度な期待を抱くことにまで合理的な理由があるとは認められず、また、平成31年3月31日の契約満了時以降当然に複数回にわたって契約が更新されるという期待を抱くことに合理的な理由があるとも認められない。」

 

3. 実務上の留意点

今後、超高齢化社会になり、60代後半、70代の雇用が当たり前の時代になります(すでになりつつあります)。

その場合にどこで区切りをつけるかは重要な問題になります。

上記事例からは、裁判所は高年齢者であるから契約更新の合理的な期待はあったとしても弱いものになる場合もあると判断しているように思えます。

就業規則に年齢の更新上限を設けることも一つの方法です。

その方が「申し訳ないですが、規則なので更新上限年齢に達したため契約更新ができません」と扱いやすくなり、相手の方も納得することが多いと思います。

仮に年齢更新の上限などが無いとしても、社内に前例の無い高年齢となった場合は、雇い止めのハードルも今回の裁判例のように相応に下がり、雇い止めが有効になりやすくなります。

このようなトラブルにならないことが一番ですが、万が一紛争になった場合は①社内の高年齢者雇用の前例(何歳まで雇用していたか)②雇い止めの理由を裏付ける証拠の有無などを踏まえて、退職の話し合いをした上で、物別れに終わった場合は雇い止めを行うかを判断することになります。

今後も類似の裁判例が出てくると思いますので注目したいと思います。

 

有期雇用契約の高年齢者の契約更新に対する合理的な期待には専門的な知識が必要です。

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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