違法な長期間に渡る自宅待機命令~愛情の反対は無関心~

「主治医面談に協力しない場合、診断書を受理しない」旨の就業規則の規定を有効と認め、休職期間満了退職を有効と認めた事例

 

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1. みずほ銀行事件(東京地裁令和6年4月24日判決)

今月は、自宅待機命令の適法性が争点となったみずほ銀行事件をご紹介いたします。各種報道でも、本件における自宅待機命令が「違法である」と判断されたことが大きく取り上げられ、企業の労務管理における重要な示唆を与える内容となっています。

2. 事実関係

(1) 原告の勤務状況

① D支店勤務(平成19年~平成24年)

原告は平成19年10月1日、被告と労働契約を締結し、D支店に配属。優秀な営業成績を上げ、複数回表彰を受けた。

一方で、上司への反抗的態度や従業員への厳しい言動が問題視され、改善指導を受けた。

② E支店勤務(平成24年~平成27年)

平成24年4月からE支店へ異動し、課長代理として勤務。

営業成績は引き続き優秀だったが、上司(G部長)への直接注意メール送信、同僚への威圧的態度(長時間立たせて詰問)などの問題行動が発覚。

上司や同僚から恐怖や不安を感じるとの訴えが相次ぎ、平成27年3月に本店で面談が行われ、改善指導が実施された。

③ H本部PB室勤務(平成27年~平成28年)

平成27年7月、営業現場から外され、H本部ウェルスマーケティング部PB室へ異動。

上司の指示に従わない、同僚を長時間立たせて説教する、高圧的な態度や暴言(例:「あなたは嘘つきだ」)などの行為が報告。

上司や同僚との関係改善が見られず、配置転換が検討された。

(2) 退職勧奨および自宅待機命令

① 退職勧奨(平成28年3月~4月)

平成28年3月25日、原告に対し退職勧奨が行われ、転職活動期間中は賃金を支払い、出社不要と伝えられた。

平成28年4月7日、再度退職勧奨が行われ、原告はこれを拒否した。その場で、自宅待機命令が発令され、1日2回の連絡義務が課された。

② 自宅待機命令(平成28年4月~令和2年10月)

出社義務は免除され、1日2回の連絡義務が課された。賃金は自宅待機期間中、年収約800万円程度が支給された。数か月後には図書館への外出が許可された。

9回の面談が実施され、原告は職場復帰を希望したが、勤務地(関西)や業務内容などの条件が合わない場合は明確な回答を避けた。

平成29年4月1日、原告は法人マーケティング部マーケティングチームに異動となったが、原告はその後も復帰先についての明確な回答を避け続けた。

原告は退職強要や嫌がらせを主張し、社内メールで抗議した。

(3) 内部通報

平成30年12月、原告は被告経営陣や労働組合幹部に「内部通報」を送信し、退職強要や自宅待機命令の違法性を訴えた。

被告は調査を実施し、「退職強要の事実はない」と結論付けた。

原告は謝罪や内容の公表を求めたが、双方の意見は平行線をたどり、交渉は進展しなかった。

(4) 懲戒処分および解雇

令和2年10月: 業務命令違反および無断欠勤を理由に厳重注意。

令和2年11月: 譴責処分。

令和3年2月: 出勤停止処分(1か月)。

令和3年5月: 原告に対し、業務命令違反、無断欠勤、企業秩序の破壊を理由に懲戒解雇を通知。

3. 争点に対する判断

(1) 業務命令違反・欠勤

被告の業務命令(就労意思、健康状態、欠勤理由の報告)は適法であり、労務提供の可否を確認する合理的な内容であった。

原告はこれに従わず、無断欠勤を繰り返した。

原告の行為は、就業規則70条1号(業務命令違反)・11号(無断欠勤)に該当すると認定。

(2) 解雇の有効性

原告は業務命令に違反し、無断欠勤を繰り返した。

被告は段階的な懲戒処分(厳重注意、譴責、出勤停止)を経ても改善が見られず、解雇に至った。

解雇は客観的合理性および社会的相当性を満たし、有効と認定。

(3) 自宅待機命令の違法性

・平成28年10月~令和2年10月の自宅待機命令は、社会通念上許容範囲を超えた違法な退職勧奨と認定。慰謝料330万円が相当。

・長期間の自宅待機命令は、通常想定し難い異常な事態である。

・退職勧奨後に自宅待機命令が続き、復帰先が提示されないまま長期間放置されたことから、実質的には退職勧奨が継続していたといえる。

・退職勧奨は任意でなければならず、強制にわたることは許されない。

・原告の勤務状況に問題があったことが退職勧奨のきっかけであり、原告が復帰先について明言を避けたことが長期化の一因といえる。

・平成28年8月9日の面談以降、原告には退職の意思がなく、具体的な復帰先の調整が開始されるべきであった。

・被告は同年10月頃までには、具体的な復帰先を原告に提示すべきであった。

・同年10月以降の自宅待機命令は、退職以外の選択肢を与えない状態を続けたものであり、社会通念上許容される限度を超えた違法な退職勧奨である。

・被告は原告に復帰先について特段の連絡をせず、復帰先を検討したことを裏付ける客観的証拠も存在しない。

・被告は原告の処遇方針を明確にせず、原告が抗議や内部通報を行っても迅速に対応しなかった。

・結果として、自宅待機命令は約4年半もの長期間に及び、その対応は不誠実であるといわざるを得ない。

4. 結論

解雇の有効性: 有効。

賃金請求権: 認められない。

不法行為: 自宅待機命令の一部違法性が認定され、慰謝料330万円が認められた。

原告のその他の主張: いずれも理由がない。

5. 実務上の留意点

(1) 合理的な理由の無い長期間の自宅待機命令は違法である

自宅待機命令は必要性が認められる場合に限り適法とされます。具体的な例としては、懲戒処分前の調査期間のための自宅待機命令、安全配慮義務の履行のための自宅待機命令、その他業務上の必要性がある場合が該当します。

また、自宅待機命令が適法とされるには、必要性があるだけではなく、期間が限定されていること、さらに給与が全額支払われること等が条件です。一方、不合理な理由や嫌がらせ目的で行われた場合、または必要以上に長期間続いた場合は違法となる可能性があります。

今回のような4年半に及び自宅待機命令は過去に例が無く異例なものです。理論上注目すべきは、退職勧奨の延長線上に自宅待機命令があるとして、違法な長期間の退職勧奨を続けたと構成したことです。自宅待機命令自体は、何かを強要したりするわけでもなく、かつ賃金を全額支払っておりますので、形式的に判断すれば、自宅待機命令自体を違法と判断とすることはなかなか難しいのではないかと私は考えていました。今回は退職勧奨拒否後、長期間の自宅待機命令を続けることは、違法な退職勧奨を続けることと同じであるという理論構成で慰藉料請求を認めました。

(2) 愛情の反対は無関心

問題社員への対応として「自宅待機」を選択する、あるいは選択したいといった相談を受けることは非常に多いです。なぜなら、自宅待機とする理由としては、「やらせる仕事がない」あるいは「仕事をさせるとトラブルを起こす」といった事情が背景にあるからです。しかし、「愛情の反対は無関心」であると言われるように、自宅待機という措置は結果として「憎しみ」を生みやすく、逆に深刻な労務トラブルへと発展してしまうことが少なくありません。

今回も4年半にわたる自宅待機命令が問題になりましたが、詳しい事情は分からないものの会社側は対象従業員に対して半ば無関心であったのかもしれず、それが深刻な問題に発展した可能性もあります。

(3) 退職させようとすればするほど退職しないが、仕事をしてもらおうとすればなぜか退職する

一方で、「仕事をしてください」「出社をしてください」と求めることで、意外にも対象従業員が出社をせず、そのまま退職に応じる(もしくは今回のように解雇有効となる)ケースが多く見られます。これは、「退職させようとすればするほど退職しないが、仕事をしてもらおうとすればなぜか退職する」という実務上よく見られる現象に合致します。

問われているのは会社の覚悟です。自宅待機命令のみでは問題を解決出来ません。私自身、このような事例を数多く体験してきましたが、「みずほ銀行事件」はまさにこの流れを実証したような事件であり、問題社員対応の実務において参考になる事例だと感じています。

 

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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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