通勤電車内の盗撮行為を理由とする懲戒解雇の有効性(2)

令和6年10月発行のニュースレターvol.125において、通勤途中の電車内での盗撮行為を理由とする懲戒解雇が無効とされた裁判例(名古屋地裁R6.8.8判決)をご紹介致しましたが、今月のニュースレターではその高裁判決(名古屋高裁R7.3.25判決)をご紹介致します。結論として、高裁では地裁判決が取り消され、懲戒解雇が有効とされました。


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1.事案の概要

事案としては以前お伝えした内容と同じです。
日本郵便に勤務する従業員(行為時点では郵便局郵便部課長)が、勤務時間外(通勤途上)に電車内で盗撮行為をし、迷惑防止条例違反により逮捕され、翌日釈放されました。被害者との間で被害弁償と被害届取下げといった示談が成立しています。事件については不起訴処分となり、報道はされませんでした
このような事案で一審被告(以下、単に「被告」といいます)は本件盗撮行為を理由に一審原告(以下、単に「原告」といいます)を懲戒解雇し、本件訴訟となりました。
被告の懲戒規定(懲戒標準)には、以下のような定めがありました。
「職務外の非違については、刑事事件により有罪とされた者は、『懲戒解雇~減給』とし、刑事事件により有罪とされた者以外の行為により、会社の信用若しくは名誉を棄損し、又は業務に支障をきたした者は、基本は『減給~注意』とし、重大なものは『懲戒解雇~停職』とする。」

2.裁判所の判断

⑴ 地裁判決

地裁判決では、被告において業務外の信用失墜行為について研修等で繰り返し指導していたこと等を認めたものの、示談が成立し不起訴となっていることや、懲戒標準では有罪以外の非違行為については基本として「減給~注意」とされていること等を踏まえ、懲戒解雇は無効と判断しました。

⑵ 高裁判決

前述のとおり、高裁判決は懲戒解雇を有効としましたが、その理由として以下のような点を挙げています。

ア 本件行為は、勤務時間外とはいえ、通勤途上の電車内で行われたものである上、小型カメラをリュックサック内に設置して盗撮しようとしたもので、態様からみて繰り返し行われていたことが窺われ、一審原告も令和4年の夏頃から同様の手口で盗撮していたと供述しているように、一過的なものではなく、極めて卑劣な行為である。

イ 盗撮行為は従前条例等により処罰されていたが、被害の増加、不特定多数の者に見られるという重大な危険性等から法律が制定され、厳罰化が図られ、本件行為の翌日に施行された。行為時は条例違反とはいえ、法制化までの盗撮に対する社会的非難の状況、被告の郵便事業という公共性、公益性の高さからすると、被告に対する社会的非難の強さは軽視できない

ウ 被告では業務外の信用失墜行為について研修等により繰り返し指導しており、飲酒運転・人身事故及び物損事故並びに盗撮、児童買春等の破廉恥事案について原則「懲戒解雇(退職手当一部不支給)」により措置する方針とし、ミーティング等で周知していた。被告においては、上記方針に従い、本件同種の盗撮行為をした職員に対して、有罪判決の有無、報道の有無にかかわらず懲戒解雇処分としていた。

エ 懲戒標準にいう重大な非違行為に当たるというべきであり、退職金を3割支給したことも踏まえれば、本件懲戒解雇について裁量権の逸脱はなく、社会通念上相当である。

3.まとめ

このように業務外の盗撮行為に対する懲戒解雇の有効性が争点となった事案で、地裁判決はこれを無効としましたが、高裁判決は有効としました。事実認定に違いはないため、それぞれの裁判所の評価の違いによって結論が分かれている点が注目されます。
地裁判決は、被告の懲戒標準において刑事事件で無罪となった場合、基本は「減給~注意」とされている点も理由としていましたが、高裁判決は本件行為は懲戒標準にいう「重大なもの」に当たるとして規定とも整合性をつけて判断しています。
私は、地裁判決を取り上げたニュースレターにおいて、飲酒運転や破廉恥事案については、世間や社内の見方も厳しいと思うので、従業員にも厳罰化を十分周知のうえ、懲戒解雇を含む厳しい処分をした場合は、有効と認めても良いのではないかと書きましたが、今回の高裁判決はそのような方向性に沿ったものといえます。
このような判決が積み重なれば、使用者としても社内外の信用維持のために厳罰化に向けた動きを取りやすくなるのではないかと思います。


この記事の監修者:岡 正俊弁護士


岡 正俊(おか まさとし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岡 正俊(おか まさとし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成13年弁護士登録。企業法務。特に、使用者側の労働事件を数多く取り扱っています。最近では、労働組合対応を取り扱う弁護士が減っておりますが、労働事件でお困りの企業様には、特にお役に立てると思います。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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