業務時間外の窃盗と懲戒解雇

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1 私生活上の非行と懲戒処分

私生活上で逮捕されたり、刑事事件を起こしたりしたことを理由に懲戒解雇できないか?という相談を受けることがあります。

「会社のルールを守れないことより、社会(刑法)のルールを守れない方が悪質ではないか?」と率直には思いますが、「悪質か否か」と「懲戒処分できるか否か」は別で考える必要があります。就業規則は24時間365日、従業員を規律するルールではないからです。

私生活上の非行について懲戒処分が可能か否かは、業務との関連性の有無や程度、社会的信用性の低下の有無、逮捕・勾留による欠勤(正当な理由のない欠勤)の有無や長短、社内秩序に与えた影響、損害の有無や程度、本人の反省の程度や過去の処分歴等を踏まえて判断することになります。

今回ご紹介するI事件(東京地裁令和6年3月8日判決)は、ある店舗の副店長の地位にあった従業員が、被害店舗の営業時間前に、同店舗に配置されていた販促物である洗濯用洗剤1点を取得したことについて窃盗罪に該当するとして懲戒解雇された事案です。

2 業務時間外の窃盗と懲戒解雇

この事案で会社側は、業務との関連性について「本件非違行為は人の財物を預かる銀行業務に携わる銀行員として決して許されない行為である」との指摘を、社内秩序に与えた影響について「副店長であり部店コンプライアンス管理者として社内においてより清廉性が求められる立場にあった」との指摘を、本人の反省の程度について「原告は、本件非違行為が不適切であることは認めるものの、窃盗罪に該当することまでは認めておらず、規範意識が欠けているといわざるを得ない」との指摘等をして、懲戒解雇は有効であると主張しました。

裁判所は、営業開始前に被害店舗で物品1個を取得した行為は、窃盗罪に該当し得る行為であると認定したうえで、懲戒解雇の相当性については「顧客の財物を預かる銀行業務に携わる銀行において副店長の職にあった原告が被告の信用を大きく失墜させかねない窃盗罪に該当する行為を行ったことは、厳しい非難に値するものである。実際にも、本件被害店やC店に、被告の銀行員による犯行であることが発覚するに至っており、被告への信頼を大きく失墜させたことも考慮すると、原告が懲戒処分を受けることは避けられないといえる。しかし、本件非違行為は、被告D店の近くで行われた窃盗事案とはいえ、出勤前に被告の業務とは関係のない中で行われた私生活上の窃盗であり、銀行員がその業務中に行った窃盗事案に比べれば悪質性が高いとはいい難い。」また「本件物品は、店頭を通行する際に手に取りやすい状態で販促物として配置されていたこと、本件物品は販促物でありそれほど高価なものではないこと、原告が本件被害店や被告等に対し迷惑をかける行為であったことを認め反省の態度を示し、本件非違行為を行ったその日のうちに同店に謝罪していること、同店も被害届を提出しないと判断していることが認められる。さらに、本件記録上、原告には同種行為による処分歴や前科等は認められない。」として、企業秩序維持の観点からみて、懲戒解雇より緩やかな処分を選択することも十分に可能であったといえ、本件非違行為のみを理由に最も重い懲戒処分である懲戒解雇を選択したことは、重きに失するといわざるを得ないとして、結論として懲戒解雇を無効と判断しました。

会社の立場としては、対外的な影響や社内での地位を考慮して厳しい処分を選択せざるを得ない状況だったかもしれません。しかし私生活上の非行であることや、窃盗した物の内容等からすると、懲戒解雇はやや厳しかったように思います。ただ副店長という立場としてふさわしいかどうかという問題は残りますので、降職や降格などを検討してもよい事案だったかもしれません。

この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士


岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
【Podcast】岸田鑑彦の『間違えないで!労務トラブル最初の一手』
【YouTube】弁護士岸田とストーリーエディター栃尾の『人馬一体』

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