母親の介護を理由に配転命令を拒否した労働者に対する懲戒解雇の有効性

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母親の介護を理由に配転命令を拒否した労働者に対する懲戒解雇について、配転を拒否する正当な理由がない等として、懲戒解雇を有効とした裁判例(東京地裁R6.8.30判決)をご紹介致します。

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1.事案の概要

被告は、自動制御機器の保守、販売等を目的とする会社であり、東京都内に本店(C本社)、西日本営業本部にD営業所がありました。

原告は、平成27年4月1日付けで被告との間で雇用契約を締結し、D営業所サービス課サービス係において勤務していました。原告は妻及び実母と同居していました。

被告は、令和4年3月8日付けで、原告に対し、同年4月1日をもって、C本社の交通営業本部フィールドサポート部フィールドサポート課への異動を発令する旨の内示を告知しましたが、原告は拒否しました。

被告は、令和4年9月6日付けで、同課サービス係勤務を命じる辞令を発令しました(本件配転命令)。さらに、同年10月24日付けで、原告に対し、同年11月9日より新任地で勤務ができるよう転勤を完了させること、同年10月末日午前中までに新任地での社宅候補地を総務部へ連絡することなどを命じる辞令(本件転勤命令)を発しました。

しかし、原告がこれに応じなかったことから、被告は原告を諭旨退職とすることにしましたが、原告が退職願を提出しなかったため、懲戒解雇しました

2.裁判所の判断

裁判所は、東亜ペイント事件最高裁判決を引用した上で、配転の業務上の必要性を肯定し、配転によって生じる原告の不利益について、特に原告が主張する原告母の状況を踏まえ、以下のように慎重に検討しました。

① 原告母は、月に1回程度通院していたものの、原告及び原告の妻がいずれも週5日程度は日中仕事をしていたため、おおむね単身で通院していた。
② 原告母は、長距離の歩行や重い物の運搬等は困難であったものの、要介護認定を受けておらず、実際に、食事、排泄、着替え、入浴等についての身体介護を要する状態にも至っておらず、医師からも身体的には安定している旨の診断を受けており、少なくとも原告及び原告の妻が仕事をしている日中の時間帯は単身で問題なく日常生活を送っていた
③ 原告又は原告の妻が原告母のために行っていたのは、ごみ出し、清掃、買い物等であった。
④ 原告又は原告の妻は、原告母の服用する薬の確認等も行っていたが、できていないこともあった。

裁判所は、これらの事情から、原告母が単身で生活することや家族3人で東京に転居することが直ちに不可能であったとは認めがたい上に、仮にこれらが不可能ないし著しく困難であったとしても、少なくとも、原告が原告母に対し行っていた身の回りの世話につき原告の妻が担うことは十分可能であったと考えられる以上、原告が単身赴任することが不可能ないし著しく困難であったとは認められないとしました。

また、原告に一定程度不利益が生じることは否定できないが、これらの負担は、勤務地限定合意をせずに勤務するに至った労働者においては、一定程度甘受すべきものとしました。

加えて、被告において単身赴任者に対し月1回の帰省のための費用を支給しており、経済面の負担について一定程度軽減が図られていることも踏まえれば、原告の不利益は通常甘受すべき程度を著しく超える程度のものであったと認めることはできないとしました。

裁判所はこのように判示し、本件配転命令、本件転勤命令を有効とし、正当な理由のない配転命令拒否について、企業秩序維持上重大な業務命令違反であるとし、一方、被告が何度も説得し、懲戒解雇回避のために努力したとして、手続面も相当性に欠けることはないとして懲戒解雇を有効としました。

3.まとめ

高齢化社会の中で介護が切実な問題になっており、育児介護休業法においても、労働者の配置における子の養育、家族の介護の状況への配慮が定められ(26条)、配転命令の効力について東亜ペイント事件最高裁判決の判断枠組みに変更はないものの、実際の案件の対応に当たっては、より慎重な検討、判断が必要になっていると思います。

慎重な検討、判断においては、労働者の事情を詳しく聞き取ること、労働者に対する代替案の提案、可能な範囲の不利益緩和措置の実施等がポイントになってくると思います。

本件でも、裁判所は、原告の家庭・介護の状況について詳しく認定し、慎重に判断していますが、被告会社側の対応については妥当なものと評価していると思います。

結論としても相当なものだと思いますので、労働者が家族の介護を理由に配転を拒否したような事案において参考になる裁判例だと思います。

 

この記事の監修者:岡 正俊弁護士


岡 正俊(おか まさとし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岡 正俊(おか まさとし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成13年弁護士登録。企業法務。特に、使用者側の労働事件を数多く取り扱っています。最近では、労働組合対応を取り扱う弁護士が減っておりますが、労働事件でお困りの企業様には、特にお役に立てると思います。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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