業務委託契約書とは?作成方法や注意点、雇用契約との違いで意識するべきポイントを弁護士が解説

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業務委託契約書とは、企業が外部の個人や法人に業務を委託する際に締結する契約書のことです。

この記事では、業務委託契約書の基本的な作成方法や流れ、契約締結時の注意点について解説します。

民法上の位置づけから、労働契約や派遣との違いも明確にし、トラブルを避けるためのポイントを説明します。

契約書の例を交えながら、具体的な作成の流れを理解できます。

目次

そもそも業務委託契約とは?契約書の基本を解説

業務委託契約とは、特定の業務を外部の事業者へ委託する際に交わされる契約です。

その主な目的は、自社のリソースでは対応が難しい専門的な業務を外部の知見を活用して遂行することにあります。

契約書の作成にあたっては、委託する業務の内容や成果物、報酬などの基本要件を明確に定めることが不可欠です。

業務委託契約には、仕事の完成を目的とする「請負契約」と、業務の遂行自体を目的とする「委任契約・準委任契約」という類型が存在します。

継続的な取引では、個別の発注に共通する事項を定めた基本契約書が用いられることもあります。

法律上の「業務委託契約」は存在しない?2つの契約類型

民法には「業務委託契約」という名称の契約は定められておらず、実務上の呼び名に過ぎません。

法律上は、その契約内容の実態に応じて「請負契約」または「委任契約・準委任契約」のいずれかに分類されます。

仕事の完成を目的とする場合は請負、業務の遂行そのものを目的とする場合は委任・準委任と判断されます。

また、印紙税法上、契約書の種類によって収入印紙の要否が異なります。

例えば、システム開発など成果物が明確な請負契約に関する契約書は2号文書に該当し、コンサルティング契約のような継続的取引の基本契約書は7号文書に該当する場合があるため、契約類型を正しく理解することが重要です。

仕事の完成を目的とする「請負契約」

請負契約とは、受注者が特定の「仕事の完成」を約束し、発注者がその仕事の結果に対して報酬を支払う契約形態です。

この契約の核心は、ウェブサイト制作やシステム開発のように、目に見える成果物を納品することにあります。

受注者は、契約で定められた仕様通りの成果物を完成させ、納品する義務を負います。

原則として、仕事が完成しなければ報酬を請求することはできません。

もし納品された成果物に欠陥があった場合、発注者は受注者に対して修正や損害賠償を請求する権利を持ちます。

このように、請負契約では成果物の完成責任が受注者に課せられる点が大きな特徴です。

業務の遂行を目的とする「委任契約・準委任契約」

委任契約および準委任契約は、仕事の完成ではなく、特定の業務を遂行すること自体を目的とします。

両者の違いは、委託する業務が法律行為か否かであり、弁護士への訴訟代理の依頼などが委任契約、コンサルティングやシステム運用保守といった事実行為の委託が準委任契約に該当します。

この契約形態では、受注者は善良な管理者の注意をもって業務を処理する義務を負いますが、必ずしも特定の結果を出すことまでは求められません。

報酬は、業務を行った期間に応じて毎月支払われたり、処理した業務量に応じて都度支払われたりするのが一般的です。

業務委託契約と雇用契約の決定的な違い

業務委託契約と雇用契約は、当事者間の関係性において根本的に異なります。

雇用契約が、会社の指揮命令下で働く「労働者」と「使用者」という従属的な関係であるのに対し、業務委託契約は対等な事業者間の契約です。

この違いにより、労働者を保護するための法律の適用が大きく変わります。

例えば、雇用契約では労働基準法に基づき、有給休暇の付与や労災保険の適用、勤務時間の上限などが定められていますが、業務委託契約の受注者にはこれらの保護が及びません。

指揮命令関係の有無が最も重要な判断基準

業務委託契約と雇用契約を区別するうえで最も重要な基準は、発注者と受注者の間に「指揮命令関係」が存在するかどうかです。

雇用契約では、使用者が労働者に対して業務の進め方、場所、時間配分などについて具体的な指示・管理を行います。

一方、業務委託契約では、受託者は独立した事業者として自らの裁量で業務を遂行するため、委託者から具体的な指揮命令を受けることはありません。

たとえ契約書の名称が「業務委託契約書」であっても、実態として指揮命令関係が認められれば、労働契約と判断される可能性があります。

労働基準法をはじめとする労働者保護法の適用の違い

雇用契約のもとで働く労働者は、労働基準法、労働契約法、最低賃金法といった労働者保護法の適用を受けます。

これにより、賃金、労働時間、休日、解雇などに関して法律上の保護が与えられます。

しかし、業務委託契約における受託者は、独立した事業者とみなされるため、これらの法律の対象外となります。

そのため、原則として最低賃金の保障や時間外労働の割増賃金、解雇予告などのルールは適用されません。

国(厚生労働省)は、形式上は業務委託でも実態が労働者である「偽装請負」を問題視しており、契約の実態に基づいた判断が求められます。

トラブル防止に不可欠!業務委託契約書を作成する目的

業務委託契約は口頭でも成立しますが、契約書を作成しない場合、後から「言った、言わない」の水掛け論となり、深刻なトラブルに発展するリスクが高まります。

契約書を作成する最大の目的は、委託する業務内容、報酬、納期といった双方の合意事項を書面で明確にし、権利と義務を確定させることにあります。

契約書がないと、報酬が予定通りにもらえない、想定外の業務を要求されるといったリスクが生じます。

契約書は、こうしたトラブルを未然に防ぎ、万が一の紛争時には自らの主張を証明する証拠となるという大きなメリットがあります。

【発注者側】業務範囲と責任の所在を明確化するため

発注者(委託者)が契約書を作成する目的は、まず委託する業務の範囲を明確に定義することにあります。

業務内容を具体的に記載することで、契約範囲外の業務を依頼していないことを示し、追加費用の発生を防ぎます。

また、成果物に欠陥があった場合に受注者が負う「契約不適合責任」の内容、期間、範囲をあらかじめ定めておくことも重要です。

これにより、品質に問題があった際の対応がスムーズになり、責任の所在が明らかになります。

契約書は、予期せぬコスト増や業務の遅延といったリスクを管理し、安定した事業運営を行うために不可欠です。

【受注者側】報酬の未払いや一方的な契約解除を防ぐため

受注者(受託者)にとって契約書は、自らの立場と権利を守るための重要な文書です。

最も重要なのは報酬に関する条項で、金額、計算方法、支払期日、支払方法を明確に記載することで、報酬の未払いや減額といったトラブルを防ぎます。

契約書なしで業務を進めてしまうと、これらの点で極めて弱い立場に置かれかねません。

また、契約期間や中途解約に関する条件を定めておくことで、発注者からの一方的な都合による契約解除のリスクを低減させることができます。

業務内容を具体的に定めることは、スコープ外の作業を要求された際に、正当に断る根拠にもなります。

業務委託契約書の作成方法と基本的な流れ

業務委託契約書を締結するまでの基本的な作り方と流れは、まず当事者間で業務内容や報酬などの条件を協議し、合意形成を図ることから始まります。

次に、その合意内容に基づいて契約書の案を作成します。

作成された案を相手方が確認し、必要に応じて修正協議を重ね、最終的な内容を確定させます。

双方が合意したら、契約書を印刷・製本し、当事者である甲と乙が署名または記名押印して契約締結となります。

契約締結のタイミングは、原則として業務開始前に行うことがトラブル防止の観点から重要です。

原則として業務を依頼する側(委託者)が作成する

業務委託契約書をどちらが作成すべきかについて法的な決まりはありませんが、実務上は業務を依頼する委託者(発注者)側が初案を作成するケースが一般的です。

これは、委託者が業務内容や自社が負うリスクを最もよく理解しているため、自社の意向を反映した契約書案を作りやすいからです。

提示された契約書案をもとに、受注者が内容を確認し、修正の要望を出す形で交渉が進みます。

契約交渉の前段階で取り交わされる見積書や発注書の内容が、契約書作成の基礎情報となることも多いため、見積の段階から契約条件を意識しておくことが望ましいです。

テンプレート(雛形)を活用する際の注意点

契約書作成の際に、インターネットで公開されているテンプレートやひな形を利用することは効率的です。

法務省が提供するモデル契約書など、公的機関のサンプルは信頼性が高く参考になります。

しかし、これらの雛形はあくまで一般的な取引を想定した簡易版であり、個別の契約内容に完全に合致するとは限りません。

テンプレをそのまま使うと、自社の取引実態にそぐわない条項や、不利な内容が含まれているリスクがあります。

テンプレートは契約書の骨子を作成するためのたたき台として活用し、必ず自社の具体的な状況に合わせて内容を修正・追記することが必要です。

自社での作成が難しい場合は弁護士など専門家へ依頼する

取引金額が大きい、内容が複雑、あるいは法的なリスクが高いといった場合には、自社のみで契約書を作成するのではなく、弁護士などの専門家に作成を依頼するか、作成した書面のリーガルチェックを依頼することが推奨されます。

専門家は、潜在的なリスクを洗い出し、取引の実態に即した適切な条項を提案してくれます。

料金は発生しますが、将来起こりうる紛争を未然に防ぐことができるため、結果的にコストを抑えることにつながります。

特に相手方から提示された契約書の内容に少しでも不安を感じる場合は、安易に署名せず、一度リーガルチェックを受けるべきです。

業務委託契約書に盛り込むべき12の重要項目

業務委託契約書を作成する際には、後々のトラブルを防ぐために必ず含めるべき重要な記載事項が複数あります。

業務内容や報酬といった基本的な条件はもちろん、成果物の権利の帰属や秘密保持義務など、当事者間の権利関係を明確にするための条項が不可欠です。

少なくとも10項目以上のポイントを押さえ、それぞれの文言を取引の実態に合わせて具体的に定めることが求められます。

請求書の発行ルールといった細かな事務手続きについても、契約書内で規定しておくとスムーズです。

1. 委託する業務の具体的な内容

委託する業務の内容は、契約の根幹をなす最も重要な項目です。

後日の解釈のずれを防ぐため、「Webサイト制作」や「清掃業務」といった抽象的な表現に留めず、可能な限り具体的かつ明確に記載します。

例えば、Webサイト制作であれば対象ページ、実装機能、デザインの範囲などを定義します。

システム開発、ソフトウェア設計、建築設計、営業代行、研修講師、翻訳、不動産の賃貸管理、運送、警備など、業務は多岐にわたります。

YouTube動画の編集業務であれば、編集範囲や修正回数などを特定することで、業務の範囲を確定させ、追加業務との区別を明確にします。

2. 成果物の仕様と納品・検収の方法

仕事の完成を目的とする請負契約では、成果物が満たすべき品質や機能(仕様)を詳細に定めることが不可欠です。

仕様が曖昧だと、完成後に「イメージと違う」といったトラブルが生じやすくなります。

あわせて、成果物をいつまでに(納期)、どのような形式で(納品方法)引き渡すのかを明記します。

納品後、委託者が成果物を検査する「検収」についても、その期間、方法、合格基準を定めておくことが重要です。

検収期間内に委託者から合否の連絡がなかった場合に、成果物が合格したものとみなすといった規定を設けることで、支払いの遅延を防ぐことができます。

3. 報酬額、計算方法、支払条件

報酬に関する条項は、金銭トラブルを回避するために極めて重要です。

報酬の金額(税抜きか税込かも明記)はもちろん、「月額固定」「成果報酬型」「時間単価」といった計算方法を具体的に定めます。

業務の性質によっては、単価を設定する場合もあるでしょう。

支払条件として、支払時期(例:検収合格日の属する月の翌月末日)と支払方法(例:銀行振込)も明確に記載し、振込手数料をどちらが負担するのかも決めておきます。

契約範囲を超える追加業務が発生した場合の報酬についても、あらかじめ取り決めを設けておくと安心です。

無償(0円)の場合でも、その旨を明記します。

4. 成果物の知的財産権(著作権など)の帰属

デザイン、ソフトウェア、記事コンテンツなど、業務の過程で著作権をはじめとする知的財産権が発生する成果物が作られる場合、その権利の帰属先を明確に定める必要があります。

法律上、特段の合意がなければ、知的財産権は制作者である受託者に帰属するのが原則です。

そのため、発注者である委託者が成果物を自由に使用・改変するためには、契約書に「成果物に関する一切の知的財産権は、報酬の支払いをもって受託者から委託者に移転する」といった譲渡条項を設けることが不可欠です。

この知的財産権の帰属に関する規定は、将来の利用範囲を左右する重要な項目です。

5. 第三者への再委託は可能か

受託者が委託された業務の全部または一部を、さらに別の事業者(第三者)に委託することを再委託といいます。

委託者としては、特定のスキルや実績を信頼して依頼していることが多いため、知らないうちに業務が第三者に丸投げされる事態は避けたいと考えるのが通常です。

そのため、契約書では再委託を原則禁止としたり、「委託者の事前の書面による承諾を得た場合に限り再委託できる」といった制限を設けたりするのが一般的です。

再委託を許可する場合でも、再委託先の行為について受託者が全責任を負うことを明記しておくべきです。

6. 秘密保持義務に関する取り決め

業務を遂行する過程で、委託者の顧客情報や技術情報、受託者のノウハウなど、相手方の重要な秘密情報にアクセスする機会が生じます。

これらの情報が外部に漏洩すれば、両当事者に深刻な損害をもたらす可能性があります。

そのため、契約書には秘密保持義務に関する条項を設けることが不可欠です。

どの情報が秘密にあたるのかの定義、目的外使用の禁止、情報管理の方法、契約終了後の義務の存続期間などを定めます。

別途、秘密保持契約書(NDA)を締結することもありますが、業務委託契約書に含めるのが一般的です。

7. 禁止事項や競業避止義務

契約期間中および契約終了後の一定期間、受託者の特定の行為を制限するために禁止事項を定めることがあります。

その代表例が「競業避止義務」です。

これは、受託者が委託者の事業と競合する事業を自ら行ったり、競合他社に就職・協力したりすることを禁止するものです。

また、委託者の従業員や取引先を引き抜く行為の禁止なども考えられます。

ただし、これらの条項は受託者の職業選択の自由を制約するため、制限する期間、地域、業務範囲などが合理的でないと、公序良俗に反し無効と判断される可能性がある点に注意が必要です。

8. 損害賠償の範囲と上限

契約当事者の一方が、契約違反や業務上の過失によって相手方に損害を与えた場合の賠償責任について定めます。

万が一の事態に備え、損害賠償を請求できる範囲(直接的な損害のみか、事業機会の損失といった間接的な損害も含むか)を明確にします。

特に受託者側にとっては、負うリスクを限定するために、賠償額に上限を設けることが重要です。

例えば、「本契約に関連して生じた損害賠償額は、帰責事由の原因となった個別契約に基づき委託者から受領済みの委託料の総額を上限とする」といった形で、上限額を設定することが一般的です。

9. 契約期間と更新手続き

契約の有効期限、いつからいつまで契約が有効なのかを明確に定める必要があります。

「本契約の有効期間は、契約締結日から1年間とする」のように、開始日と終了日を具体的に記載します。

継続的な取引が想定される場合は、契約期間満了後の更新手続きについても定めておきます。

「期間満了の1ヶ月前までにいずれの当事者からも更新しない旨の書面による通知がない場合、本契約は同一条件でさらに1年間自動的に更新されるものとし、以後も同様とする」というように、自動更新の条件を明記することで、契約関係の安定性を図ることができます。

10. 契約を解除できる条件

契約期間の途中であっても、相手方に契約違反などの重大な問題が生じた場合に、契約関係を終了させるための条件を定めます。

これを契約解除条項と呼びます。

一般的に、報酬の支払いが著しく遅れた場合、秘密保持義務に違反した場合、相手方が破産手続きを開始した場合などが解除事由として挙げられます。

これらの事由が発生した際に、催告をすることなく直ちに契約を解除できる「無催告解除」の規定を設けておくことで、問題発生時に迅速に対応し、自社の損害拡大を防ぐことが可能になります。

中途解約に関するルールを明確にすることは、双方にとって重要です。

11. 反社会的勢力の排除条項(暴排条項)

現代のビジネス取引において、反社会的勢力の排除条項(反社条項)を契約書に盛り込むことは、コンプライアンス上、必須となっています。

この条項は、契約の当事者双方が、自身および役員などが暴力団、暴力団員、その他これらに準ずる反社会的勢力ではないこと、また、これらの勢力と一切関係がないことを表明し、保証するものです。

万が一、相手方が反社勢力であることが判明した場合や、反社会的な行為を行った場合には、催告することなく直ちに契約を解除できる旨を定めます。

これにより、企業としての社会的責任を果たし、不当な要求などのリスクから自社を守ります。

12. 紛争時の合意管轄裁判所

万が一、契約内容をめぐって当事者間でトラブルが発生し、話し合いで解決できずに訴訟へ発展した場合に備え、第一審の裁判をどの裁判所で行うかをあらかじめ合意しておく条項です。

これを合意管轄条項といいます。

この定めがないと、民事訴訟法の原則に従い、相手方の住所地を管轄する裁判所で訴訟を行うことになり、自社から遠方の場合は移動や費用面で大きな負担となります。

そのため、通常は自社の本店所在地を管轄する裁判所(例:自社が奈良県にあれば「奈良地方裁判所」)を専属的合意管轄裁判所として指定するのが一般的です。

【立場別】契約書を作成・確認する際の重要チェックポイント

業務委託契約書は、委託者と受託者という異なる立場から内容を確認する必要があります。

双方の利害が必ずしも一致しないため、自らにとって不利な条項がないか、守るべき権利が確保されているかという視点でのチェックが欠かせません。

契約書は取引の基本ルールを定めるものですから、署名・押印する前に、それぞれの立場で重要となるチェックポイントを慎重に確認し、必要であれば修正を求める姿勢が重要です。

以下で、立場別の具体的な確認事項を解説します。

発注者(委託者)側が注意すべき3つのポイント

発注者が契約書を確認する際、第一に「委託業務の範囲」が具体的かつ網羅的に記載されているかをチェックします。

範囲が曖昧だと、意図した成果を得られない可能性があります。

第二に、「成果物の知的財産権」が完全に自社へ移転する条項になっているかを確認します。

著作者人格権を行使しない旨の合意も重要です。

第三に、「秘密保持義務」と「損害賠償」の条項が、自社の情報を保護し、万一の損害を適切に填補できる内容になっているかを確認します。

受注者(受託者)側が確認すべき3つのポイント

受注者が契約書を確認する際、最優先でチェックすべきは「報酬」に関する条項です。

金額、計算方法、支払サイトが妥当か、経費の負担はどうなるかを細かく確認します。

次に、「業務の範囲と責任」が過度に重くなっていないかを検証します。

無制限の修正義務や、過大な損害賠償上限が設定されていないか注意が必要です。

最後に、「契約解除条項」が一方的に不利でないかを確認します。

些細な理由で契約解除されないよう、解除事由が限定されているかを見ます。

フリーランスや個人事業主との契約で特に気をつけるべきこと

企業がフリーランスや個人事業主と契約を結ぶ場合、いくつかの重要な注意点があります。

特に「フリーランス新法」の施行により、フリーランスや個人事業主に対する保護が強化されており、企業側も法を遵守した契約締結が求められます。

具体的には、フリーランスに責任がないのに、①成果物の受領拒否、②一方的な報酬の減額、③不当な返品をすることは禁じられています。

また、④著しく低い報酬を定める「買いたたき」**や、⑤自社製品の購入強制なども禁止です。

さらに、報酬の支払いにもルールが設けられました。給付を受領した日(納品日)から60日以内に支払期日を設定し、期日内に支払う必要があります。

これにより、フリーランスの収入の安定化を図ります。

また、契約形態が「業務委託」であるにもかかわらず、実態が「雇用」と判断されないようにすることも注意が必要です。

このように判断されると、企業は労働基準法上の使用者責任を負い、未払い賃金や残業代の支払い、さらには個人に対する社会保険料の負担を求められる可能性があります。

具体的には、指揮命令関係を発生させないように注意が必要です。

例えば、フリーランスに対して出退勤時間の指定、業務遂行方法の詳細な指示、業務場所の指定などは避けるべきです。

報酬についても、労働時間に応じたものではなく、成果物や業務の達成度に応じた設定が望ましいです。

特に単発業務型で依頼する場合でも、契約書の内容が実態と乖離しないように注意が必要です。

また、フリーランスや個人事業主が副業として業務を請け負う場合、本業の就業規則に違反しないかなど、事前に確認を促すこともトラブル回避につながります。

なお、海外のフリーランスと英語で契約を結ぶ際は、準拠法を日本の法律に指定することや、紛争解決のための管轄裁判所を日本に設定することが重要です。

これにより、将来的な法的なトラブルが発生した際に、自社に有利な形で解決を進めやすくなります。

契約書には、日本語と英語の両方で作成し、どちらの言語を正本とするかを明記することも検討すべきです。

これらの点を踏まえ、フリーランスや個人事業主との契約では、業務委託契約書の内容を細部にわたり精査し、実態との整合性を常に確認することが不可欠です。

まとめ

業務委託契約書は、発注者と受注者の間の合意内容を記録し、双方の権利と義務を明確にするために不可欠な文書です。

その書き方においては、委託する業務の範囲、報酬の金額と支払条件、成果物がある場合の知的財産権の帰属、秘密保持義務など、多岐にわたる項目を具体的に定める必要があります。

契約当事者の人数にかかわらず、取引の実態に合わせて内容を精査し、たとえ略式のものであっても、後日の紛争を防ぐために書面として合意内容を残すことが求められます。

適切な契約書の作成と締結が、円滑な業務遂行の基盤となります。

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ご相談お待ちしております。

 

この記事の監修者:樋口陽亮弁護士


弁護士 樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

【プロフィール】

出身地:
東京都。
出身大学:
慶應義塾大学法科大学院修了。

2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。経営法曹会議会員。
企業の人事労務関係を専門分野とし、個々の企業に合わせ専門的かつ実務に即したアドバイスを提供する。これまで解雇訴訟やハラスメント訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件など、多数の労働事件について使用者側の代理人弁護士として幅広く対応。人事労務担当者・社会保険労務士向けの研修会やセミナー等も開催する。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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