経済補償金の相場

労働審判の活用による局面打開

中国では退職事由によっては、使用者に一定の経済補償金の支払い義務が発生する。労働契約法第47条第1項によれば、経済補償金は労働者が本使用者に勤務していた年数に照らし、1年毎に賃金1ヶ月分を基準として労働者に支払われる。

いわゆるリストラの場合は、多くの場合、使用者から退職勧奨を行う。使用者の退職勧奨により退職した場合も経済補償金が発生する。

ただし、リストラの場合は円満に解決するため法定基準を上回る水準で経済補償金を支払うことが多い。

一概に言えないが、筆者らの経験した事例では、例えば上海では法定の経済補償金に加えて1ヶ月分の賃金をプラスするくらいではなかなか円満に退職してもらえず、2ヶ月分の賃金をプラスするくらいであれば何とか合意退職が成立する場合もある、できれば3ヶ月分の賃金をプラスしたほうが早期に解決できる可能性が高い。

しかし、例えば、同じ会社で過去に退職した従業員に対し、法定の経済補償金に加えて3ヶ月分の賃金をプラスして支払っていた事例があるのであれば、最低でも3ヶ月分の賃金をプラスして支払わなければならない。

中国人従業員のネットワークは、日本人が想像する以上に広く張り巡らされており、ほぼ全員の従業員が過去の退職時の経済補償金の水準を知っているからである。経済補償金の交渉時に「2年前に◯さんが退職した時は、法定の経済補償金にプラスして3ヶ月分を支払ったはずだ。私も最低プラス3ヶ月分が欲しい」と言われることがある。

また、例えば、上海工場の経済補償金支払金額の前例を広州の工場の従業員が知っている場合も多くある。中国は広いが、従業員のネットワークはあまり距離と関係がない。

経済補償金の支払い時には前例を調査する必要がある。

また、多くの人員を削減する場合、予算が許される最大範囲で、経済補償金の支払水準を事前に決め、従業員に一定の基準(多くの場合一律の上乗せ)で支払う方法を提案したほうがよい。

一定の基準を設定せず、場当たり的に支払水準を設定すると(ごねる従業員には大目に支払う等)、従業員に不平等を感じさせ、集団紛争に突入する恐れがある。

また、従業員にごね得の印象を与えないため、プラスαの基準を決め発表した後に動かさないのが原則である。そのため、実務では、人員削減を行う際に合意解除の補償案のみでなく、合意できない場合に取れる法的手段も用意しておくのが一般的である。

また、従業員側は、会社側が提示した基準以上に経済補償金を獲得できると思っていることが多いので、決して予算を多めにしてプラスαを多く払えばスムーズに行くとは限らない。

プラスαは上記の要素を含め総合的に判断する必要がある。また、単なるプラス何ヶ月の補償案では、勤続年数の長い人と短い人がもらえるプラスαは同じであると、不平等を感じる。

そのため、予算範囲内で従業員の勤続年数を配慮した形で補償案を作ることがある。

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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

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