長期間の連日勤務を見過ごすことの違法性

「長期間の連日勤務を見過ごすことの違法性」

長期間にわたる連続勤務を見過ごしてやめさせなかったことが不法行為に該当するかが問題となった裁判例(東京地裁令和5年6月29日判決)をご紹介します。

 

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1. 事案の概要

本件の被告会社は、テレビ番組の企画制作の受託等を事業とする株式会社です。

原告は被告に入社後、主にテレビ番組の制作業務に従事しており、平成29年10月に総務部に異動しました。

異動の直前に、原告が自ら売り込みテレビ局から受注した番組(本件番組)の制作を担当することが決まり、総務部の業務も行いつつ本件番組の制作(担当者は原告のみ)にも従事しました。

本件番組は当初放送予定の平成30年1月までに完成せず、1月26日頃、原告が総務部長に対して報告した予定では、2月中旬から3月下旬までの期間は、午後7時までは基本的に総務部の業務を行い、日中に制作業務を行うのは月に数日間のみとされていました。

しかし、本件番組の制作が遅延し、2月8日、原告は総務部長に対し、翌9日以降、有給休暇を取得して制作業務を行うことを申し出ましたが、総務部長はこれを制止し、同月21日までの数日間について、総務部の仕事から外れて制作業務に専念するよう指示しました。

同月22日、原告は総務部長に対し、同日から3月22日まで制作業務に専念することを要望し、被告は、2月24日から総務部の業務を外れて制作業務に専念することを指示しました。

同月23日に原告が総務部長らにした報告では、同日から3月5日まで土日も含めて1日も休まず連続して出張、取材及び編集を行うスケジュールになっていました。

3月2日、総務部長は原告に対し、勤怠システムで2月分の労働時間の報告がされていないことを注意し、3月5日頃、原告から2月分の報告を受けました。

その報告では、原告の所定時間外労働が109.75時間を超えていました。

そこで、総務部長は、制作業務に専念させ環境を整えて所定時間外労働が65時間を超えることがないよう注意したのに、労働時間をまとめて報告した上、上記の長時間労働を報告することは受入れられない旨注意しました。これを受け、原告は勤怠システムにおいて、所定時間外労働が65時間となるよう訂正しました。

ただし、訂正後でも、2月4日以降、原告が休日を取得せず連続勤務をしていることが示されていました。

3月14日、原告が総務部長ら提出したスケジュールでは、同月6日から23日までの期間、土日を含めて1日も休まず連続して、編集、打合せ、オンエア対応などを行う予定となっていました。

総務部長は、同月15日、本件番組のオンエア翌日(同月19日)から総務部の業務に戻るよう指示するメールを送りました(調整の結果、同月21日から総務部の業務に復帰)。

同月、原告が本件システムで報告した労働時間では、同月1日から同月23日まで休日のない連続勤務となっていました。

なお、本件番組は同月18日にオンエアされ、原告は、同月21日から総務部に復帰しました。

同日以降、原告は、午後7時以降などに本件番組の残務処理を行いました。

同年5月14日、原告は不眠、首の圧迫感等を訴え、病院を受診し適応障害と診断されました。

 

2. 裁判所の判断

裁判所は、原告が平成30年2月4日から3月23日まで48日間連続勤務を行ったこと、同年2月及び3月の原告の法定時間外労働及び法定休日労働の合計がそれぞれ100時間を超えていることを指摘し、「使用者が、労働者に対し、このような勤務を余儀なくさせることは、違法というよりほかはない」と述べました。

また、上司の総務部長がとるべき対応について、「原告から、平成30年3月5日までに、本件システムにより同年2月4日から同月末日まで連続勤務した旨の報告を受けた上、同年2月23日及び同年3月14日に、同年2月23日から同年3月23日まで1日も休まず連続して勤務する内容のスケジュール報告を受けており、少なくとも、同年3月14日の時点においては原告が1箇月以上連続勤務を行っていることを知り得たといえる。この時点において、被告としては、原告の補助をさせる者を配置するか、●●テレビと協議して納期を伸ばすといった方法で、原告の負担を軽減すべきであった」と説示しました。

そのうえで「被告には、労働時間を適正に把握し管理する義務があるのにこれを怠り、…48日間連続勤務を行うことを余儀なくさせたものであり、不法行為が成立する」と判断しました。

慰謝料額については、上記不法行為が適応障害の発病の基盤となったとの認識を示したうえで、治療内容、期間及び頻度を考慮して原告の請求額どおり100万円としました。

 

3. 段取りが上手ではない労働者ほど丁寧に管理を!

本件は労働事件の主要論点のフルコースと言えるような事件で、今回取り上げたテーマは判決文のうちのごく一部です。

想像するに、原告は仕事の段取りに難があったと思われ、そのような中で自ら取ってきた制作業務を何としてもやり遂げたいとの思いのもと、ストップされるのをおそれて上司への進捗状況の報告を必ずしも十分に行わず、結果として長期間にわたって連続勤務をすることになったのではないかと推測されます。

会社としても、原告の業務管理の難を認識しつつ、ある程度の期間、制作業務に専念させるという配慮をしつつも、原告が受注してきた番組でもあるので、具体的な取組みにまでは立ち入らず、本人に委ねていたものと思われます。

テレビ番組の制作という業務の性質上、どうしても労働時間が長くなりがちで、本件当時の業界の認識としては、この程度のことはあり得るというものだったのかもしれませんが、やはり1か月半超も休日なく連日勤務しているということは異常だと評価されてしまいます。

本件では本人が事後申告をしたこともあり、会社側でその信憑性に疑問を抱いていたこともあったのかもしれませんが、本件の判決も説示しているとおり、少なくとも3月に入って勤怠システム記録や本人からのスケジュール報告によって、記録上明らかに過重労働であると認識し得た時点において、会社として補助者を入れるなどの原告の負担軽減のための措置をとるべきことは不可欠だったのは間違いありません。

本件は労働時間の上限規制の導入前の時期のものであり、現在では多くの企業において労働時間の状況について適正に管理把握し、労働時間が一定の時間数に達するとアラートが出る仕組みなどを取り入れて長時間労働の防止を図っている企業も多いと思います。

本件のように長時間労働であることを記録上認識し得るのに対応しないと、対応しないこと自体(メンタル不調をきたしたことについてではなく)が不法行為として違法と判断され、割増賃金に加えて相応額の慰謝料の支払まで命じられ得ることがあります。

日々の労働管理の重要性を改めて認識させられます。

 

長期間の連日勤務を見過ごすことの違法性には専門的な知識が必要です。

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:平野 剛弁護士


平野 剛(ひらの たけし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 平野 剛(ひらの たけし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成15年弁護士登録。労使紛争について、専ら経営者側の代理人として、各種訴訟(解雇事件、雇止事件、労災民事事件、思想差別事件、残業代請求事件等)、労働委員会での手続き、団体交渉等に携わってきました。
労働事件以外にも、倒産関係事件、会社法関係事件、建築紛争、医療事故事件、製造物責任訴訟等、広く民事事件を取り扱ってきました。

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