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パワハラ加害者への退職勧奨は、それ自体が直ちに違法となるわけではありません。
しかし、その進め方や言動を誤ると、従業員の自由な意思決定を妨げる「退職強要」とみなされ、違法行為として損害賠償請求のリスクを負う可能性があります。
そのため、客観的な事実に基づき、法的に問題のない手順を踏んで慎重に進めることが極めて重要です。
目次
企業がパワハラ加害者に対して退職を促す「退職勧奨」を行うこと自体は、法的に認められています。
これはあくまで、従業員の自発的な退職意思を促すための説得活動です。
しかし、説得の範囲を超えて、心理的な圧力をかけたり執昼に退職を迫ったりする行為は、違法な「退職強要」と判断される危険性があります。
退職強要と見なされた場合、加害者から損害賠償を請求される可能性があるため、その境界線を正しく理解しなければなりません。
パワハラへの対応については「[使用者側弁護士が教えるパワーハラスメントへの対応](https://www.labor-management.net/laborcolumn/056/)」で詳しく紹介しています。
パワハラ加害者への対応として、退職勧奨と解雇は混同されがちですが、法的な性質は全く異なります。
両者の違いを理解することは、適切な処分を選択する上で不可欠です。
退職勧奨は、会社が従業員に対して退職を「お願い」し、従業員がそれに「合意」することで雇用契約を終了させる方法です。
あくまでも双方の合意が前提となるため、会社に強制力はありません。
従業員は退職勧奨を拒否する自由があり、拒否したことを理由に不利益な扱いを受けることは許されません。
円満な解決を目指す場合に用いられる手段です。
解雇は、従業員の合意の有無にかかわらず、会社が一方的な意思表示によって雇用契約を終了させることです。
解雇には、従業員の能力不足などを理由とする「普通解雇」と、就業規則違反などに対する制裁罰としての「懲戒解雇」があります。
いずれも労働契約法に基づき、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であると認められない限り、権利の濫用として無効になります。
懲戒解雇については「[懲戒解雇の要件や手続きの流れ、退職金の有無を事例で解説](https://www.labor-management.net/laborcolumn/157/)」で詳しく紹介しています。
日本の労働法では労働者の地位が厚く保護されており、解雇の有効性は厳格に判断されます。
特にパワハラを理由とした解雇は、事実認定の難しさから「不当解雇」として訴訟に発展するリスクが高い傾向にあります。
敗訴すれば、解雇の無効や多額の金銭支払いを命じられる可能性があります。
そのため、多くの企業は法的な紛争リスクが比較的低い退職勧奨という手段を選択するのです。
適法な退職勧奨と違法な退職強要の境界線は、従業員の自由な意思決定を侵害したか否かという点にあります。
過去の裁判例などから、社会的相当性を逸脱した行為は違法と判断される傾向にあります。
具体的にどのような行為が問題視されるのかを解説します。
1回あたり数時間にわたる面談や、深夜まで及ぶ面談は、相手を心理的に追い詰める行為と見なされる可能性が高いです。
特に、従業員が退室の意思を示しているにもかかわらず引き留めたり、密室で複数人が一人を取り囲んだりする状況は、自由な意思決定を阻害する典型例として違法性が高まります。
従業員が退職を明確に拒否しているにもかかわらず、何度も面談を設定し、執拗に退職を迫る行為は退職強要にあたります。
法的に「何回までなら適法」という明確な基準はありませんが、過去の裁判例では、短期間に数回程度の勧奨でも違法と判断されたケースも存在します。
相手の意思を無視した勧奨は避けるべきです。
退職勧奨を拒否した後に、報復として仕事を与えない、無視をする、あるいは閑職へ追いやるといった行為は、典型的なパワーハラスメントであり違法です。
このような不利益な取り扱いは、退職を強要する目的で行われたと判断され、会社側が損害賠償責任を負う原因となります。
面談の場で大声で怒鳴ったり、相手の人格を否定するような侮辱的な言葉を使ったりする行為は許されません。
また、「退職届を出さないなら懲戒解雇にする」といった、虚偽または事実を誇張した説明で相手を畏怖させ、退職を迫る言動も、自由な意思決定を妨げるものとして違法と判断されます。
パワハラ加害者への退職勧奨を適法に進めるためには、感情的な対応を避け、客観的な事実に基づいた慎重な手続きを踏むことが不可欠です。
ここでは、法的なリスクを最小限に抑えるための具体的な5つのステップを解説します。
退職勧奨を行う大前提として、パワハラの事実を正確に把握する必要があります。
被害者や同僚など関係者へのヒアリングを実施し、メールの文面、録音データ、SNSの投稿といった客観的な証拠を収集します。
この際、加害者本人にも弁明の機会を与え、一方的な情報だけで判断しないよう公平な調査を心がけます。
調査によって明らかになったパワハラ行為が、自社の就業規則上のどの懲戒事由に該当するのかを明確にします。
例えば、「職場の風紀・秩序を乱す行為」や「パワーハラスメント行為」などが該当します。
また、過去に同様の事案でどのような処分が下されたかを確認し、今回の対応が社内の公平性を欠くことがないように配慮します。
面談は、プライバシーが確保できる静かな会議室などで行います。
時間は長くとも1時間程度を目安とし、相手を追い詰めないよう配慮が必要です。
また、後々の「言った言わない」のトラブルを防ぐため、人事担当者と直属の上司など2名体制で臨むのが望ましいです。
高圧的な印象を与える人物の同席は避けるべきです。
面談では、まず調査で認定した客観的な事実を冷静に伝えます。
その上で、その行為が会社の秩序に与えた影響を説明し、「このままでは雇用を継続することが難しい」という会社の考えを伝えます。
あくまで退職を「勧める」立場であることを明確にし、「退職は強制ではない」「考える時間を与える」といった言葉を添えて、慎重に言葉を選びます。
加害者が退職勧奨に応じる意向を示した場合、口約束で終わらせず、必ず書面で合意内容を確定させます。
この退職合意書には、退職日、退職理由、退職金の優遇措置や特別退職金などの金銭的条件、守秘義務、清算条項などを明記し、双方が署名・捺印します。
退職勧奨はあくまで任意であるため、加害者が明確に拒否する可能性も十分にあります。
その場合は、退職を強要することなく、別の手段を講じる必要があります。
会社の秩序を維持するために検討すべき対応策を解説します。
被害者と加害者を物理的に引き離し、職場環境を改善する目的で配置転換を行うことが考えられます。
また、管理職によるパワハラであった場合、監督責任を果たせなかったとして役職を解き、降格させる処分も有効です。
ただし、これらの人事は業務上の必要性に基づいて行われるべきであり、報復や懲罰目的と見なされると人事権の濫用となるため注意が必要です。
パワハラの事実が就業規則の懲戒事由に該当する場合、その内容や程度に応じて懲戒処分を科すことを検討します。
懲戒処分には、軽いものから順に譴責・戒告、減給、出勤停止などがあります。
特に減給などの金銭的な不利益を伴う処分は慎重な判断が求められ、行為の悪質性と処分の重さのバランスが取れている必要があります。
退職勧奨を拒否し、懲戒処分を受けてもなおパワハラ行為が改善されない、あるいは行為が極めて悪質で職場秩序を著しく乱した場合には、最終手段として解雇を検討します。
特に懲戒解雇は最も重い処分であり、その有効性が裁判で争われるリスクが非常に高いです。
解雇に踏み切る際は、弁護士などの専門家に相談し、法的な妥当性を十分に検証することが不可欠です。
セクハラ・パワハラ事案の解決については「[セクハラ・パワハラ事案は弁護士が解決](https://www.labor-management.net/sexual-and-power-harassment/)」で詳しく紹介しています。
パワハラ加害者の退職勧奨は、多くの人事担当者が頭を悩ませる問題です。
ここでは、退職勧奨を進める上で生じやすい疑問について、Q&A形式で解説します。
退職強要と見なされ、加害者から慰謝料を請求されるといったトラブルを避けるためにも、正しい知識を身につけておきましょう。
調査で確認した客観的な事実を冷静に伝えた上で、「会社の秩序維持の観点から、このまま働き続けることは難しい」と会社の考えを伝えます。
高圧的にならず、あくまで「会社としては退職について検討してもらえないか」と相談する形で切り出すことが重要です。
面談回数に明確な法的基準はありませんが、本人が明確に拒否した後に何度も行うと、違法な退職強要と見なされるリスクが高まります。面談の回数や時間、内容などが総合的に判断され、社会通念上許容される範囲を超えた場合に違法となる可能性があります。
退職勧奨自体は証拠がなくても可能ですが、本人が事実を否定した場合、説得の根拠が弱くなり、交渉は極めて困難になります。
また、不十分な調査で退職勧奨を行うと、逆に名誉毀損などで訴えられるリスクもあるため、慎重な事実確認が不可欠です。
パワハラ加害者への退職勧奨は、それ自体が違法ではありませんが、進め方を誤ると違法な「退職強要」と見なされるリスクを伴います。
適法に進めるためには、客観的な証拠に基づく事実調査を徹底し、就業規則に則って慎重な手順を踏むことが不可欠です。
万が一、加害者が退職勧奨を拒否した場合に備え、配置転換や懲戒処分といった次善策もあらかじめ検討しておく必要があります。
対応に迷う場合は、独断で進めずに弁護士などの専門家に相談し、法的な助言を得ながら対応することが賢明です。
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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士
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