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弁護士の平野剛です。今回は、就業規則や個別労働契約に試用期間を延長することがある旨の定めがない状態でなされた試用期間延長の効力が認められるかが問題となった裁判例(横浜地裁令和6年3月27日判決)をご紹介します。
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本件の被告は医薬品の製造販売等を事業とする会社で、原告は主に医薬品関係の研究に関する業務経験を有し、被告に採用された社員です。
被告は原告に対し「試用期間 入社日より6か月間」との記載がある採用内定通知書を交付し、これに対し原告が入社承諾書を提出し、内定通知書に記載の内容で雇用契約が成立しました。
被告の就業規則には、「採否は6か月の試用を経て決定する。但し、経験者は試用を命じないことがある。」「試用中の者で適性を欠くと認められる場合は、解雇することがある。」との定めがありました。
被告は、原告について、同僚との協調性、上司に対する言動、クライアントに対する責任感、業務スケジュール管理に問題を認め、業務遂行能力・チームマネジメント能力の見極めができなかったため本社においてこれらの能力を見極めたいとのことで、原告に対し、試用期間延長通知書を交付しました。同通知書は試用期間を8か月延長する内容のもので、交付したのは、入社日から既に6か月を経過した後のことでした(被告では入社日の6か月後の日が属する月の末日までを試用期間とする社内慣例になっていたとのことで、この慣例を前提とすれば、延長の通知は試用期間満了前になされていたことになります)。
延長後の試用期間中において、被告は、原告が本社への異動を拒否したことをもって、社員としての適性を欠くものとして原告に対し普通解雇する旨の通知をしました。
本件では、原告に対する解雇の有効性を判断するにあたって、このように延長することができる旨の規定がなくても試用期間を延長することができるかが問題となりました。
裁判所は、「試用期間付きの労働契約とは、使用者側が、試用期間中に当該労働者が従業員として不適格であると判断したときには、労働契約を解約できる旨の解約権が留保された雇用契約であり、この場合の試用期間とは、留保された解約権の行使が可能な期間を意味し、試用期間が経過した後は、使用者は解約権を行使することができなくなるものと解される。」と述べたうえで、「このような試用期間についての一般的な解釈を前提とすると、本件雇用契約で留保された解約権は、試用期間が経過した時点で行使することができなくなり、特にこれと異なる合意がある等特段の事情がある場合を除き、その後の試用期間の延長も許されないというべき」と説示しました
このような一般論を述べたうえで、さらに就業規則の定めの解釈へと進み、「『試用中の者で適性を欠くと認められる場合は、解雇することがある』として、留保解約権の行使は、試用期間中に行うことを定めている。これを踏まえれば…入社後6か月の試用期間の経過をみて、試用期間中にその適正を判断する趣旨であり、試用期間が終了した後に判断するとの趣旨の規程ではないと解するのが相当」と述べました。
また、「仮に試用期間を6か月よりも長い期間であるとする労使慣行ないし就業規則の定めがあったとしても、それは、労働契約上定められた6か月という試用期間の定めよりも労働者に不利益なものであって、労働契約法7条ただし書、12条により、個別労働契約が優先され、その効力を有しない。」「そのほか、6か月よりも長い試用期間が合意されたであるとか、試用期間経過前に、試用期間の延長が合意された等、特段の事情といえるような、労働契約の定めと異なる合意があったと認めるに足りる証拠はない」と述べ、6か月の試用期間経過後になされた試用期間の延長措置は効力を有しないと結論づけました。
なお、裁判所は、試用期間延長の効力は認めなかったものの、原告の異動拒否を理由とする普通解雇を有効なものと判断しました
本件では、個別労働契約、就業規則のどちらにおいても試用期間の延長を可能とする旨の明文の定めがなかったので、試用期間の延長の可否に関する本判決の判断に特段違和感はありません。
本判決は、一般論として「これと異なる合意がある等特段の事情がある場合を除き、その後の試用期間の延長も許されない」と述べており、「異なる合意」があれば試用期間の延長が可能になるのかという点が非常に気になるところです。
例えば、就業規則では「試用期間は●か月とする」とだけ定めていて延長を可能とする明文の定めのない場合を仮定して考えてみたいと思います。この場合、就業規則との最低基準効(労働契約法12条)との関係で、合意により試用期間を延長できるのかが問題となります。
就業規則に定めはないが試用期間の延長を許容していると解釈できる場合であれば、最低基準効との関係の問題はクリアされると思われます(なかなかそのような解釈は難しい場合が多いかもしれません)。また、試用期間の延長措置について、本来であれば試用期間満了で解雇になるところ、解雇を猶予して見極めるための措置なので労働者にとって不利益なものではない、と解釈すれば、試用期間延長の合意は就業規則の最低基準を下回るものではないと考える余地もないわけではありません(不利益ではないと断言できるのは、本当に労働者を救済するために延長するような場面に限られるかもしれません。)
いずれにしても、就業規則の明文の根拠に基づかずに試用期間を延長するには、理論的に容易ではない問題があると考えられます。本判決に「異なる合意がある等の特段の事情がある場合」には延長できるかのような説示があるからといって、一般的に就業規則に根拠がなくても合意があれば試用期間の延長は可能だと安易に考えるのはリスクがあると思われます。
試用期間満了時の対応が悩ましいケースのご相談を受けることは少なくありません。就業規則においては試用期間の延長があり得る旨の明文の規定を置き、個別の労働契約書においても同様の定めを設けておくべきです。
この記事の監修者:平野 剛弁護士
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