日本全国に対応しております!
受付時間:平日9:00~17:00
日本全国に対応しております!
メンタル疾患で休職中の従業員が復帰する際、休職事由が消滅しているかどうか、すなわち従前の職務を通常の程度に行うことができる程度までに回復していたか否かが争われることがよくあります。特に復職可能の診断書が休職期間の満了間際に提出されるような場合です。
会社は産業医や指定医の面談を受けるように指示し、受診してもらったところ、産業医等からはまだ復職するには不安があるのではないかとの意見が述べられたとします。
医師の意見が真っ向から対立することはあまりないのですが、微妙なニュアンスの違いがあることがあります。
このような場合、従業員からすると「産業医や指定医はこれまでの私の状況を細かくみてくれていたわけではない。主治医の方が私の状態をよく理解している。」と考え、一方で会社側は「主治医は会社の業務内容や当該従業員の担当業務を知らないのではないか。従前と同様に安定的かつ継続的に勤務できる状態になっていなければならないので、主治医の診断書だけでは判断ができない」と考え、対立が生じます。
今回ご紹介するT事件(東京地裁令和6年9月25日判決)も、休職期間満了時点において、原告の適応障害の症状が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度までに回復していたか否かが争点になり、被告は指定医の意見等を踏まえて回復していないと判断したところ、裁判所は回復していたと判断し、休職期間満了による雇用契約終了を否定しました。
原告は、令和3年4月6日、主治医の診察を受け、就労中に不眠、吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状が出現した旨を訴え、適応障害と診断され、抗うつ薬等を処方されました。
その後、原告は、令和3年11月24日、主治医の診察を受け、「抑うつ、不眠、全身倦怠が改善し、令和3年12月1日より復職可能であることを認めます。なお、復職時、職場環境の改善を同時に行うことが推奨されます。」と記載した診断書を提出しました。
被告は指定医の診察を指示し、原告は、令和3年12月6日、指定医の診察を受け、「夜は眠れる」「涙が出ることはない」「息が吸えないことはない」「急激に回復した」「労働審判の結果が出て安心した」「気持ちの落ち込みはない」「11時に寝て、6時に起きる」旨を述べ、服薬状況について、「1か月内服していない」「眠れない時だけ、1か月間は飲んでいる」旨を述べました。指定医は「不眠症のため眠剤を内服していること、抗うつ薬を不安時にのみ内服しており、本来の内服の用法と異なること、気分が反応的に回復しており、一時的な回復の可能性が考えられることから、このまま仕事を続けるのは難しい」として、同日から1か月間の環境調整・通院加療・服薬指導をする必要があるなどと診断しました。
このように主治医と指定医の判断が分かれていました。
裁判所は、おおむね次のように述べて休職事由が消滅していたと判断しました。
(1)11月24日の受診時には症状が改善して同年12月1日から復職可能である旨の診断を受けており、主治医において、同年12月1日時点で休職事由となる疾病は治癒したと判断されている。原告の症状について、原告は、本人尋問において、5月頃には吐き気、食欲不振、震え、恐怖心の症状はなくなっていたと述べ、夏頃には不眠の症状も軽減し、10月下旬以降はほとんど毎日眠れていた旨を述べているところ、診療録上も、当初は様々な症状の訴えがみられるが、同年8月11日の受診時には「笑うことができるようになっている」とされるなど改善の傾向がみられ、同年10月以降の受診時には具体的な症状の訴えがみられなくなっている。
(2)被告は、被告の就業規則では就労の可否は専ら被告が指定した医療機関での受診結果を基にして行うこととなるところ、本件指定医は原告が従前の職務を通常の程度に行える健康状態に回復していない旨を診断していると主張する。また、被告は、本件指定医は、原告の主訴だけでなく、服薬状況や過去及び現在の症状等の事情、親族との関係等を聴取した上で診断しており、その診断の信用性は高いとも主張する。
しかし、休職期間満了時に休職事由が消滅しているかどうかは自然退職の効力に直結する事項であるから、就業規則の内容にかかわらず、主治医の診断書等の資料が提出されている場合に被告が指定した医療機関での受診結果のみをもって直ちに休職事由が消滅していないものと取り扱うことは許されない。そして、本件指定医は一時的な回復の可能性が考えられるとして就労が困難である旨を診断しているが、原告が、本件指定医に対して、不眠等の症状がない旨を述べ、服薬状況について「1か月内服していない」「眠れない時だけ、1か月間は飲んでいる」旨を述べていることに加えて、診療レポートには令和3年4月から同年11月までの原告の症状の経過は特に記載されておらず、本件指定医が原告の症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないことを踏まえると、一時的な回復の可能性というのは抽象的な懸念を指摘するものとみるべきであって、この診断をもって原告の症状が従前の職務を通常の程度に行うことができる程度にまで回復していたことを否定するのは相当でない。
裁判所は、主治医の診断内容が信用でき、一方で指定医の意見については原告の症状の経過を詳細に聴取したとはうかがわれないと指摘するなど、その信用性を吟味して判断しているようにも思います。
しかし、判決文で次のような事実認定がされています。「被告は、令和3年12月14日、休職事由が消滅していないとして、同日付けで原告を休職期間満了による自然退職とした。被告は、この判断に当たって、本件主治医に原告の病状について照会していない。」
この部分が判断に影響を与えたように思います。裁判所も主治医の診断書のみで判断すべきとも言っていません。今回は、主治医への照会をしないまま、指定医の意見を前提に判断したというプロセスを問題にしているように思います。
そして主治医、産業医のそれぞれの意見はもちろん大事なのですが、それを補強する具体的な事実がどれだけあるかが重要ではないかと考えます。
例えば、休職期間中に定期的に対象者とコミュニケーションを試み、その際に連絡があったのか、なかったのか、その際の本人の反応や対応はどうだったのかなども1つの材料になります。例えば全く連絡が取れないとか、会社から連絡をしても返事がなかったとか、会社の人とは一切連絡を取りたくないと復職可能の診断書が提出される直前まで言い続けていたとか、復帰にあたって職場環境に不安があると述べていた等の事情があれば、復職を慎重にする方向での判断材料になり得ます。
また主治医面談などを経て、休職期間中に一定期間の慣らし勤務を設けて、実際に想定される業務をトライアルとして実施し、そこでの業務遂行状況など客観的な事実を踏まえて最終的に判断するのが望ましいと考えます。
この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)
【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
【Podcast】岸田鑑彦の『間違えないで!労務トラブル最初の一手』
【YouTube】弁護士岸田とストーリーエディター栃尾の『人馬一体』
その他の関連記事
キーワードから記事を探す
当事務所は会社側の労務問題について、執筆活動、Podcast、YouTubeやニュースレターなど積極的に情報発信しております。
執筆のご依頼や執筆一覧は執筆についてをご覧ください。