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弁護士の平野剛です。今回は、ビルの管制業務に従事していた労働者の仮眠時間が労働時間に該当するかが問題となった裁判例(東京地裁令和6年5月17日判決)をご紹介します。
仮眠時間の労働時間該当性の判断の考慮事由
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目次
本件の被告会社は施設警備等の事業を行う会社で、原告は警備業務に従事していました。
令和2年3月31日まで被告は機械警備業務を行っていました。この業務は、外部委託先で異常発報したときに駆け付ける24時間対応業務で、従業員2名体制で行っていましたが、この業務の契約数が3件にとどまり、殆ど発報がない状態であったため、機械警備業務を終了しました。
令和2年4月1日からは、原告を含む被告本社管理職社員1名を管制業務に従事させることとしました。管制業務は、平日午後5時30分から翌日午前8時30分まで、土日祝日午前8時30分から翌日午前8時30分までの時間帯に本社ビルの管制室で勤務する業務です。
具体的には、電話対応、各所からの各種報告を受けること、データ入力、欠勤等の連絡を受けた場合の所管部署への報告や連絡、本社ビル訪問者等の出入管理、モニター監視等の本社ビル警備業務などを内容としており、監視用のモニターは、仮眠時間中も画面が表示されていました。
管制室服務規程及び被告の周知文書には、以下の内容が記載されていました。
・休憩時間 平日は午後7時30分から午後8時30分までの間(土日祝日はこれに加えて正午から午後1時までの間)
・仮眠時間 午前0時から午前5時まで
・基本任務 緊急連絡の中継及び緊急措置、モニター監視と別に定める緊急措置及び救急措置
緊急事態が発生した場合、速やかに報告、連絡等に当たる
管制室服務規程の「上下番電話一覧」には、時間帯ごとの電話対応量等について以下の記載(表形式は筆者による)があり、また、時間帯ごとに管制室に連絡が入る現場の番号も記載され、合計50か所以上の現場の番号が記載されていました(一部重複する現場を含む)。
| 17:30〜18 | 18〜19 | 19〜20 | 20〜22 | 22〜23 | 23〜24 | 0〜5 | 5〜7 | 7〜9 |
| 多 | やや多 | 少な目 | 多 | やや多 | 少な目 | イレギュラー対応有 | やや多 | 多 |
裁判所は、「従業員2名で対応し、機械による発報があった場合に外部委託先に駆け付ける24時間体制の機械警備業務が含まれていたが、機械警備業務の契約数は3社にとどまり、ほとんど発報のない状態であったこと」を指摘したうえで、実際に行っていた業務内容について触れつつ、「2名体制の場合、1人が仮眠を取る間、もう1名が対応することでこれらの業務を行うことが可能であると考えられ、上記のとおり機械警備業務の発報がほとんどなかったことも踏まえると、不活動仮眠時間においては労働からの解放が保障されていたと認めるのが相当」と述べ、仮眠時間は労働時間にあたらずに休憩時間であると判断しました。
裁判所は、まず、「本社ビルにおいて、1人で、被告宛ての電話の対応(中略~各種業務を列挙)訪問者等の出入管理やモニター監視等を行うなどの業務であったこと、管制室服務規程には、基本任務として緊急連絡の中継及び緊急措置、モニター監視と別に定める緊急措置及び救急措置が記載されていたこと、上下番電話一覧には、仮眠時間である午前0時から午前5時までの間、「イレギュラー対応有」とされ、緊急事態が起きた場合には、管制業務を担当する原告が業務に就くことが求められていたこと」を踏まえ、「午前0時から午前5時までの仮眠時間において、原告は、労働契約上の役務の提供が義務付けられていた」と述べました。
そのうえで「仮眠時間中、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情」の有無が検討されました。
裁判所は、「管制業務において担当する現場が相当数あること、管制業務を行う従業員が1人で不測の事態を含めた対応を求められていたこと、原告が仮眠時間中にイレギュラーな電話対応をすることが管制業務3、4回に1回程度存在した旨供述していること」を指摘し、「仮眠時間に実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しい状態にあったとはにわかに考え難く、実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情が存するとはいえない」と述べて、この期間の仮眠時間は休憩時間ではなく労働時間にあたると判断しました。
不活動仮眠時間についてのリーディングケースとなる大星ビル管理事件最高裁判決(平成14年2月28日)では「当該時間において労働契約上の役務の提供が義務付けられていると評価される場合には、労働からの解放が保障されているとはいえず、労働者は使用者の指揮命令下に置かれている」と述べつつ、「(実作業への従事の)必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情」がある場合については含みを残した言い方をしています。そのため、下級審の裁判例においては、「役務提供の義務付け」だけではなく、「実作業従事の必要が生じる頻度」も検討されることが多いです。
本件では「2人体制」の当時は1人で十分に対応できる程度の業務量しかなったために仮眠時間の労働時間該当性が否定されました。他方で、1名体制となった以降については、服務規程に仮眠時間でも「イレギュラー対応有」との定めがあるものとして会社が対応を義務付けていること、実際に3、4回に1回程度の頻度でイレギュラー対応があったことが大きな考慮要素となって労働時間該当性が肯定されたと言えます。
服務規程等で対応を求めていると、基本的に契約上の役務提供の義務付けがあったと評価されることになります。毎週従事する業務で1年に2,3回程度の頻度であれば、実質的に対応の必要がなく実質的に義務付けがなされていないと評価される可能性もあると思われますが、本件のような頻度だと実質的にも義務付けがあったとして労働時間該当性が肯定されるのはほぼ間違いないと言えるでしょう。
この記事の監修者:平野 剛弁護士
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