雇用契約書とは?記載事項や作成方法、注意点を弁護士が解説

お電話・メールで
ご相談お待ちしております。

雇用契約書とは、企業と労働者が労働条件について合意した内容を証明するための書類です。

その作成や記載事項の書き方には、労働基準法や労働契約法といった法律が関わってきます。

労働法に沿った適切な内容の雇用契約書を作成し、労使間の認識を合わせることは、後のトラブルを未然に防ぐ上で極めて重要です。

目次

雇用契約書とは?企業と労働者の合意を証明する重要な書類

雇用契約書は、会社と労働者(社員)が、賃金や労働時間などの労働条件について合意したことを証明する書類です。

労働契約書とも呼ばれ、採用や入社のタイミング、具体的には内定後から入社日までの間に締結するのが一般的です。

面接で合意した内容を書面にし、会社(甲)と労働者(乙)がそれぞれ署名・捺印(押印)することで雇用契約が成立します。

発行後は、会社と労働者がそれぞれ1部ずつ控え(コピー)を保管します。

労働条件通知書との違いは「双方の合意」の有無

雇用契約書と混同されやすい書類に「労働条件通知書」があります。

労働条件通知書は、労働基準法に基づき、企業が労働者に対して労働条件を一方的に通知するための書類です。

これに対し、雇用契約書は、通知された内容について労働者が合意したことを示す、双方の署名・捺印がある契約書です。

法的に作成が義務付けられているのは労働条件の通知であり、通知書という形式が一般的ですが、雇用契約書が労働条件通知書を兼ねる形式(労働条件通知書兼雇用契約書)で運用されることも多くあります。

雇用契約書の作成は義務ではないが、トラブル防止に不可欠

労働基準法では、企業に労働条件の明示義務を課していますが、雇用契約書という形式での作成を必須とはしていません。

つまり、雇用契約書の作成自体は法律上の義務ではないため、不要と考えることも可能です。

しかし、口頭での説明や労働条件通知書の一方的な交付だけでは、労働者が内容を十分に理解・納得したかどうかが不明確です。

後の「言った言わない」といったトラブルを防ぎ、明確なルールのもとで労使が合意した証を残すために、雇用契約書を交わすことは実務上不可欠と言えます。

雇用契約書を作成しない場合に起こりうる3つのリスク

雇用契約書がない、あるいは紛失してしまった場合、企業はいくつかのリスクを抱えることになります。

口頭での合意や労働条件通知書のみでは、労働条件に関する認識の齟齬が生じた際に、企業の主張を客観的に証明することが難しくなります。これにより、労働紛争に発展しやすくなるだけでなく、企業の業務命令権が制限される可能性や、意図せず法令に違反してしまうリスクも高まります。

ここでは、雇用契約書を作成しないことで生じる具体的なリスクを解説します。

リスク1:労働条件をめぐる「言った言わない」の争いに発展する

雇用契約書がない場合、給与、労働時間、休日などの労働条件について、労使間の認識の齟齬から「言った言わない」の争いに発展しやすくなります。

特に、面接で伝えた内容と入社後の実態が違うと労働者が主張した際、書面による証拠がなければ企業の立場は弱くなります。

例えば、残業代の計算方法や手当の支給条件など、口頭での説明だけでは誤解が生じやすい項目は多岐にわたります。

双方が署名・捺印した雇用契約書は、合意内容を客観的に示す強力な証拠となり、このような無用なトラブルを未然に防ぐ役割を果たします。

リスク2:契約内容が無効と判断され、予期せぬ不利益を被る

労働基準法などの強行法規に違反する労働契約は、たとえ労使間で合意があったとしても、その部分が無効とされます。

例えば、法定の休憩時間を与えない、最低賃金を下回る賃金を設定するといった契約は認められません。

雇用契約書を作成するプロセスは、定めようとしている労働条件が法的に問題ないかを確認する良い機会となります。

このプロセスを省略すると、気づかぬうちに違法な契約を結んでしまい、後から労働基準監督署の是正勧告を受けたり、労働者から訴訟を起こされたりするリスクが高まります。

リスク3:転勤や配置転換の命令に従わせられない可能性がある

企業が持つ人事異動(転勤や配置転換)の命令権は、労働契約上の根拠に基づいています。

雇用契約書に「業務の都合により、就業場所や業務内容の変更を命じることがある」といった包括的な合意条項がない場合、労働者がこれらの命令を拒否する可能性があります。

特に、勤務地や職種を限定して採用したと労働者が認識している場合、本人の同意なく異動を命じることは権利の濫用と判断されかねません。

将来的に人事異動の可能性がある場合は、その旨を雇用契約書に明記し、入社時に合意を得ておくことで、円滑な人員配置が可能になります。

雇用契約書に必ず記載すべき項目(絶対的明示事項)

労働基準法第15条および同法施行規則第5条により、労働契約を結ぶ際に必ず労働者に書面で明示しなければならない項目が定められています。これらを「絶対的明示事項」と呼びます。

これらの項目は、雇用形態を問わず全ての労働契約において記載が必須です。

特に、2024年4月1日の法改正で、就業場所・業務の変更範囲や有期契約の更新上限など、新たに明示が義務付けられた事項もあります。

常に最新の法律に対応した内容で作成することが重要です。

契約期間に関する事項

雇用契約の期間に関する項目では、「期間の定めなし」または「期間の定めあり」を明確に記載します。

正社員など無期雇用の場合は「期間の定めなし」とします。

契約社員やパートなど有期雇用の場合は、具体的な契約期間の開始日と終了日(例:2024年4月1日から2025年3月31日まで)を明記します。

有期労働契約の期間は、原則として上限が3年、特定の専門職などでは最長5年と定められています。

また、契約更新の可能性がある場合はその旨を記載し、更新する場合の基準(勤務成績、会社の経営状況など)も併記することが、2024年4月1日以降、更新上限を設ける場合には義務付けられています。

就業場所と従事する業務内容

労働者が実際に業務を行う就業場所と、担当する業務内容を具体的に記載します。

例えば「本社(東京都千代田区)における人事・労務業務」のように、誰が見ても分かるように明記することが重要です。

2024年4月1日の労働基準法施行規則改正により、これらの項目に加えて、将来の配置転換などによって変更される可能性のある範囲(「変更の範囲」)についても明示が義務化されました。

これにより、入社後の人事異動をめぐる認識の齟齬をなくし、トラブルを未然に防ぐことが期待されます。

全ての労働契約において、雇入れ直後の就業場所・業務内容と、変更の範囲の両方を記載する必要があります。

始業・終業時刻、休憩時間、休日・休暇について

労働時間に関する具体的な条件を記載します。

始業・終業時刻(例:午前9時~午後6時)、休憩時間(例:1時間)、所定外労働(残業)の有無を明記します。

残業を命じる可能性がある場合は、時間外労働に関する労使協定(36協定)の締結・届出が必要です。

休日は「毎週土曜日・日曜日、国民の祝日」のように曜日や名称で特定するか、「シフト表により別途定める」などと規定します。

年次有給休暇の付与日数や取得ルール、代替休暇などの制度がある場合も記載します。

深夜労働が発生しうる業務であれば、その旨も明確にしておかなければなりません。

賃金の決定・計算・支払方法、締切・支払時期

賃金に関する事項は、トラブルを避けるために特に正確な記載が求められます。

基本給、諸手当(役職手当、資格手当、通勤手当など)の内訳を明確にし、賃金の決定・計算方法を具体的に示します。

また、時間外労働、休日労働、深夜労働に対する割増賃金の割増率も明記する必要があります。

支払方法(例:銀行振込)、賃金の締切日(例:毎月末日)、支払時期(例:翌月25日)も記載します。

昇給の有無、ある場合はその時期や金額の決定方法についても定めておくと、労働者の納得感を得やすくなります。

退職に関する手続き(解雇の事由を含む)

退職に関する事項として、自己都合退職の手続き(例:退職希望日の1か月前までに退職願を提出)、定年制の有無と具体的な年齢を記載します。

また、解雇の事由についても明示が必要です。

就業規則に詳細な解雇事由が定められている場合は、「就業規則第〇条に定める事由に該当した場合」のように、就業規則を参照する形で記載することも可能です。

有期雇用契約の場合は、契約期間満了による終了(雇止め)に関するルールも記載します。

これらは労働者の地位に直接関わる重要な項目であり、客観的かつ合理的な内容でなければなりません。

会社に定めがある場合に記載が必要な項目(相対的明示事項)

絶対的明示事項のほかに、会社に該当する制度がある場合に限り、労働者への明示が求められる項目があります。

これを「相対的明示事項(相対的記載事項)」と呼びます。

これらの事項は、必ずしも書面での明示は義務付けられておらず、口頭での説明も法律上は認められています。

しかし、後のトラブルを避けるためには、雇用契約書や就業規則に明確に記載しておくことが賢明です。

具体的には、退職手当や賞与、労働者の費用負担に関するルールなどがこれに該当します。

退職手当に関する事項

会社に退職金制度が存在する場合、その詳細を明示する必要があります。

まず、退職金の有無を明確に記載します。

制度がある場合は、適用される労働者の範囲(例:勤続3年以上の正社員)、退職手当の決定・計算方法、支払いの方法と時期について具体的に記述します。

例えば、計算根拠が勤続年数や役職、退職時の基本給など、何に基づいて算出されるのかを示します。

詳細な規定が別途「退職金規程」として定められている場合は、その規程を参照する形での記載も可能です。

退職金制度がない場合は、その旨をはっきりと「なし」と記載しておくことが重要です。

賞与(ボーナス)や最低賃金額などに関する事項

賞与(ボーナス)や臨時的な賃金(大入り袋など)、最低賃金額に関する定めがある場合は、その内容を記載します。

賞与については、支給対象となる労働者の範囲、支給時期(例:年2回、6月と12月)、算定基準などを明記します。

ただし、会社の業績や個人の評価によって支給有無や金額が変動する場合は、支給を確約するものではないことを明確にするため、「会社の業績および個人の勤務成績等を勘案して支給することがある」といった表現を用いるのが一般的です。

これにより、業績悪化時に賞与を不支給とすることへの理解を得やすくなります。

食費や作業用品などの労働者負担について

労働者が業務に関連して負担する費用がある場合に、その内容を記載します。

例えば、社員食堂の利用に伴う食費の一部や、業務で使用する作業用品、制服などを労働者自身に負担させる制度がある場合がこれに該当します。

労働者に金銭的な負担を求める場合は、トラブルを避けるために、対象となる品目、具体的な金額、負担の方法(給与からの天引きなど)について、あらかじめ明確に合意を得ておく必要があります。

その他、社内預金や組合費など、給与から控除するものがある場合も、労使協定を締結した上でその旨を記載します。

安全衛生に関する定め

事業場の安全衛生に関する規定がある場合に、その内容を記載します。

これは、労働安全衛生法に基づき、企業が労働者の安全と健康を確保するために講じる措置や、労働者が遵守すべき事項を指します。

具体的には、健康診断の受診義務、安全に関する教育訓練の実施、危険な作業を行う際の保護具の着用義務などが挙げられます。

業種や職種によって要求される安全衛生の水準は異なるため、自社の事業内容の実態に即した具体的なルールを定め、労働者に遵守を求める旨を明記します。

職業訓練に関する定め

労働者に対して、業務に関する知識や技能を向上させるための職業訓練(研修)を行う制度がある場合に、その内容を記載します。

実施する訓練の種類、期間、時間、場所、受講中の賃金の取り扱いなどを具体的に定めます。

新入社員研修やOJT、特定の資格取得を支援する研修などがこれに該当します。

訓練の受講が業務命令として強制されるものなのか、あるいは任意参加なのかによって、賃金支払いの要否が変わってくるため、その点も明確にしておくことが重要です。

問い合わせ先の連絡先なども記載しておくと親切です。

災害補償や業務外の傷病扶助について

労働者が業務が原因で負傷、疾病、あるいは死亡した場合(労働災害)の補償や、業務外のプライベートな傷病に対する扶助に関する定めがある場合に記載します。

労働災害については、労働者災害補償保険法(労災保険)による給付が基本となりますが、企業が独自に上乗せして補償を行う制度(法定外補償)を設けている場合にその内容を明記します。

また、業務外の傷病に対する見舞金制度などがある場合も同様です。

これらの制度を利用する際の請求手続きについても記載しておくことで、万一の際に労働者が円滑に利用できるようになります。

表彰や制裁の制度

企業に表彰制度や制裁(懲戒処分)の制度がある場合、その種類や内容について記載します。

表彰制度については、永年勤続表彰や業務成績優秀者に対する表彰など、どのような場合に表彰されるのかを定めます。

一方、制裁制度については、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇といった処分の種類と、どのような規律違反行為が処分の対象となるのかを明記します。

通常、これらの詳細な規定は就業規則に定められているため、雇用契約書では「就業規則の定めるところによる」と記載することが一般的です。

休職に関する事項

業務外の個人的な病気やけがにより長期間勤務できなくなった場合などに適用される、休職制度に関する定めがある場合に記載します。

休職を命じる、あるいは労働者が申し出る際の条件、休職できる期間の上限(例:勤続1年未満は1か月、3年以上は2ヶ月など)、休職期間中の給与支払いの有無、社会保険料の取り扱い、復職する際の手続きなどを具体的に定めます。

私傷病による休職が一般的ですが、自己都合での留学やボランティア活動、公職就任などを理由とする休職制度を設けている場合も、同様にその内容を明記します。

【雇用形態別】雇用契約書を作成するときの注意点

雇用契約書は、全ての労働者に対して同じ内容で良いわけではありません。

正社員、契約社員、パート・アルバイトといった多様な雇用形態が存在するため、それぞれの働き方の実態や適用される法律の特性に応じて、記載内容を最適化する必要があります。

例えば、有期雇用の契約社員であれば契約更新のルールが、パートタイマーであれば昇給や賞与の有無が特に重要な項目となります。

ここでは、代表的な雇用形態の例を挙げ、契約書作成時に特に留意すべき点を解説します。

正社員:定年や人事異動の範囲を明確にする

正社員は期間の定めのない無期雇用契約が基本となるため、長期的な雇用関係を前提とした記載が重要になります。

定年制を設けている場合は、その年齢を明確に記載します。

また、企業の重要な戦力として幅広い活躍が期待されるため、将来的な配置転換や転勤、職種変更の可能性があることを明記しておくべきです。

特に2024年4月以降は、採用時に将来の「変更の範囲」を明示することが義務付けられています。

これにより、無期雇用の従業員との間で生じやすい人事異動に関するトラブルを未然に防ぐことができます。

契約社員:契約期間と更新の有無・判断基準を具体的に記載する

契約社員などの有期雇用契約を結ぶ際、最も重要な項目は契約期間に関する記載です。

契約の開始日と終了日を明確にするとともに、契約更新の有無を必ず明示します。

「契約を更新する場合がある」と記載する際には、契約を更新するか否かの判断基準(例:契約期間満了時の業務量、勤務態度、能力、会社の経営状況など)を具体的に示さなければなりません。

また、有期雇用契約が繰り返し更新され、通算契約期間が5年を超えた場合に労働者が申し出ると無期雇用に転換される「無期転換ルール」についても、対象となる労働者には書面で明示する義務があります。

パート・アルバイト:「パートタイム・有期雇用労働法」に基づく追加項目を忘れない

パートタイマーやアルバイト、その他の臨時・短期の労働者と契約を締結する際には、パートタイム・有期雇用労働法に基づき、絶対的明示事項に加えて明示が義務付けられている項目があります。

具体的には、「昇給の有無」「退職手当の有無」「賞与の有無」の3点について、文書を交付して明示しなければなりません。

また、労働条件に関する相談を受け付けるための相談窓口(担当者の部署、役職、氏名など)を明示することも求められています。

正社員との間の不合理な待遇差をなくす「同一労働同一賃金」の観点からも、これらの待遇に関する事項は特に明確に記載する必要があります。

固定残業代を支払う場合、当該手当が固定残業代であることやその金額を明記しておく

固定残業代(みなし残業代)制度を設ける場合、その内容を雇用契約書に正確に記載することが極めて重要です。

記載が不十分だと、裁判で固定残業代制度自体が無効と判断され、多額の未払い残業代の支払いを命じられるリスクがあります。

具体的には、①当該手当が残業代として支払われるものであること、②固定残業代の金額や何時間分の時間外労働等に対する対価であるかを明記しなければなりません。

これらの要件を満たさない曖昧な記載は、トラブルの元凶となります。

トラブルを防ぐ雇用契約書を作成するための4つのポイント

法的に有効なだけでなく、将来の労務トラブルを未然に防ぐ実効性のある雇用契約書を作成するためには、いくつかの重要なポイントがあります。

法律で定められた項目を網羅するのは当然として、自社の就業規則や働き方の実態に合わせて内容をより具体的にすることが求められます。

単にインターネットで手に入るテンプレートの記載例をそのまま使うのではなく、自社の状況に合わせてカスタマイズすることが不可欠です。

ここでは、トラブル防止の観点から特に重要な4つのポイントを解説します。

労働時間制度(変形労働時間制・フレックスタイム制など)を明確に記載する

変形労働時間制やフレックスタイム制、裁量労働制といった法定労働時間の原則とは異なる制度を適用する場合には、その内容を雇用契約書に詳細かつ明確に記載する必要があります。

例えば、フレックスタイム制であれば清算期間やコアタイム・フレキシブルタイムの時間帯を、事業場外労働のみなし労働時間制であれば所定労働時間としてみなす時間を明記します。

また、固定残業代(みなし残業)制度や、労働時間の規制が適用されない管理監督者として雇用する場合も、その旨と具体的な労働条件を正確に記載し、労働者の認識との間に齟齬が生じないようにすることが肝要です。

転勤や職種変更の可能性について具体的に示す

企業の事業運営上、従業員に転勤や職種変更を命じる必要が生じることがあります。

こうした人事権を円滑に行使するためには、その可能性と範囲を雇用契約書に明記しておくことが不可欠です。

2024年4月からは、すべての労働契約において、雇入れ直後の就業場所・業務内容に加え、将来の「変更の範囲」を明示することが義務化されました。

単に「会社の指示に従う」といった抽象的な表現ではなく、「国内の全事業所」「営業部門、企画部門、管理部門間の異動あり」など、労働者が自身のキャリアを具体的に想定できるレベルまで示すことが望ましいです。

これにより、変更したい場合のトラブルを予防します。

試用期間の有無と期間、本採用の条件を明記する

多くの企業で導入されている試用期間ですが、これを設ける場合はその内容を雇用契約書に明記する必要があります。

具体的には、試用期間の有無、その期間(通常3か月から6か月程度)、期間中の労働条件が本採用後と異なる場合はその内容、そして本採用に至るための評価基準を記載します。

試用期間中であっても解雇のハードルは通常の解雇と変わりません。

本採用を拒否する(解約権を行使する)場合は、客観的に合理的な理由が必要です。

試用期間が開始してから14日を超えると解雇予告が必要になり、契約期間が31日を超える場合は契約更新の有無についても注意が必要です。

テンプレート(ひな形)は自社の実態に合わせて修正する

厚生労働省のウェブサイトをはじめ、インターネット上では様々な雇用契約書のテンプレートが無料で公開されています。

これらのテンプレートは基本的な項目を網羅しているため作成の出発点として非常に有用ですが、そのまま使用するのは避けるべきです。

会社には、必ずその会社独自の就業ルールが存在します。

テンプレートの内容を自社の就業規則や賃金規程と照らし合わせ、業務の実態にそぐわない部分は修正・追記するなど、自社専用にカスタマイズする作業が不可欠です。

雇用契約書の電子化は可能?実施する場合の注意点

労働条件通知書の交付については、2019年4月から労働者が希望した場合に限り、電子メールやWebサービスなどを利用した電子的な方法が認められています。

これに伴い、雇用契約書もオンライン上で締結する電子契約の活用が広がっています。

電子化を行う場合、いくつかの法的要件を満たす必要があります。

具体的には、労働者本人が電子での交付を希望したこと、そのファイルが本人による作成・送付であることを証明できること(電子署名など)、そして労働者が容易に出力・保存できる形式であることが求められます。

単にメールやラインでPDFを送付するだけでは要件を満たさない可能性があるため、電子契約サービスの利用が一般的です。

作成した雇用契約書はいつまで保管すべき?

労働基準法第109条では、使用者は労働者名簿、賃金台帳、その他労働に関する重要な書類を5年間(当分の間の経過措置として3年間)保存しなければならないと定めています。

雇用契約書は「労働に関する重要な書類」に該当するため、この規定に従い保管が必要です。

保管期間の起算日は、書類が作成された日ではなく、その労働者の退職、死亡、または解雇の日からとなります。

保管方法は紙媒体でも電子データでも構いませんが、必要な時に迅速に確認できるよう整理しておくことが重要です。

手書きで作成した場合や、有期契約で毎年更新している場合も、すべての契約書を保管しておく必要があります。

まとめ

雇用契約書は、企業と労働者間の約束事を書面で明確にし、相互の信頼関係の土台となる重要な文書です。

労働基準法などの法律で定められた記載事項を遵守することはもちろん、正社員、契約社員、パート・アルバイトといった雇用形態の特性や、変形労働時間制、固定残業代などの自社が採用する制度の実態に合わせて、内容を具体的に記載することが労務トラブルの未然防止につながります。

テンプレートはあくまで雛形として活用し、自社の状況に合わせたカスタマイズを施すことで、より実効性の高い雇用契約書を作成できます。

お電話・メールで
ご相談お待ちしております。

 

この記事の監修者:樋口陽亮弁護士


弁護士 樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

【プロフィール】

出身地:
東京都。
出身大学:
慶應義塾大学法科大学院修了。

2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。経営法曹会議会員。
企業の人事労務関係を専門分野とし、個々の企業に合わせ専門的かつ実務に即したアドバイスを提供する。これまで解雇訴訟やハラスメント訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件など、多数の労働事件について使用者側の代理人弁護士として幅広く対応。人事労務担当者・社会保険労務士向けの研修会やセミナー等も開催する。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

その他の関連記事

使用者側の労務問題の取り扱い分野

当事務所は会社側の労務問題について、執筆活動、Podcast、YouTubeやニュースレターなど積極的に情報発信しております。
執筆のご依頼や執筆一覧は執筆についてをご覧ください。