技能実習計画の認定取消しのリスクと予防策

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1 技能実習計画の「認定取消し」とは

⑴ 認定取消しの概要

現在、日本国内では外国人技能実習生を受け入れる企業が非常に多くなっています。

技能実習に関しては法令によって様々なルールが定められていますが、「うちは大丈夫だろう」「監理団体に任せているから問題ない」といった、性善説に基づいた技能実習生の受け入れが行われている企業もあるかもしれません。しかし、その油断が、ある日突然、企業の存続基盤を揺るがす事態を招く場合があります。それが、技能実習計画の認定取消しです。

外国人技能実習制度は本来、日本が培った技能や知識を実習生に伝え、各国の経済発展を担う人づくりに貢献するという、国際貢献の一環となるものです。国内の人手不足を補うための安価な労働力確保の手段ではありません。

しかし、実際には、外国人技能実習制度の理念から逸脱した実態が一部で存在していることも事実です。技能実習計画の認定取消しは、このような違反があった場合に、技能実習法(正式名称は「外国人の技能実習の適正な実務及び技能実習生の保護に関する法律」)に基づき、行政が下す最も重い処分です。

最近では、2025年3月に、大手造船企業が技能実習計画の認定取消処分を受け、合計2000件を超える実習計画の認定が取り消されたことが報道されました。以下に述べる通り、認定取消しは企業に非常に大きな影響を与えるものであり、最大限の注意が必要です。

⑵ 認定取消しを受けた場合のリスク

認定取消処分が下された場合、当該企業は、次に記載するような重大なリスクを負うこととなります。

まず、5年間の技能実習生受け入れ停止です(技能実習法10条7号)。認定取消処分を受けた場合は、技能実習計画認定の欠格事由に該当し、今後5年間、技能実習制度を一切利用できないこととなります。これは実習実施者にとって重大なペナルティであり、特に実習生を重要な戦力として組み込んでいる企業にとっては、事業の縮小や撤退すら視野に入れなければならないほどの致命的な影響が生じる場合もあります。

次に、認定取消処分を受けたことが、厚生労働省や外国人技能実習機構(OTIT)のウェブサイトで公表される点です(技能実習法16条2項)。具体的には、企業名、代表者名、処分内容といった事項が掲載されます。とりわけ厚生労働省のウェブサイトでは、報道発表資料として行政処分を行った旨が公開されており、これがウェブサイト上から削除されることは基本的にはありません。そのため、長期間にわたって、金融機関からの融資、公共事業の入札、大手企業との取引といった企業活動に深刻な悪影響を及ぼしうるものです。

また、現在受け入れている実習生の実習中止と転籍も余儀なくされます(技能実習要領60ページ)。処分が確定すると、現在雇用している実習生は即時に実習を中止しなければなりません。当該実習生は、仮にその企業に残って働くことを希望していたとしても、他の企業へ転籍せざるを得ない状況となります。企業にとっても貴重な人材を失うだけでなく、現場の混乱や他の従業員への心理的影響も避けられません。

2 どのような場合に「認定取消し」処分が下されるのか

認定取消しは、特定の重大な違反行為が確認された場合に下されます。認定取消事由について、法律上は、例えば「実習実施者が認定計画に従って技能実習を行わせていないと認めるとき。」(技能実習法16条1項1号)のような定め方がされています。

ここでは、認定取消事由に該当する典型的なケースについて、いくつかご紹介します。

⑴ 認定計画違反の実習

1つ目は、認定された計画通りに技能実習を実施しないことです。技能実習計画では、習得させる技能に応じて「必須業務」「関連業務」「周辺業務」が厳格に定められています。例えば、農業(施設園芸)で認定を受けながら、必須業務である栽培管理は一切させず、収穫後の箱詰めや配送準備といった周辺業務のみに従事させるケースは、これに該当します。このような場合は、「認定計画に従って技能実習を行わせていなかった」と判断され、認定取消事由となります。

⑵ 賃金の不払い

2つ目は、最低賃金法違反や賃金不払いが発覚した場合です。実習生も雇用契約を締結している限りは日本の労働者であり、労働基準法や最低賃金法が適用されます。しかし、「実習生だから」という誤った認識のもと、寮費や水道光熱費といった名目で給与から不当に高額な費用を天引きしたり、最低賃金未満での賃金の支払いを行ったりするケースがあります。このような労働関係法令違反は、認定取消事由となります。また、時間外労働に対する割増賃金(残業代)の不払いも、意図的かどうかにかかわらず同様に認定取消事由となります。

⑶ 労働安全衛生法違反

3つ目は、労働安全衛生法に違反し、実習生の安全を脅かした場合です。企業には、労働者の安全を確保する安全配慮義務があります。特に、日本語や日本の労働慣行に不慣れな実習生に対しては、より一層の配慮が求められます。プレス機やクレーンなど、危険を伴う特定の機械の操作等について、法律で定められた特別教育を実施しない、ヘルメットや安全帯などの保護具を着用させない、といった対応は、認定取消事由となります。

⑷ 人権侵害行為

4つ目は、実習生に対する暴行・脅迫などの人権侵害行為があった場合です。立場の弱い実習生に対し、「言うことを聞かなければ国に強制送還するぞ」といった脅迫的な言動で心理的に支配する、パスポートや在留カード、預金通帳を取り上げて逃げられないようにするといった行為は、人権侵害行為に該当します。物理的な暴力はもちろん、人格を否定するような暴言を日常的に浴びせる行為も含まれます。これらは技能実習法違反であると同時に、日本の刑法における暴行罪や脅迫罪に問われる可能性のある行為です。

⑸ 不正行為

5つ目は、虚偽の申請書類を提出するなどの不正行為が発覚した場合です。例えば、実際には常駐していない人物を技能実習指導員として申請するケースや、外国人技能実習機構による実地検査において虚偽の報告をするケースがあります。これらの行為は、不正行為として認定取消事由に該当します。

⑹ 技能実習に関係しない労働法令違反

そして6つ目は、特に注意が必要な点として、実習生とは無関係でも、日本人従業員に対する労働法令違反があった場合です。技能実習法においては、労働法令に関して著しく不正な行為をすることが欠格事由の一つとして定められており(技能実習法16条1項3号、10条9号)、これに該当する場合は認定取消しの対象となります。このような制度は、実習実施者に対して、技能実習関係だけでなく企業全体のコンプライアンス体制の整備を求めるものといえます。

例えば2019年には、大手電機メーカーの富山県内の工場において、技能実習生ではない従業員に対して、1か月に138時間の残業をさせたとして法人に対する罰金刑が科されたという事案がありました。これによって、当該企業の技能実習計画の認定取消しがなされた旨が報道されています。

3 発覚の経緯

認定取消事由に該当することの発覚の経緯としては、主に以下のようなものがあります。行政機関は、不正を見逃さないという厳しい姿勢で臨んでおり、実習実施者としては不備のないよう徹底した管理が求められます。

⑴ 外国人技能実習機構(OTIT)の検査

外国人技能実習機構(OTIT)は、実習実施者に対し、3年に1度程度の定期的な実地検査に加え、通報などに基づく臨時検査を積極的に行っています。近年は、実習生本人がOTITの母国語相談窓口や、NPOなどの支援団体に駆け込むケースが増加しており、これが調査の端緒となることが少なくありません。

⑵ 労働基準監督署の調査

労働基準監督署も、従業員や技能実習生からの依頼を受けた調査や、監督署の自主的な調査によって、労働関連法令が遵守されているかを随時確認しています。労災申請があったことが契機となって調査が実施される場合もあります。

4 臨時検査の通知が来た場合の初動対応のポイント

技能実習法においては、外国人技能実習機構(OTIT)が実習実施者等に対して、報告を求めたり検査を行ったりすることが予定されています(技能実習法14条1項)。検査については予告なく行われる場合もあるとされていますが、事前に連絡があることも多いです。

その際、初動対応として下記のような点が重要になります。

⑴ 誠実に資料提出等の協力をすること

検査に対しては、求められた資料を提出し、必要に応じて社内確認を行うといった誠実な対応をすることが必要です。書面の隠蔽、偽造といった対応は、より重い処分につながるのみならず、刑法犯に該当する可能性もあります。

⑵ 曖昧な記憶に基づく回答は避けること

検査担当者からの質問事項に対しては、既にそれなりの時間が経過している、記録が残っていない等の理由から、記憶が十分残っておらず回答が難しいという場合もあります。

もし、曖昧な記憶に基づいて回答をした結果、他の関係者との話や客観的証拠との矛盾が生じてしまった場合には、大きな不利益となり得ます。

そのため、事実関係が不明な点や、記憶の整理のために時間が必要である場合は、その旨を率直に伝えて、機会を改めて回答することが望ましいといえます。

⑶ 不利な事実についても正直に回答すること

法令違反の事実が存在しているなど、不利な事実がある場合でも、それを意図的に隠すことは避けなければなりません。悪質な事例と判断され、重く処罰される可能性があります。

もし法令違反がある場合には、検査の初期段階でその事実を認め、具体的な改善計画と再発防止策を自主的に提示することが重要です。

5 認定取消しの可能性がある場合の対応

万が一、行政から重大な指摘を受け、認定取消しの可能性が出てきた場合でも、法的に定められた手続きを通じて反論の機会はあります。

それは、行政に対する弁明書の提出です。認定取消しが予想される場合は、出入国在留管理庁や厚生労働省からの書面によって、弁明の機会付与の告知があります。すなわち、いきなり処分を行うのではなく、まず当該企業の話(弁明)を聞くという手続きです。この手続きにおいて、企業側の認識を書面で提出し、併せて関連する証拠資料を提出することとなります。また、必要があれば、弁護士を代理人に選任して、企業に代わって弁明を依頼することも可能です。

また、制度上は、認定取消処分が下された後も、当該処分の取消し(すなわち「取消しの取消し」)を求める不服申立て(審査請求)や、処分の執行停止といった手段も存在します。もっとも、一度下された処分を覆すことは容易ではありません。企業側に正当な言い分がある場合には、事前の弁明書の提出段階で全ての主張を漏れなく記載、提出することが非常に重要となります。

6 認定取消事由に該当しないための予防策

自社が気づかぬうちに認定取消事由に該当してしまうことがないようにするためには、技能実習生の受入れに当たって、まずは基本的な法令遵守が重要となります。その際、次のような点にも注意する必要があります。

⑴ 監理団体に任せきりにしない

まず、監理団体に任せきりにすることの危険性が挙げられます。監理団体は重要なパートナーである一方で、丸投げは禁物であり、実習実施者自らが責任を持って技能実習計画を遂行することが重要です。また、僅かながら監理団体が不正行為を行っているというケースもあります。そのような場合に、監理団体の指示を鵜呑みにせず、法令違反ではないかと感じた場合には第三者に相談することも必要です。

⑵ 労務管理を徹底する

次に、労務管理を徹底することが挙げられます。特に労働時間については、タイムカードや打刻アプリによる客観的な方法によって労働時間を把握することが強く推奨されます。また、賃金については、割増賃金の計算を適正に行うことや、残業代の金額・控除の内訳等について実習生が理解できる方法で伝えることがトラブル予防のために重要です。

⑶ 実習内容の管理を徹底する

実習計画、実習日誌と実際の作業内容に乖離を生じさせないための管理体制も不可欠です。実習計画はもちろんですが、実習日誌についても、技能移転が計画通り進んでいるかを示す重要な資料です。管理者は、日誌を単なる事務作業と捉えず、内容が実態と合っているか、実習生が理解して記入しているかを定期的にチェックし、必要であれば面談を行って、作業内容と一致した適切な記載を指示することが必要です。

⑷ 技能実習生との信頼関係を構築する

実習の実施に当たっては、実習生との信頼関係の構築も重要です。実習生は言語や文化の違いから、不安があっても相談しにくい状況に陥りがちです。トラブルの予防のためには、必要に応じて通訳を介する形での定期的な面談の実施や、日本語学習の支援といった支援体制が効果的です。

もっとも、信頼関係の構築に当たって、実習生の要望を全て受け入れれば良いというわけではありません。実習生の要望を聞いた結果、法令違反の対応をしてしまったという事態に陥ることがないよう、制度上応じられない要望については毅然とした姿勢で臨む必要があります。

7 技能実習制度の違反や認定取消しについては弁護士にご相談を

ここまでの解説の通り、技能実習制度において法令違反は特に避けなければならない事態です。しかし、技能実習制度自体が複雑であることや、企業全体としてのコンプライアンス体制が問われるということもあり、企業の担当者のみで対処することに限界があるという場合もあります。

杜若経営法律事務所においては、技能実習関係を含む企業の労務問題を全般的に取り扱っており、実習実施企業の顧問も多数担当しています。自社の体制に少しでも不安がある、検査の通知が来て対応に困っている、あるいは既に行政から何らかの指摘を受けているという場合には、弁護士へのご相談もご検討ください。

 

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この記事の監修者:釋英導弁護士


釋英導(しゃく えいどう)

杜若経営法律事務所 弁護士
釋英導弁護士 (しゃく えいどう)

【プロフィール】
北海道出身。慶應義塾大学法科大学院修了。2022年弁護士登録(第一東京弁護士会)。経営法曹会議、宗教法制研究会会員。 企業の人事労務関係を専門分野とし、個々の企業に合わせ専門的かつ実務に即したアドバイスを提供する。これまで未払残業代請求訴訟やハラスメント調査、団体交渉など、多数の労働事件について使用者側の代理人弁護士として幅広く対応。 自らは寺院の出身であり、宗教法人法務を探究する宗教法制研究会にも所属している。

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