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中古自動車販売買取店舗(以下「買取店」といいます。)の店長について管理監督者性が認められた裁判例(岐阜地裁R6.8.8判決)をご紹介致します。
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目次
被告は自動車及び自動車部品販売業等を主たる目的とする株式会社であり、Aは被告が運営する買取店において店長として勤務していました。
本件は、Aが被告に対し、未払時間外割増賃金等の支払いを求めた事案です(ほかにパワハラによる損害賠償請求もあり、これは認容されました)。なお、Aが訴訟中に亡くなったため、Aの父母である原告らが訴訟手続を承継しました。
本件の主な争点は、Aが労基法上の管理監督者に当たるか否かです。
裁判所は、管理監督者性の判断について、行政解釈を踏まえ、職務内容並びにこれに対応する責任及び権限、勤務態様、人事に関する権限、待遇等の観点から総合的に判断すべきとしました。
ア 買取の営業に関する権限
主に他店の店長の証言をもとに以下のように認定しました。
買取店に車の査定の申込みがあった場合、店長が、買取希望者(顧客)や査定(買取り)の対象となる車、各従業員の得意とする顧客や車種、各従業員の予定等を総合的に勘案して、当該車の査定担当者を決めており、この意識決定に、被告の本部やエリアマネージャーが介入することはない。
イ 買取りを行うか否か及びこれを行う場合の買取金額を決定する権限
買取店の店長は、買取りを行うか否か及び買取金額についての決定権限を有していたと認定しました。
ウ 買取後の業務の権限
買取店の店長は、顧客への代金の振込みの承認権限及び買い取った車の販売方法を決定する権限を有していたと認定しました。
店長に対し、開店時刻の午前9時までに店舗の画像をグループライン等に投稿するよう指示がされており、店長は開店時刻前に店舗内を確認し、画像を投稿できるように出勤することが事実上義務付けられていました。この点について裁判所は、開店準備及びその確認を店長自ら行うべきとの考えから行われていたものと考えられ、出勤時刻について事実上の拘束を受けることになるとしても、店長の責務として一定の合理性が認められるため、直ちに労働時間に裁量がないとはいえないとしました
また裁判所は、店長は、業務量が多い等の場合には、一定程度残業をせざるを得ないため、早めに退勤するなど適宜柔軟に対応することは実際にはあまりできなかったとしました。しかし、この点についても、店長の職責や職務内容に起因するものであり、被告から店長の退勤時刻について指示があるわけではなく、裁量自体は有しているとしました。
以上から、買取店の店長は、出退勤について事実上の制約を一定程度受けるものの、これらをもって直ちに、労働時間に関する裁量がなく管理監督者としてふさわしくないと判断することは相当でないとしました。
店長は、正社員の採用面接を行い、面接内容や採用・不採用の意見を本部に報告しており、それがそのまま採用されていたとして、採用権限ありとされました。なお、店長が不採用とした判断が覆されたケースもありましたが、判断の前提事実に誤りある等特段の事情がある場合に限られるとしました。
部下の人事考課に関する権限については、主任等への昇格について、店長の推薦が必須とされ、店長の意見が非常に重視されることから、人事考課を実質的に左右する一定の権限ありとされました。また、他の従業員のシフトを決定する権限も有しているとされました。
他の従業員の給与月額が16万円台~18万円台であるのに対し、店長の給与月額は58万円でした。また、年間総支給額も、他の従業員が残業手当含め500万円台~600万円台であるのに対し、店長は1110万1238円でした。
歩合についても、店長の歩合は店舗全体の利益とも連動(店舗の経常利益の5%)しており、他の従業員と異なっていました。
裁判所は上記の認定に基づき、買取店の店長は、自身が店長を務める買取店という一店舗単位でみれば、当該店舗の実質的な経営者であると評価することができ、利益を生み出す主体である買取店の、被告における重要性に鑑みれば、買取店の店長は、被告の経営者と一体的な立場にあるとも評価することができるとし、労働基準法41条2号の管理監督者に該当するとしました。
本件で裁判所が判示しているとおり、管理監督者性の判断は、責任及び権限、勤務態様、人事に関する権限、待遇等の総合的判断によるものであり、そのうち一つに疑わしい点があったからといって直ちに管理監督者性が否定されるものではありません。
このような観点から本件を検討すると、本件では店長と他の従業員との待遇差がかなり大きいという点が管理監督者性を認める大きな要素になったのではないかと思います。
また、通常の業務である中古車の買取という業務について言えば、ファーストフード店の店長のような場合と比べ、1件1件の取引が大きく、そのまま店舗経営の重要部分となると評価されやすい(職務内容、権限が大きいと評価されやすい)と考えられます。
通常、店長の管理監督者性が争点となるような事案では、重要な会議への出席、そこでの役割、予算策定への関与等について主張立証することが多いと思いますが、本件ではそのような点について主張立証がされた形跡は見られません。
また通常業務に従事する等で、事実上労働時間について裁量がない場合には、管理監督者性が否定されることが多いと思います。本件でも事実上の拘束力の点は、裁判所の言い方も微妙です。
これらの点があるにしても、待遇と買取権限の店舗における重要性が評価され、管理監督者性が肯定されたと言えるでしょう。
この記事の監修者:岡 正俊弁護士
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