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弁護士の平野剛です。今回は、労働者が私的なGoogleカレンダーでつけていた記録をもとに労働時間が認定できるかが検討された裁判例(東京地裁令和6年4月11日判決)をご紹介します。
勤怠管理システム記録と私用カレンダーの信用性の優劣
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目次
本件の被告会社では、オンライン上での勤怠管理システム(判決で「KOT」と略称)を用いて労働時間管理が行われていました。このシステムでは、専用のアプリにより携帯電話から出勤、退勤、休憩の開始及び終了を打刻することができ、打刻時間とともに打刻時の位置情報も記録されます。また、失念した打刻を後から入力したり、打刻時間を修正することも可能で、修正する場合は従業員がシステム上で修正申請を行い、上司がこれを承認することになっていました。
被告会社では、平成29年当時、従業員に対し、KOT記録の時間外労働が45時間を超過した場合には45時間以内に収まるようにKOT記録の修正申請を行わせていたことがありました。
本件では労働時間が争いとなり、会社はKOT記録により労働時間が認定されるべきと主張したのに対し、原告は、会社の指示に基づきKOT記録の修正が行われており、その内容は実労働時間を反映していないとして、自らが私用及び業務のスケジュール管理に用いていたGoogleカレンダーの記録により実労働時間を認定すべきであると主張しました。
裁判所は、平成29年当時に上記のようなKOT記録が修正された事実を認定しつつ、本件で問題となった平成30年11月以降の原告のKOT記録について検討しました。
検討にあたり、原告の時間外労働時間数が45時間を10時間以上超過していた月もあったこと、所定始業時刻より30分以上早い時間に打刻されている日が少なからず存在し、打刻時刻も日によって異なっていること、休憩時間も2時間超の日もあれば1時間足らずの日もあることに着目し、「原告のKOT記録の打刻状況は、始業及び終業、休憩開始及び終了した都度打刻したとみるほうが自然」と述べました。加えて、原告のKOT記録の時間外労働時間の大部分が45時間を大幅に下回っていること、原告は出退勤時間等の修正を行った日を具体的に特定した主張をしないことも指摘し、少なくとも本件請求期間における原告のKOT記録については、「KOT記録にない時間に原告が就労していたことを裏付ける証拠がある場合は別として、基本的には原告の実労働時間が正確に記録されていると認めるのが相当」と述べました。
ア 始業時刻
原告のカレンダー上では月曜日から土曜日までの始業時刻は概ね午前10時とされ、所定始業時刻である14時までの予定として人材採用に関する会議等の予定が入力されていました。
これに対し、裁判所は、採用候補者の人数からして毎日1時間採用に関する会議を行う必要性や報告事項があったとは考え難いことや、会議の資料を毎日送信していないこと、当該資料がKOT記録の始業時刻後に送信されていることに加え、カレンダーの記載が事後的に追記されたこと等を踏まえ、原告の始業時刻に関するカレンダー記録は信用性に疑問があるとして、KOT記録をもとに始業時刻を認定しました。
イ 終業時刻
原告カレンダー記録上は月曜日から土曜日までの終業時刻が翌日午前1時とされ、午前零時から午前1時までの間に「日々締め、データ更新送信」が入力されていました。
この点について、裁判所は「『日々締め、データ更新送信』は定型的に入力されたもの」、原告が裏付け証拠として提出したものについても「原告が午前零時から午前1時までの間に実施していたことを裏付けるものではな(い)」として、カレンダー記録を採用せずにKOT記録をもとに終業時刻を認定しました。
ウ 休日出勤
裁判所は、原告カレンダー記録上の休日出勤のうちの一部について、原告が休日に面談した事実を認めました。しかし、裁判所は「各面談を休日に実施した理由について具体的な説明はなく、被告がこれを黙認していたと認めるに足りる証拠もないことからすれば、前記各面談について、被告の指揮命令下における労務提供であったとは認められない」と判断しました。
本件では、結論として、労働時間に争いのある部分について、原告の私用Googleカレンダーの記録に基づかずに、勤怠管理システムの記録に基づいて労働時間を認定しました。一般的には、本件の被告会社で導入されているような勤怠管理システムの記録については相応の信用性が認められることが多く、労働者側でシステム記録上の始業時刻前や終業時刻後に使用者の指揮命令下で労務を提供していたことを裏付ける証拠に基づいて主張、立証する必要があるのが通常です。他方で、使用者側でシステム記録を不適切に修正させたりしていた場合には、システム記録の信用性が低下していきます。その意味で本件はかなり危うい事情があったと思います。
本件では、原告のシステム記録については、労働時間の過少申告をするようにというような会社の指示に基づいて打刻していたとは言い難い記録であったために、システム記録と矛盾する客観的な記録がない限り基本的に信用性が認められました。例えば、始業・終業時刻がどの日も殆んど同じ時刻になっていたり、休憩時間もほぼ一定の時間になっていたりする場合、それらの時刻・時間と矛盾する証拠が散見されると、労働者側でつけていた私用カレンダー等の記録とシステム上の記録を厳密に比較対照して検討されることも十分に考えられます。
本件では、原告が後付けで予定を入力したり、毎日行われるとは考え難い事柄を定型的に毎日の予定として入力しながら裏付け証拠がなかったりしたため、私用カレンダー上の予定が労働時間の認定根拠となるだけの信用性が認められないことは異論がないと思われます。労働者がつけていた記録が後付けではなくその当時にリアルタイムに近い形でつけていたもので、実際に労務を提供したことを裏付ける証拠がある場合には、当該記録に信用性が認められて労働時間が認定されることもあると考えられます。
この記事の監修者:平野 剛弁護士
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