試用期間とは|効力や注意点、期間の延長、本採用拒否について弁護士が解説

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試用期間とは、企業が採用した従業員の能力や適性、人柄などを評価するために設ける期間です。

この期間は、企業と従業員の双方にとって、互いのマッチングを確認する重要な機会となります。

試用期間中であっても労働契約は成立しており、労働基準法が適用されるため、企業は一方的に従業員を解雇することはできません。

試用期間の運用には注意点が多く、本採用拒否や解雇に至る場合は、法的な要件を満たす必要があります。

試用期間の基本的な理解

試用期間について、目的や期間の長さ、対象者、そして研修期間との違いを理解することは、円滑な雇用関係を築く上で非常に重要です。

法律で明確に定められていない部分も多いため、企業は就業規則や雇用契約書に詳細を明記し、従業員と共有することが求められます。

このような事前準備が、後々のトラブルを避けるために必要です。

試用期間の目的

試用期間の目的は、採用した労働者が企業の業務に適しているか、また企業文化に馴染めるかといった能力や適性、人柄を実務を通して見極めることにあります。

選考段階では判断しきれない部分を、実際に働いてもらうことで評価する必要性があるためです。

試用期間を設けるのは、書類選考や面接だけでは、応募者の真の能力や協調性を十分に把握することが難しいからです。

多くの企業が試用期間を導入しており、これは採用ミスマッチを防ぐ上で必要不可欠な期間だと考えられています。

企業側は、この期間を通じて、従業員が長期的に貢献できる人材であるかを見定めることになります。

試用期間の目的や期間、条件は、就業規則や雇用契約書、求人票に明記し、採用時に従業員と共有することが重要です。

これにより、認識のズレによるトラブルを防止し、従業員が自身が評価対象であることを理解することで、より合理的な評価や採否決定が可能になります。

試用期間の一般的な長さ

試用期間の長さは、法律で明確に定められていませんが、一般的には3ヶ月から6ヶ月程度が最も多く設定されています。

多くの企業が6ヶ月以内と定めており、特に3ヶ月以内とするケースが一般的です。

これは、労働者の能力や適性を見極めるためにある程度の期間が必要である一方で、1年や2年といった長期間の試用期間は、労働者にとって不安定な雇用状況が長期化し、不安につながるため、人材の離職や求職者から避けられるリスクがあるからです。

そのため、企業は適切な期間を設定することが重要とされています。試用期間の長さは、企業の就業規則で定められることが一般的です。

試用期間の対象者

試用期間は、正社員、契約社員、アルバイト、パート、派遣社員といった雇用形態にかかわらず、新たに採用される労働者の適性を見極める目的で設定されることがあります。

特に長期雇用が前提となる正社員の場合には、試用期間を設けて慎重に判断される傾向にあります。

これは、面接や書類選考だけでは分からない実務能力や企業文化への適合性、協調性などを実際に働いてもらう中で評価するためです。

試用期間中は、雇用契約が成立しているため、原則として労働基準法などの労働関係法令が適用されます。

試用期間中の労働条件と注意点

試用期間中であっても、労働者には本採用後の従業員と同様に労働基準法が適用されます。

企業は、試用期間であるからといって、恣意的に労働条件を決定したり、不当な取り扱いをしたりすることはできません。

特に、雇用契約の内容を明確にすること、給与や社会保険、有給休暇の取り扱い、そして試用期間中の退職に関するルールには細心の注意を払う必要があります。

これらの点について適切な対応がなされない場合、会社と従業員との間でトラブルに発展する可能性があります。

試用期間中の労働契約と法的効力

試用期間中の労働契約は「解約権留保付雇用契約」とされています。

これは、労働契約自体は既に成立しているものの、会社が労働者の能力や適性を見極めるために、一定の期間内に契約を解除する権利(解約権)を留保している状態を指します。

試用期間中であっても、労働契約が成立している以上、労働基準法をはじめとする各種労働関係法令が適用されます。

したがって、企業は試用期間中だからといって、自由に労働者を解雇できるわけではありません。

企業は、試用期間の目的や期間、労働条件などの詳細を、就業規則や雇用契約書に明確に明記し、労働者に対して十分に説明する必要があります。

これにより、後々のトラブルを防ぎ、労使双方の認識の齟齬をなくすことが重要です。

試用期間中の労働条件が本採用後の労働条件と異なる場合は、その内容も明確に示さなければなりません。

試用期間中の給与と賞与

試用期間中の給与は、本採用後の給与よりも低く設定される場合がありますが、これは違法ではありません。

ただし、その場合も各都道府県で定められている最低賃金を下回ることは許されません。

企業側と労働者側の双方が試用期間中の給与額について事前に合意していれば問題ありません。

また、求人票や雇用契約書に試用期間の給与について明確に記載しておくことが求められます。

残業代や休日出勤手当についても、試用期間中であっても通常の労働者と同様に支払われる義務があります。

賞与については、企業によって取り扱いが異なります。

多くの企業では、賞与の支給対象期間に試用期間が含まれない場合や、査定期間の在籍期間が短い場合は、支給対象外としたり、減額したりするケースが見られます。

賞与の支給については法的な義務はないため、企業の就業規則や賃金規程によって定められます。

試用期間中の社会保険と有給休暇

試用期間中であっても、企業は従業員を社会保険(健康保険、厚生年金保険)と労働保険(雇用保険、労災保険)に加入させる義務があります。

これは、労働契約が成立した時点で適用されるため、入社した日から加入手続きを行う必要があります。

たとえ試用期間中であっても、フルタイム勤務の従業員は社会保険の加入対象です。

雇用保険については、週の労働時間が20時間以上であれば被保険者となりますので、パートタイム勤務であっても加入対象となる場合があります。

年次有給休暇については、雇い入れから6ヶ月が経過し、かつその期間の出勤日数が所定労働日の8割以上であれば、10労働日の有給休暇が付与されます。

試用期間は、この勤続年数に算入されるため、試用期間が終わってすぐに有給休暇が付与されるわけではなく、入社日を起算日として勤続年数が計算されます。

試用期間の延長

試用期間の延長は、企業が従業員の能力や適性を十分に判断できない場合に検討されることがあります。

しかし、無条件に延長が認められるわけではなく、法的な要件と適切な手続きを踏む必要があります。

延長は従業員にとって不安定な状況を長引かせることになるため、企業は慎重に対応し、従業員への十分な説明と同意を得ることが不可欠です。

試用期間延長の要件

試用期間の延長が認められるためには、会社側がいくつかの要件を満たす必要があります。

まず、就業規則や雇用契約書に、試用期間を延長する可能性があること、およびその理由や期間が明確に規定されていることが必須です。

採用時に、従業員が延長の可能性について合意していることも重要です。

また、延長するに値する合理的な理由や特段の事情が存在しなければなりません。

例えば、従業員が病気や怪我で長期休業したために、業務遂行能力を十分に評価できなかった場合や、業務上のトラブルが発生し、評価に必要な情報が不足している場合などが該当します。

単に「評価がやや不十分」といった曖昧な理由での延長は、無効と判断される可能性があり、特に従業員の勤務実績が一定期間積み重ねられている場合は慎重な判断が求められます。

さらに、延長後の試用期間の長さが、社会通念上妥当な範囲であることも要件となります。

目安としては、当初の試用期間と合わせて1年以内とすべきとされています。

試用期間延長の手続き

試用期間を延長する際には、会社は定められた手続きを踏むことが重要です。

まず、就業規則に試用期間の延長に関する規定が明記されていることが前提となります。

規定がない場合でも、従業員本人の同意があれば延長は可能であると解釈される場合もありえますが、同意が自由な意思によるものでないと判断されると、延長が無効になる可能性があるので注意が必要です。

具体的な手続きとしては、まず試用期間中に従業員の改善指導を継続的に行い、問題点を具体的に把握します。

その上で、従業員に対して試用期間の延長が必要であること、その具体的な理由、および延長される期間を明確に伝え、理解を得ることが求められます。

延長の理由については、病気や怪我による長期休業で業務能力の判断が困難な場合などが該当します。

口頭での説明だけでなく、延長後の試用期間などを明記した同意書や合意書を作成し、従業員に署名・押印等を行ってもらい、書面で交付することが推奨されます。

これらの書類は、後のトラブルを避けるためにも保管しておく必要があります。

延長後も引き続き、従業員の能力や適性を見極めるための指導を行い、評価を続けることが重要です。

本採用拒否と解雇

試用期間中の従業員に対する本採用拒否は、通常の従業員に対する解雇と同様の法的性質を持つため、企業は慎重な対応が求められます。

安易な本採用拒否は不当解雇とみなされ、無効となるリスクがあるため、その法的性質、認められる条件、適切な手続きと注意点を理解しておくことが不可欠です。

本採用拒否の法的性質

本採用拒否とは、試用期間中の従業員に対し、期間満了時または試用期間中に、その後の本採用を拒否し、雇用契約を終了させることを指します。

法的には、この本採用拒否は通常の「解雇」と同様の性質を持つとされており、「解約権留保付き雇用契約」における解約権の行使と位置づけられます。

したがって、本採用拒否も労働契約法第16条に規定されている解雇権濫用法理の適用を受け、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合」には、違法かつ無効となります。

企業は、労働者の能力や適性を見極める目的で試用期間を設けていますが、この期間中であっても、自由に採用を拒否できるわけではありません。

不当な本採用拒否が認められた場合、企業は労働者の復職を認めなければならず、休業中の賃金支払いや慰謝料の請求を受けるリスクも生じます。

本採用拒否が認められる条件と具体例

本採用拒否が認められるためには、「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。

これは、試用期間が「解約権留保付き雇用契約」であるため、通常の解雇よりは広範に認められる傾向にあるものの、無制限ではありません。

具体的な例としては、以下のようなケースで本採用拒否が認められる可能性があります。

まず、従業員が募集された業務に必要な能力が著しく不足しており、指導しても改善の見込みがない場合です。

例えば、専門的業務を行う中途採用者が稚拙なミスを繰り返し、会社が度重なる注意指導を行ったにもかかわらず改善が見られないケースなどが挙げられます。

次に、無断欠勤や遅刻を頻繁に繰り返すなど、勤怠状況が著しく悪い場合も理由となり得ます。

また、正当な理由なく上司の指示命令に従わない、反抗的な態度を繰り返す、あるいは協調性がなく社内秩序を乱すような行為がある場合も該当します。経歴詐称も重大な理由となり得ますが、その内容によっては解雇が認められない場合もあるため、注意が必要です。

ただし、本採用拒否が認められないケースも存在します。例えば、採用段階で既に把握できた事情(性格やイメージなど、入社前から知り得た情報)を理由とする本採用拒否は、原則として認められません。

軽微なミスを理由とする場合や、企業側が十分な教育や注意指導を行わずに能力不足を理由に本採用拒否をする場合も、不当解雇と判断される可能性が高いです。

特に、新卒採用者や未経験者の場合、初めから仕事ができないことは当然とされ、会社の指導により育成すべきという考え方が取られるため、能力不足を理由とした解雇は慎重な判断が必要です。

企業は、問題がある従業員に対しては、本採用拒否を検討する前に、改善のための指導や教育を十分に行い、その記録を書面で残しておくことが重要です。

本採用拒否の手続きと注意点

本採用拒否は解雇と同様の法的性質を持つため、適切な手続きと細心の注意が必要です。

まず、試用期間の開始から14日を超えて就労している場合、本採用拒否であっても原則として30日以上前に解雇予告を行うか、または30日分以上の解雇予告手当を支払う義務があります。

解雇予告をせずに解雇予告手当も支払わない本採用拒否は、違法で無効と判断される可能性があります。

企業が本採用拒否を行う際には、以下の注意点に留意すべきです。第一に、本採用拒否の理由を客観的かつ合理的に提示できるように準備しておくことです。

勤務態度や能力不足を理由とする場合、具体的な記録(遅刻・欠勤の記録、業務上のミス、指導内容の記録など)を保管しておくことが重要です。

第二に、事前に十分な改善指導を行うことです。

従業員に問題点がある場合でも、企業側による改善指導が不十分だったと判断されると、本採用拒否が無効になる可能性が高まります。

労働者が業務を改善するための具体的な機会を与え、その努力を促すことが求められます。

第三に、雇用契約書や就業規則に、試用期間中の解雇に関する事項が明確に記載されているか確認することです。

もし本採用拒否が不当であると判断された場合、労働者は解雇の撤回や損害賠償を請求する権利を有します。

労働審判や訴訟に発展した場合、企業は労働者の復職を認めなければならず、大きな負担となる可能性があります。

労働者側が本採用拒否に納得できない場合は、企業に対して本採用拒否の理由を明確に示すよう求めることができます。

必要に応じて、労働基準監督署や労働局といった行政機関、あるいは弁護士に相談し、法的なサポートを受けることも有効な手段です。

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この記事の監修者:樋口陽亮弁護士


弁護士 樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

【プロフィール】

出身地:
東京都。
出身大学:
慶應義塾大学法科大学院修了。

2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。経営法曹会議会員。
企業の人事労務関係を専門分野とし、個々の企業に合わせ専門的かつ実務に即したアドバイスを提供する。これまで解雇訴訟やハラスメント訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件など、多数の労働事件について使用者側の代理人弁護士として幅広く対応。人事労務担当者・社会保険労務士向けの研修会やセミナー等も開催する。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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