試用期間中の5日半の欠勤と解雇の有効性

試用期間中の5日半の欠勤と解雇の有効性

今回ご紹介するC事件(東京地裁令和5年11月16日判決・労経速2555号)は、試用期間中に逮捕勾留されたことを会社に報告せず、結果として5日半欠勤した従業員の解雇が有効と認められた事案です。
欠勤日数5日半を短いとみるか長いとみるか、また逮捕勾留された事実を報告していなかったこと(結果として処分保留で釈放)を裁判所がどう考えているか、とても参考になる事案です。
実際に家族や弁護士から「しばらく会社に行けない。それまでは有給休暇を取らせてほしい。出社できない理由はちょっと言えない」という形で、会社に連絡が入ることがあります。理由は様々考えられますが、今回のケースのように、逮捕勾留されている場合があります。

 

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1 欠勤の理由を述べなかった

今回のケースも令和4年7月1日に入社し、試用期間中(6か月)である10月29日に逮捕され、11月18日まで勾留されていました。そのため弁護士を通じて10月31日、11月1日は個人的な事情によって有給休暇を取得したいと連絡をしました。その後も引き続き有給休暇を取得したいこと、有給休暇が無くなってしまったあとは振替休日を使用したいと通知をしました。

会社は、有給休暇の取得等によって11月10日までは欠勤が認められるが、11日以降については事情を説明されないままでは欠勤を認めることはできない、このままでは会社としても厳しい判断をせざるを得ないかもしれない、事情の説明は試用期間中における両者の信頼関係を保てるか否かを判断するためにも必要である等、通知しました。

それでも本人は、欠勤の理由は個人的事情によるものだということで理解してほしい、来週末までは欠勤になる予定であると伝えるだけで、逮捕勾留されたことを報告しませんでした。

結果として11月11日から18日の午前中まで欠勤し、そのため会社は試用期間中の解約権を行使して、解雇としました。

2 裁判所の判断

裁判所は「5日半の欠勤については、労働者の労働契約における最も基本的かつ重要な義務である就労義務を放棄したものとしてそれ自体重大な違反であるといえる。」「5日半の欠勤に先立ち有給休暇及び振替休日を取得しているものの、本件逮捕勾留という事の性質上、引継ぎ等がされたとは考え難いから、これらを含めれば、被告において、原告が突然長期間不在になったことによって多大な迷惑を被りその穴を埋めるために対応を余儀なくされたことは明らかである。」「被告から欠勤について事情の説明を求められても、被告に対し、個人的事情によるものとしか説明していない。」「犯罪による身柄拘束といった高度にプライバシーに関わる事項であるものの、それを知らない被告から欠勤について事情の説明を求められるのは当然である。原告は、本件解雇後、被告に対し、欠勤の理由が本件逮捕勾留であることを伝えているものの、それであれば、欠勤する際に伝えるべきであり、本件逮捕勾留について被告に対し一切伝えないといった当時の対応は不適切であったといえる。」「原告は、被告において勤務を開始したばかりで被告との間の信頼関係を徐々に構築していく段階であったところ、被告に対し、欠勤の理由について個人的事情によるものとしか回答しない状態であったから、被告からすれば、原告の就労意思すら不明であるし、原告について仮に本採用をしても理由を明らかにしないで突然長期間の欠勤をする可能性がある無責任な人物と考えるのは当然である。」「原告の上記対応によって、原告と被告との間の労働契約の基礎となるべき信頼関係は毀損されたといえる。」「不起訴処分後に起訴することは妨げられないこと、犯罪の内容等によっては逮捕勾留の事実も社会的に半ば有罪と同視されてマスコミ報道等で取上げられ被告の社会的評価が毀損されることもあり得ることによれば、原告を本採用することは、被告においてなおさらリスクが高かったといえる。」として、解雇有効と判断しています。

なお原告は、不起訴処分になっており逮捕勾留は不当な身柄拘束であったと主張しましたが、裁判所は「身柄拘束を受けるだけの犯罪の嫌疑があったことは明らかであり、事後的に不起訴処分になったことによって直ちに本件逮捕勾留の適法性が左右されるものではない(なお、原告の不起訴理由が嫌疑不十分であることを認めるに足りる的確な証拠はない)。また、原告は、本件逮捕勾留について罪名及び被疑事実すら明らかにしておらず、本件逮捕勾留が明らかな冤罪であり不当な身柄拘束であるといったことを認めるに足りる具体的な主張立証はない。」として、本件逮捕勾留について原告が無責でありこれを考慮すべきではないとの主張は採用できないと判断しています。

3 試用期間中という事情

今回の事案は試用期間中でこれから信頼関係を構築していくという場面であり、その期間に理由も述べないで欠勤したことを裁判所は重く捉えているように思います。

また、逮捕勾留についても、身柄拘束を受けるだけの犯罪の嫌疑があったことや、それによる欠勤について仮に不起訴であったとしても、その欠勤について労働者の責任が全くないものではないと評価している点も参考になります。

 

この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士


岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
【Podcast】岸田鑑彦の『間違えないで!労務トラブル最初の一手』
【YouTube】弁護士岸田とストーリーエディター栃尾の『人馬一体』

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