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目次
定年後再雇用になった場合、正社員時と全く同じ仕事・責任・配置の変更の範囲である場合、果たして賃金を下げることは違法なのではないか?と議論されてきました。
これまで問題になってきた判例は長沢運輸事件など労働契約第20条が適用された事例でした。労働契約法20条とはいわゆる均衡待遇と言いまして、簡単に言うと無期雇用(多くの場合正社員)と有期雇用とのバランスを考えて不合理と言える場合にのみ違法と判断するものです。言い換えれば、正社員と有期雇用の賃金等の待遇にある程度差異があっても、色々な事情を踏まえて不合理と言えなければ適法と判断するものです。しかも、基本給や手当、賞与など賃金項目毎に個別に判断するものでした。ある程度の幅を許し、かつ部分的にしか違法と判断しないものでした。
ところが、現在の短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(以下「パート有期法」と言う)9条は、均等待遇と言いまして、条文の要件を充たすような無期雇用(多くの場合正社員)とパート・有期雇用従業員との差別的取扱いを一切許さず、極端に言えば同じ賃金を支払わないと違法と判断する内容なのです。とても強烈な条文であり、適用を認めた場合には多大な影響が出てしまうものです。
日本では、多くの場合、定年後再雇用になると正社員時と全く同じ仕事をしているのになぜ賃金を下げるのでしょうか?そしてなぜそれが許されるのでしょうか。
例外はありますが、実は多くの場合、定年後再雇用時に、賃金の中の年功部分をカットしているのです。日本の文化とも言えると思いますが、同じ会社に長く勤めている場合、特に子供の教育費や住宅ローンなどで生活費が必要な年代にさしかかった場合賃金を上げる方式が長く行われてきました(今もそうだと思います)。必ずしも賃金上昇は知識・技術の向上や役職の昇進などとは比例していないのです。
ところが、企業としてはいつまでも年功賃金を維持するのは負担が重いので、定年後再雇用時に一度リセットして、定年後再雇用時の仕事の内容・責任・配置の変更の範囲を踏まえて賃金を決めている(多くの場合、正社員時より減額)場合が多いと思います。その代わり65歳までの再雇用としての雇用を維持しているのです。
ところがパート有期法9条にはパート有期法8条にある「その他の事情」のような曖昧な清濁併せ呑むような条項がありません。パート有期法8条は、何か特殊な事情がある場合は結論の妥当性を図るための調整弁として「その他の事情」という条項を用いてきましたが、パート有期法9条には「その他の事情」という条項がないのです。パート有期法9条は非常に潔癖な条文といえる内容です(融通が利かない条文とも言えます)。
私は果たして定年後再雇用の賃金減額について、裁判所はパート有期法9条の適用を認めるのか従来から関心を持っていましたが、ついに定年後再雇用にパート有期法9条を適用しないと判断した裁判例が出ました。
(1)事案
原告は、障がい者支援施設を経営する被告法人を定年退職した後、有期雇用契約を締結し、Y法人に支援員として再雇用されましたが、正規職員と嘱託職員との待遇の相違(①期末・勤勉手当の不支給、②扶養手当の不支給、③夏季休暇・年末年始休暇の不付与)について、パート有期法8条、9条に違反するとして、損害賠償等の支払いを請求した事案です。本稿では、パート有期法9条についてのみ紹介します。
(2)パート有期法9条についての判断(適用否定)
裁判所は、パート有期法9条には労働契約法20条にはない「短時間・有期雇用労働者であることを理由として」という要件が明確に示されていることを指摘し、パート有期法第9条の違反が認められるためには、単に処遇の違いが期間の定めに関連しているだけでは不十分であり、その処遇の違いが有期雇用契約であることを理由とするものでなければならないと判断しました。
「この点,被告の臨時職員就業規則においては,定年後再雇用の嘱託職員とそれ以外の臨時職員とで,期末・勤勉手当につき特段異なる定めがされているものではないものの,嘱託職員とそれ以外の臨時職員とで異なる処遇とすることを許容し得る定めになっている。そして,定年後再雇用の嘱託職員と正規職員との期末・勤勉手当に係る処遇の相違の理由は,定年前に正規職員として長期雇用と年功的処遇を前提とした賃金の支給を受けたことや退職金の支給を受けたことなど,嘱託職員以外の臨時職員にはない事情を考慮したものといわざるを得ない」とし、原告が定年後再雇用の嘱託職員であるために期末・勤勉手当が支給されないことは、有期雇用労働者であることを理由とした差別的な取り扱いには該当しないとの結論を下しました。
この判決は東京高裁においても維持されました(東京高裁令和5年10月11日判決)。実は上記判決の理由付けは、私ども会社側で労働事件を扱う弁護士が唱えていたものなのですが、このようにあっさり採用されたことには驚きました。定年後再雇用にパート有期法9条を認めた場合の影響の大きさも裁判官の判断に少なからぬ影響を与えたものと思います。
今後同種の判決が登場すると思われますので、またご紹介したいと思います。
この記事の監修者:向井蘭弁護士
杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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