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更新担当者 弁護士 平澤大樹
2019年5月に成立したパワハラ防止法は、労働環境におけるハラスメント対策を強化するための重要な法律です。フレームワークは同じく、2020年6月からは大企業、2022年4月からは中小企業にも適用が拡大されています。この法律は、企業に対してパワハラに関する相談体制の整備を義務付けていますが、実際にはどのような手続きを行うべきでしょうか?
具体的な対策としては、まず職場においての意識向上が挙げられます。全従業員、特に管理職に対してパワハラの定義や具体的な行為を理解させるための研修が不可欠です。例えば、自社の事例を用いて、どのような行為がパワハラに該当するかを説明し、相談を促進する環境づくりを図ると良いでしょう。また、労働者がパワハラを報告しやすいように、匿名での相談窓口を設置することも考慮すべきです。
さらに、パワハラが発生した場合の迅速な対応も重要です。調査には、当事者からのヒアリングだけでなく、必要に応じて第三者の意見を取り入れることで、より客観的な判断が可能になります。加えて、事実確認の結果、パワハラが認定された場合には、適切な対策を講じることが求められます。これは、加害者への懲戒処分や、被害者に対する保護措置などが含まれます。
万が一、法的請求や訴訟が生じた場合、企業は重大な法的リスクに直面します。このため、ハラスメントに関する知識を持つ専門家と連携し、適切な対策を取ることが求められます。近年、SNSでの情報拡散が迅速に行われるため、一度パワハラが公にされると、企業イメージへの打撃は計り知れません。以上の観点から、パワハラ防止と対応のためには、早期の相談と適切な対応が不可欠です。
実際「相談窓口に『〜』という相談があったのですが、これはパワハラに該当するのでしょうか?」や「どのように対応したら良いのでしょうか?」といったようなご相談は、増加傾向にあります。
どのような行為がパワハラに当たるのか、パワハラの申告があった際どのような対応をすべきなのか、初動対応を誤ってしまうと火種は一瞬にして燃え上がりかねません。
本ページでは、弁護士が、パワハラの認定基準やパワハラ発生後の対応方針について解説いたします。
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目次
パワハラ防止法において、会社はパワハラ防止措置の施行が義務付けられています。
このため、すべての企業は、従業員に対し安全で快適な労働環境を提供する責任があります。
もし当該施策を怠り厚生労働省が必要と認めた場合には、助言または指導ないし勧告の対象となり、勧告に応じない場合には企業名が公表されることもあります。
このような状況は、企業にとって大きな信用失墜や、ビジネス上の悪影響を及ぼす可能性があります。
パワハラ防止措置は、以下のように大別することができます。
まずは、従業員への教育や研修を通じて、パワハラの理解度を向上させることが求められます。
次に、相談窓口の設置や、匿名での報告が可能な環境の整備が重要です。
このような対策によって、従業員が安心して問題を報告できる状況を作り出すことが、パワハラ防止には欠かせません。
最後に、具体的な事例に基づいた対応マニュアルの作成と、必要な実施計画の策定が推奨されます。
これにより、企業全体でパワハラ防止の意識を持つことができるため、組織文化の向上にも繋がります。
ハラスメントを許さない方針を社内規定に明記し、パンフレットやポスターを通じて広く周知する取り組みが必要です。例えば、会社のウェブサイトやイントラネットを活用してハラスメント防止に関する資料を掲載し、全従業員が簡単にアクセスできる環境を整えることが重要です。
さらに、定期的な社内研修やワークショップを開催することで、従業員がハラスメントの具体例やその影響について理解を深めやすくなります。研修でロールプレイを行い、実際に職場で発生する可能性のある事例について議論し、効果的な対処法を学ぶ機会などがあることは理想的です。このような取り組みを通じて、社員が自発的にハラスメントの発生を防ぐ文化を醸成することが期待されます。
また、パワーハラスメントの行為者に対する厳正な対応方針を明確にし、就業規則やマニュアルにその内容を記載することも重要です。懲戒処分に関する規定を設けておくことで、実際に問題が発生した場合にも円滑かつ透明な対処が可能になります。まずは警告や注意を行った後、必要に応じてより厳しい措置を講じる流れを定めておくことが考えられます。
さらに、企業としてはハラスメントが発生しないよう、情報収集を行い、労働環境における潜在的な問題を把握することも必要です。従業員からの意見やフィードバックを積極的に収集し、問題が顕在化する前に対策を講じることで、組織の健康を保つことができます。
就業規則に明記がない場合、懲戒処分が無効とされるリスクがあるため、これを避けるためにも早急な見直しが求められます。企業文化を形成し、パワハラを根本から防ぐためには、トップダウンでの取り組みとともに、全従業員の共通理解が不可欠です。
企業がパワハラに適切に対処するためには、相談体制の整備が不可欠です。まず、相談窓口を設置し、その存在を従業員に広く周知することが求められます。従業員がパワハラに関する相談ができる環境を整えることで、早期の問題解決が可能になります。
また、相談窓口には専門の担当者を置き、適切な対応方法をあらかじめ定めておくことが重要です。担当者は、ハラスメントに関する知識を持ち、一次対応に際して必要なスキルやマニュアルを習得させておくと良いでしょう。
さらに、相談が寄せられた際には、受け取った内容に応じて、丁寧にヒアリングを行うことが大切です。このヒアリングでは、主観を排除し事実に基づくレポートが必要です。具体的には、相談者の発言をそのまま記録するのではなく、事実確認のために「いつ」「どこで」「誰が」「どのように行動したのか」など、詳細な情報を引き出すことが中心になります。相談者のプライバシーを守るために、個別のヒアリングを行うことも大切です。
また、相談窓口はハラスメントの可能性がある事例に対して柔軟に対応する必要があります。問題が発生している現場に直接関与しない形で、他の従業員からの証言を集めることも考慮してください。これにより、当事者だけの言い分ではなく、客観的な視点からの評価が可能になります。
このような相談体制を整えることで、従業員は安心して問題を報告でき、企業全体の信頼性も高まります。さらに、企業がハラスメント防止に取り組んでいる姿勢を示すことによって、従業員のモチベーションや業務に対する意欲も向上するでしょう。
最後に、相談体制の見直しや改善が常に求められることを忘れないでください。定期的な研修やフィードバックを通じて、担当者や従業員のスキルアップを図り、より良い職場環境を実現するための努力が求められます。
相談者及び行為者の双方からの事実確認は必須ですが、一方の意見だけでは全貌を把握できない場合もあります。
そのため、第三者への聴取も必要な場合があることを留意しておくべきです。事実関係の確認が取れた場合は、被害者に対する配慮措置を迅速に講じる必要があります。
具体的な対応として、被害者が安心して働けるような環境整備が求められます。たとえば、被害者の勤務条件の改善、健康管理支援を行ったりすることで、相談者の精神的な回復を助けることが求められます。
同様に、行為者に対しては適切な措置を迅速に実施することも重要です。可能性として、警告や指導、懲戒処分を通じて行為者の行動を改善するよう努める必要があります。
また、事案の内容を踏まえ、被害者と加害者の職場内での関係を改善するための介入策も検討されるべきです。実際にはケースに応じて、双方を引き離すための配置転換やチームの再編成を行うことで、より健全な職場環境の確保を図ることが考えられます。
さらに、再発防止策も不可欠です。全社員へのハラスメントに関する周知徹底が求められ、これには教育プログラムや資料の配布が効果的です。
パンフレットやセミナーを通じて、ハラスメントを許さない職場文化を育むことが必要です。具体的には、過去の事例を使った研修や模擬セッションを実施し、全従業員の意識を高める取り組みが重要でしょう。
また、今後のモニタリング制度を設け、ハラスメントの兆候をいち早くキャッチし、対応する仕組みを構築することも企業の責任です。
これらの取り組みによって、職場の安全性と快適さを向上させることで、従業員の士気や生産性の向上につなげることが期待されます。
さらに、企業には内部通報窓口を設置し、従業員が匿名で安全に相談できる環境を整えることが求められます。このような措置を講じることで、従業員がパワハラの問題を躊躇せずに報告できるようになります。
そして、定期的な研修や実地訓練を行い、パワハラに対する知識や理解を常に更新することも重要です。こうした予防策を講じることで、企業は健全な職場環境を築き上げることができるでしょう。
相談者・行為者等のプライバシーを保護するために必要な措置を講じ、労働者に周知することが重要です。プライバシーの保護は、安心して相談できる環境を作るための基本的な要素です。具体的には、聴取した内容について守秘義務があることを徹底する、相談内容を記録する際には個人が特定できないよう防止策を設けるなどの対策が考えられます。
さらに、事業主に対して相談したことや、事実関係の確認に協力したことを理由として、労働者が解雇やその他不利益な取扱いをされない旨を明確に定め、労働者に周知・啓発することが不可欠です。このような措置により、労働者は安心して自身の権利を主張できる環境が整います。
また、相談者及び行為者等のプライバシー保護のための必要事項を、マニュアルやガイドラインに整理し、相談窓口の担当者に徹底させる必要があります。この点においては、具体的な手続きや実行方法を明文化し、担当者への研修を定期的に行うことが求められます。
さらに、相談窓口へのアクセスをしやすくさせるため、相談をしたこと自体を理由として不利益な扱いを受けないことを、労働者に周知することも重要です。これにより、従業員は自分の権利を守るために積極的に声を上げることができるようになります。
このように、相談窓口の存在を明確にし、適切な対応が取られることを周知することは、職場全体の信頼感を向上させるために必須の措置となります。具体的には、定期的に社内のお知らせやメールを通じて、相談窓口の利用方法やその重要性を再確認することが効果的です。
また、社内研修やワークショップを通じて、従業員全体に相談窓口の存在を広める取り組みも重要です。こうした取り組みを通じて、よりオープンで協力的な職場環境づくりに貢献し、労働者が自らの権利を守るための第一歩となるでしょう。
加えて、都道府県労働局などの外部関係機関との連携や援助制度を利用できることも周知させると良いでしょう。これにより、労働者は公的な支援を受けつつ、安心して相談を行えるようになります。
次にどのような行為がパワーハラスメントと認定されうる行為なのか解説します。
また、杜若経営法律事務所のYouTubeチャンネル(かきつばたチャンネル)には、どのような行為がパワハラに該当するのか実例も交えながら解説した動画もありますので、ぜひご参考ください。
これまで、パワハラとは「力関係において優位にある上位者が下位者に対し、精神的身体的に苦痛を与えること等」捉えられてきましたが、上記パワハラ防止法により以下の全ての要素を満たすものがパワハラになると定義されています。
(雇用管理上の措置等)
事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務で必要かつ相当な範囲を超えるものによってその雇用する労働者の就業環境が害されないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備を講じる必要があります。
①職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
・「職場」とは
労働者が業務を遂行する場所を指し、通常就業している場所以外の場所でも、労働者が業務を遂行する場所である限り「職場」に含まれるとされています。例えば、事業所の外であっても、出張先や業務用車両の中、勤務時間外の飲み会や接待の席などでも、職務との関連性や参加者、参加や対応が強制的か任意かといった要素から実質的に職務の延長と見なされる場合、「職場」に該当すると考えられています。
・「優越的な関係を背景」とは
ビジネスを遂行する中で抵抗や拒絶ができない蓋然性が高い関係性を背景に持つ言動を指します。つまり、優越的な関係を背景とした行動であれば、必ずしも上司から部下への言動に限られるわけではなく、同僚や部下からの言動も職場内の人間関係やその行為が集団的である場合、対象者にとって当該言動を拒否することが難しい状況であれば「パワハラ」に該当する場合があり得ます(世間では上司へのパワハラを「逆パワハラ」と呼ぶこともありますが、法律上はこの場合も「パワハラ」該当性を検討することになります)。
厚生労働省のガイドラインには、次のような「優越的な関係を背景にした言動」の具体例が挙げられています。
・職務上の地位が上位の者による言動
・同僚や部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や経験を有し、当該者の協力が得られない場合に業務の円滑な遂行が困難であるもの
・同僚や部下からの集団による行為で、これに対して抵抗または拒絶が難しいもの
②業務上必要かつ相当な範囲を超える言動であること
社会通念上、当該言動が業務上明らかに必要性がない、またはその態様が過剰である場合には、この要素が満たされると見なされます。たとえば、上司が部下に対して指導を行う場合でも、他の労働者の前で叱責したり、不必要に長時間拘束して注意を促す場合には「業務上必要かつ相当な範囲を超える言動」があったとされることがあります。そのため、業務上の指示や注意指導であったとしても、上司の指導方法が適切であったどうかも問題となり、過度に感情を任せて叱責することには注意が必要です。
③労働者の就業環境が害される言動であること
労働者が身体的または精神的な苦痛を受け、就業環境が不快となり、能力の発揮に重大な悪影響が出たり、就業する上で支障が生じることを意味します。この要素の判断においては、対象の労働者の主観的な感じ方ではなく、「平均的な労働者の感じ方」、つまり、同様の状況で当該言動を受けた場合に社会一般の労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じたと感じることが基準にされるべきですので、注意する必要があります。
また、厚生労働省が発行するパンフレットによるとパワハラは以下の6つの類型に分類できるとされています。
①身体的な攻撃
例えば、物を投げつけたり殴ったり蹴ったりするなどのいわゆる暴行のほか、注意指導の最中に胸ぐらを掴む行為なども「身体的な攻撃」に含まれます。これにより、被害者は心身ともに傷つき、職場環境が悪化します。
②精神的な攻撃
例えば、対象の従業員の人格を否定するような言動の他、他の従業員複数名が聞いている前で対象の従業員を叱責したり、必要以上の長時間叱責をし続けたりするなどの行為が「精神的な攻撃」に含まれます。心理的なダメージが蓄積することで、被害者は自信を失い、仕事に対する意欲も低下することがあります。
③人間関係からの切り離し
例えば、職場内で対象の従業員からの挨拶を無視したり、(業務上の理由なく)他の従業員との接触を禁止したりすることが「人間関係からの切り離し」に該当します。このような行動は、労働者に孤立感を与え、精神的な苦痛を引き起こす要因となります。
④過大な要求
例えば、達成不可能な営業目標を課したり、恒常的に終業時間間際に過大な業務を課したりすることなどが「過大な要求」に含まれます。チームや個人に対する過剰なプレッシャーは、ストレスや燃え尽き症候群を引き起こす可能性があります。
⑤過小な要求
例えば、営業部門の社員であるのに倉庫整理やトイレ掃除草むしり等の業務(本来は当該職種の従業員が担当しない業務)ばかり強要することや他の部署に異動させ特段仕事を与えないことなどが「過小な要求」に含まれます。この場合、労働者は自分の能力が無視されていると感じ、やりがいを失うこととなります。
⑥個の侵害
例えば、個人のスマホの中身を勝手に覗いたり、ロッカーの中を勝手に覗いたり、休暇の理由を執拗に詮索したりすることが「個の侵害」に該当します。プライバシーが守られないことで、従業員は安心して働くことができなくなり、職場環境が悪化します。
これらの類型を理解することで、企業はパワハラの防止策を講じることが可能になります。パワハラが発生しないよう、全従業員が意識を持って行動することが大切です。特に勤務環境の整備や、具体的な対処方法が整備されることで、被害を未然に防ぐことができます。
パワハラの相談があった際には、迅速かつ正確に対応することが事業者の責任です。相談があったら、中立的な立場で調査を進める専門の担当者を設置することが望ましく、調査の客観性を保つために外部の専門家を含めた調査委員会を立ち上げることも検討する価値があります。
また、相談者へ適切な配慮を行い、精神的なサポートを提供することも重要です。必要に応じて、相談者の環境を改善するための措置を講じることが求められます。
これらの対応を通じて、職場の信頼性を高め、従業員が安心して仕事ができる環境を整えることが企業の求められる役割です。
さらに、問題解決を円滑に進めるためには、社内のコミュニケーション体制を見直すことも大切です。ハラスメント事案が発生する前に、日常的に対話を促進する風土を育てておくことが、長期的なハラスメント防止に繋がります。
全ての従業員に対し、パワハラに対する理解を深めさせる努力が求められ、これには定期的な研修や教育プログラムが非常に有効です。このように、具体的な対策を講じることによって、企業全体がハラスメントを根本から排除するための文化を醸成していく必要があります
パワハラが発生したとの訴えや相談、通報があった際の手順は主に以下のとおりです。
社内でパワハラの疑いがある場合、被害者が相談窓口に連絡・通報がなされることで、調査が開始します。
この際、相談者は安心して話せる環境を整えることが重要です。また、相談窓口の担当者は初期対応を行う際に守秘義務を強調し、相談者のプライバシーを保護することが求められます。
次に、被害を受けた従業員と加害者の両方へのヒアリングを行います。
ヒアリングでは、具体的な事実関係を詳細に確認し、関連する証拠(メールやメッセージのやり取り、目撃者の証言など)を集めることが重要です。客観的な証拠を収集することで、問題に対して公正かつ透明な判断ができるようになります。
収集した証拠をもとに、パワハラがあったかどうかを評価します。
この段階では、単なる個人の主観に基づく判断ではなく、社会通念に照らし合わせて判断することが求められます。特に業務上必要かつ相当な範囲を超える言動があった場合、それはパワハラと見なされる可能性があります。
事実関係が確認された場合、適切な事後処理が必要です。
被害者に対する配慮措置を講じることは重要であり、加害者に対する処分や再発防止策も検討しなければなりません。また、全従業員に対してハラスメントに関する研修や啓発活動を行い、職場環境の改善に努めることも大切です。このように、パワハラへの適切な対応は、企業全体の信頼性向上にも繋がります。
ヒアリングの場面においては、客観的な事実と主観(評価)を切り分け、5W1H(When:いつ・Where:どこで・Who:だれが・What:何を・Why:なぜ・How:どのようにしたのか)を意識しながら具体的な事実関係を聞き出すことが重要です。
例えば「●●さんはいつもパワハラをしてくる」という申し出があった場合、「パワハラをしてくる」や「いつも」というのはまさに主観(評価)であって、ヒアリングの際には「●●さん」の具体的にどのような行為について「パワハラ」だと考えていて、それがどのような頻度でされているのかに着目する必要があります。
△:●●さんはいつもパワハラをしてくる
◯:令和●年●月●日●時頃、事務所内で●●さんが△△部長に対して●●の件で進め方について確認した所、△△部長が●●さんに対し「そんなことで私に話しかけるな。あんたでは戦力にならない」等と事務所全体に聞こえるような大声で怒鳴っていた。
また、そのほかにも、ヒアリングの対象者と中立的な者が担当したり(≒仲の良いものは担当から外す)、秘密保持を徹底したり(≒相談内容の他言をしない、プライバシーが守られる場所で聴取する)するなどの配慮をすることも重要です。
更に、被害者による相談だけでなく、加害者側からの意見も重要視しなければなりません。これにより、事実確認がより広範囲に行われ、客観的な判断が可能となります。
また、聴取する際にはリラックスした雰囲気を作り、相談者が安心して思いを話せる状況を整えることも大切です。
査結果を次にどのように活かすかについても考慮し、組織全体の健全な運営に資するような意識を持つことが望まれます。
相談者へのヒアリングの場面においては、上記⑴のほか、本人の言い分を聞き取るため相談事項への傾聴に徹底し、相談事項に対する反論をしたり断定をしたりしないようにすることも重要です。
この際、相談者が安心して話せるよう、感情に寄り添い、ゆっくり時間をかけ共感的な姿勢を持つことが求められます。具体的には、相談者が表現する感情や状況に対して、「それは辛かったですね」や「お話ししてくださってありがとうございます」といった言葉をかけることで、信頼関係を築きやすくなります。
また、相談者の不安を取り除くため、その後のハラスメント対応の流れを説明し、特にプライバシー保護の観点から行為者本人や目撃者等の第三者へのヒアリングを実施して良いかについて確認をすることも重要です。
この情報提供は、相談者が期待する結果を明確にする助けになり、今後のプロセスに対する信頼感を高める効果があります。さらに、ハラスメント事案においては、相談窓口に相談したことで行為者が相談者を逆恨みし、報復が行われることも懸念されます。
そのため、その旨及び行為者に相談者への報復をしないよう念押しすることを説明のうえ、行為者へのヒアリングを実施して差し支えないか確認する必要があります。このアプローチは、なお一層、相談者が安全で安心できる環境で働くことを確保するために欠かせません。
行為者へのヒアリングの場面においては、上記⑴のほか、双方の言い分を聞き取るため対象の労働者が相談者に対し「ハラスメント」を行ったと決めつけて聴取しないよう配慮することが重要です。
また、相談者に対する直接の確認や報復行為、不利益取扱いをしてはならないことについて強く説明し、これらに反した場合厳重に処分する旨伝えることも重要です。
さらに、行為者に対しても、相談者が抱えている心情について理解を促す機会を与えることで、双方の関係性の改善や再発防止に向けた前向きな対応が期待できます。
具体的には、「あなたの言動が他の従業員にどのように影響を与えているか考えたことはありますか?」といった質問を通じて、行為者自身が自らの行動を振り返るきっかけを作ることが大切です。
行為者が経緯を理解し、改善の意欲を示すことで、職場全体の雰囲気が向上し、再発を防ぐ効果が期待されます。
第三者へのヒアリングは、ハラスメントの実態を明らかにするために非常に重要ですが、その際には注意が必要です。
具体的には、個別の目撃者に対して相談者のプライバシーを尊重する旨を伝え、必要以上にその情報が拡散しないように努めることが必要です。
また、ヒアリングの際には、目撃者が安心して証言できる環境を整えることも大切です。
プレッシャーを感じずに自由に意見を述べられるよう、心理的なサポートを提供し、安全な場所での聴取を心がけることが求められます。
このような配慮によって、目撃者の信頼感を得ることができ、より多くの有益な情報を収集することが可能となります。
最後に、事実確認の過程で得られた情報は、適切に管理し、ヒアリングされた全ての情報をしっかりと記録することで、後に必要な判断材料となることを意識しなければなりません。
ヒアリングによって得た情報から対象の行為があったと認定することができるか否か、(当該行為があったとして)「ハラスメント」と認定できるか否かについて判断することになります。
ハラスメントの認定基準は上述のとおりですが、対象の行為の有無は、以下のように①対象行為の存在を直接推認させる直接証拠(たとえば、対象行為の録音データなど)がないか、②対象行為の存在を間接的に推認させる証拠(たとえば、対象行為があったとされる時間と近接して相談者が机で泣いていたという内容の目撃証言など)がないかといった観点から、対象行為の存在が確からしいかどうか判断することになります。
ハラスメントの事実が無いのに処分を行うことは言わば冤罪になってしまいますので、事実の存在が確からしいとは言えない場合にはハラスメントと認定するべきではありません。
このように、事実関係の認定には証拠が必要であり、その証拠集めにも長期間を要することが多いです。また、証拠の量のみならず質も肝心であるため、可能であれば客観的な証拠を集める努力が重要です。特に、相談者が抱える精神的な苦痛に対して、実態を正確に把握し、適切な対応を行うために必要なプロセスとなります。
また、杜若経営法律事務所のYouTubeチャンネル(かきつばたチャンネル)にはパワハラの認定・判断の参考になる裁判例について解説した動画もありますので、ぜひご参考ください。
セクハラ・パワハラの認定・判断の参考になる裁判例~岡弁護士の労務ネットニュースvol90解説動画~(https://www.youtube.com/watch?v=IKzByJqw2C4)
事実関係の認定の結果、対象の行為の存在が確認され、かつその行為がハラスメントに該当すると判断された場合には、効果的な対応が不可欠です。まず、行為者に対して懲戒処分や人事上の措置について検討しなければなりません。これには、注意や警告、場合によっては降格や解雇といった厳しい処分が含まれる可能性があります。さらに、この過程では、社内の規定に則った透明性のある手続きが求められます。
また、相談者には事実認定の結果や行為者に対する処分結果について、丁寧に情報を提供する義務があります。この報告は、相談者に安心感を与え、再発防止に向けた信頼関係を構築する役割を果たします。具体的には、処分内容やその理由、今後の対応策についても併せて説明することが重要です。これにより、相談者が感じた不安や疑念を軽減させることができ、職場内での信頼向上につながります。必要により、配置転換や休職を講じることも検討が必要です。
更に、事後対応においては、ハラスメントが再発しないための具体的な再発防止策を策定することが求められます。全ての従業員に向けた教育や研修を通じて、ハラスメント防止の意識を高める取り組みが効果的です。また、以前発生した類似の事例を分析し、その教訓を踏まえた具体的な対策を講じることも必要です。
このような一連の流れを通じて、企業はハラスメントの問題に対し、責任を持った対応を行うことで、職場環境の向上や社員のモチベーション維持につなげることが期待されます。
さらに、パワハラ発生時の事後対応には、従業員が安心して働ける環境を再構築するための取り組みが求められます。具体的には、被害者への支援を強化することや、再発防止に向けた職場の文化を見直すことが重要です。
加えて、企業内のコミュニケーションの活性化を図り、オープンな対話を促進することも大切です。定期的にハラスメントに関するアンケートを実施し、従業員からのフィードバックを受け取る仕組みを設けることで、より良い職場環境の実現に向けた取り組みを強化する的目標となります。
このように、事後対応は単なる処分に留まらず、組織全体が防止に向けて協力し合う文化を形成していく余地のある過程です。
上述のようにハラスメントの申告に対する対応を誤ってしまうと損害賠償請求やいわゆる「炎上」など、コンプライアンス上も非常に大きな影響があります。
さらに、そもそも申告があった行為が法的に見て「ハラスメント」に該当するのか否かは、「●●」という発言があったからハラスメントに該当するという性質のものではなく、当該「●●」という発言は「いつ」「どこで」「誰が」「誰に対して」「どうして」「どのような態様で」なされたのか緻密に検討する必要があります。
例えば、「みんなの前で大声で叱責された」という申告があったとしても、特段の必要がないのに見せしめで叱責したのか、現場監督者が建築現場で安全設備をつけ忘れたまま高所作業をしようとした作業員に対し危険を知らせるため咄嗟に大声を出したのか、または1回だけなのか継続的だったのかなど、具体的状況によってハラスメントに該当するか否かの判断は変わってきます(前者と後者の比較のほか、後者の中でも果たして当該「叱責」は業務上必要であったのかや恒常的にされていたのかなど様々な事情を加味する必要があります)。
また、ハラスメントの申告があるとその調査をする必要があると説明しましたが、その方法を誤ると「●●さんは、〜というミスをしてみんなの前で叱責されたらしい」という噂が広がったり、行為者側の従業員が会社に申告されたことを根に持ち相談者側の従業員に対し報復行為をしたりするなど会社側の責任で二次被害を生じさせかねません。
このようにハラスメント対応は、「マニュアル」的対応で一筋縄では行かないことの方が多く、一度対応を誤ってしまえば取り返しのつかない損害が発生することもあります。
また、ハラスメントの事例の複雑さや依存関係によって生じる影響を鑑みると、専門的な知識を持つ弁護士に相談することで、より適切な対応を図ることができます。
弁護士は法的な観点からの助言を提供し、企業が適切な手続きを踏むためのサポートを行うことができるため、何らかのトラブルや疑問に直面した際にはすぐに相談することが重要です。
以上の理由から、ハラスメントの申告があったらすぐに弁護士に相談することをお勧めします。
使用者側の労務トラブルに取り組んで50年以上。800社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。
労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
特にハラスメント問題は、企業にとって非常にデリケートなテーマですが、適切に対応しなければ大きな法的リスクを伴います。
実際にハラスメントの申告を受けた際、状況を正確に把握し、適切な手続きを行うためには専門家の助言が不可欠です。
また、企業が不適切な対応をした場合の影響は計り知れず、再発防止策を講じることも重要です。
まずはお気軽にお電話やメールでご相談ください。弁護士が企業の方針を踏まえた上で、丁寧に対応いたします。
よくある質問では、パワーハラスメントに関する具体的な疑問や悩みについて取り上げます。多くの企業が直面するケーススタディを通じて、正しい対処法やアドバイスを提供します。このセクションを通じて、ハラスメント問題への理解を深めましょう。
【回答】他の従業員と関わらない業務に就かせることが「個の切り離し」に当たるとして、パワハラであると主張されるリスクがあります。
また、単純作業のみを行わせることについても、従前担当していた業務内容によっては、「過小な要求」としてパワハラにあたると主張されるリスクがあります。
このように、パワハラを繰り返す傾向がある従業員がいる場合、単に配置を変更するのではなく、パワハラを行ったことについて懲戒処分や注意指導を行う必要があります。
この具体的な対応を検討することで、職場環境の改善や再発防止に向けた第一歩を踏み出すことができます。
さらに、従業員への教育や研修を通じて、組織全体でパワハラ防止の意識を高めることが重要です。
詳しい方法については、以下の記事で紹介していますのでご参考ください。
【回答】パワハラ防止法では「その資本金の額又は出資の総額が三億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については五千万円、卸売業を主たる事業とする事業主については一億円)以下であるもの及びその常時使用する労働者の数が三百人(小売業を主たる事業とする事業主については五十人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については百人)以下であるものをいう。」と定められています。
この基準により、中小企業は法律上の定義が明確にされていますが、企業の規模や業種によって条件が異なる点が特に重要です。
また、企業の取り組みとしては、パワハラ防止のための研修を実施することや、相談窓口の設置を通じて、従業員が安全に相談できる環境を整えることが求められます。
中小企業においては、限られたリソースで効果的にこれらの対策を講じることが大切です。
この記事の監修者:本田泰平弁護士
セクハラ・パワハラの関連記事
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