アクセス制限が不法行為にあたるか?

弁護士の平野剛です。今回は社内システムへのアクセス制限等が不法行為に該当するか否かが問題となった裁判例(東京地裁令和6年9月19日判決)をご紹介します。


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1 事案の概要

本件の被告となった会社は、資産運用をはじめとする金融商品やサービスを提供する法人で、グループ会社である銀行や証券会社に従業員を出向させています。
労働者Aは、被告からグループの銀行へ出向し、7年超にわたって勤務していました。
被告のグループでは、業務の効率化のための組織再編の一環として、令和元年9月13日、Aが所属部署で担っていた職務(バンド7)が廃止されました。これに伴い、被告は、同日、Aに対し、Aのポジションが消滅したとして退職を勧奨しました。あわせて、被告は同日以降のAの勤務を免除(給与は全額支給)するとともに、Aから被告のIDカードを返却させ、Aはオフィスへの立入りや社内システムへのアクセス等ができなくなりました(本件アクセス等制限)。
被告がこのようなアクセス制限をした背景として、金融庁から示されている監督指針において、顧客等に関する情報へのアクセス管理の徹底が求められており、被告ではその指針を踏まえ、アクセス管理の一環として、サスペンション(従業員のポジションがなくなるなどして業務の割り当てがなくなった状態)が記録された場合、その者のシステムへのアクセスが自動的に不可能となるなどの対策や、IDカードを返却させる措置を講じていたという事情がありました。
Aは被告の退職勧奨を断って社内の他のポジションでの就労を希望しましたが、被告では、中途採用について、職務ごとに社内及び社外に公募しており、被告の従業員が現在担当する職務とは異なる職務での勤務を希望する場合には、改めて面接を経て採用される必要がありました。
以後、Aが勤務を再開するまでは以下の経過がありました。
令和元年10月 被告は4つの空きポジションを提示。Aはうち1つの面接を受けるも不採用。
同年11月 被告は上記以外の2つの空きポジションの提示と再就職支援会社を案内。Aは、社内公募を優先したい旨を伝えたが、空きポジションには応募せず。
同年12月 被告は更に3つの空きポジションを提示するもAは応募せず。
~令和2年7月 再就職支援会社のサービスを受けたものの、Aは同社から提示された4つのポストの求人には1つも申し込まず。
同年10月 Aは対面でのミーティングに応じず、会社はリモートワークでの復帰を打診。
同年11月~ Aの代理人弁護士を介した書面のやりとり。
令和3年1月 被告がAに対し別部署への異動を命令。
同年2月 Aは同部署での就労を開始。被告はAに対しIDカードを交付し、社内システムへのアクセス権を付与。

2 本件アクセス制限等の不法行為該当性についての裁判所の判断

⑴ A側は、被告がAを退職に追い込む目的でアクセス制限をした状態を1年以上も継続したことが違法であると主張しました。
これに対し、裁判所は、金融機関には顧客情報等の情報管理の徹底が要求されていることを取り上げたうえで「情報管理の必要から、業務の割当てがなくなったAに対し、オフィスへの立入りや社内システム等へのアクセスができないように本件アクセス等制限を行ったこと自体直ちに違法と評価できるものではない」と判断しました。
また、退職勧奨以降の被告からAに対する空きポジションの紹介等のやり取りを指摘したうえで、「異動を命じられた令和3年2月1日までの間、本件アクセス等制限が継続されたことを違法と評価することはできず、他に本件アクセス等制限がAを退職に追い込むなどの不当な目的で行われたと認めるに足りる証拠もない」と述べました。

⑵ A側は、直ちにAと同じバンドの空きポジションへの配置転換を命じずにアクセス等制限を継続したことが違法であるとも主張しました。
この点について、裁判所は、「被告においてはAの他のポジションへの異動や再就職の支援等について、相応の配慮をしていたといえる上、Aにおいては再就職支援会社のサービスを受けたものの、提供された求人には申し込むことなく、被告からの連絡にも十分な応対をしなくなるなど、その意向の確認も困難であった面も否定できないところであり、原告が主張するそれぞれの時点で配置転換を命じず、本件アクセス等制限を継続していたとしても、被告の対応を違法であるとすることもできない」と判断しました。

3 検討方法はパワハラと同様 ~ 業務上の必要性と手段の相当性 ~

本件では社員間の問題ではなく会社組織としての対応であったためか、A側から明示的にパワハラというフレーズは出されずに違法、不法行為であると主張されました。本件のようなアクセス制限は「人間関係からの切離し」の一態様としてパワハラであると主張される可能性もあります。
このようなアクセス制限が不法行為もしくはハラスメント行為に該当するか否かについては、基本的には同様の検討手法をとることになり、そのようなアクセス制限を行う正当な目的や業務上の必要性があるか、目的・必要性との関係で当該対応を行うことが手段・態様として相当なものか否かという点を検討すべきことになります。
そのため、アクセス制限を行うことが許容されるのか不法行為に該当するのかと一律に論じられるべきではなく、あくまで個別の事情に基づいて検討、判断されるべきことになります。
本件では、顧客情報等の管理が厳格に求められる金融機関であることもあり、当面業務を行うことがなく、離職の可能性も考えられる従業員に対してアクセス制限を行う業務上の必要性があることは争いがないところかと思います。本件ではアクセス制限が長期に及んでいるものの、裁判所も指摘しているとおり会社側では相応の配慮を尽くしていた経過があり、そのように長引いたとしても会社としてはやむを得ないところかと思いますので、本件の裁判所の結論は相当であると考えられます。
本件から学ぶべきところとしては、アクセス制限後に、会社がAのことを慮って各種の提案を繰り返し行い、Aからの連絡が滞っても会社が気に掛けて連絡をとり続けていた(加えて給与も支払い続けていた)ところです。アクセス制限後に会社がA側にボールを投げっ放しにして放置して長期間が経過していた場合には、違法との評価を受けた可能性もありますので、注意が必要です。

この記事の監修者:平野 剛弁護士


平野 剛(ひらの たけし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 平野 剛(ひらの たけし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成15年弁護士登録。労使紛争について、専ら経営者側の代理人として、各種訴訟(解雇事件、雇止事件、労災民事事件、思想差別事件、残業代請求事件等)、労働委員会での手続き、団体交渉等に携わってきました。
労働事件以外にも、倒産関係事件、会社法関係事件、建築紛争、医療事故事件、製造物責任訴訟等、広く民事事件を取り扱ってきました。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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