同僚同士のケンカによる暴行と業務起因性

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1 同僚同士のケンカがあった場合に考えなければならないこと

テレビドラマで、食堂で主人公とその友人がケンカをするシーンがありますよね。店主が「ケンカなら外でやってくれ」と迷惑そうな顔をして言います。ケンカで備品が壊れたり、他のお客さんの迷惑になったりするでしょうし、もしそこで刑事事件が起きてしまうと現場検証等のためにしばらく営業ができなくなってしまうからです。

では社内で同僚同士のケンカがあった場合はどうでしょうか。「ケンカをするなら業務時間外に、会社の敷地外でやってくれ」と言うわけにはいきませんし、そういう問題ではありません。無理に仲良くする必要はないものの、大人ですから仕事上は気持ちを切り替えて、トラブルを起こさぬように働いてもらいたいものです。

ただこの同僚同士のケンカ、実は色々と考えなければならないことがあります。整理の意味も込めていくつか列挙してみました。

・ケンカで怪我をしたら労災か?(業務起因性の有無)
・治療のためのお休みはどう処理したらよいか?お休みしている間の給与はどうしたらよいか?
・怪我の治療が長引いた場合、休職に入れるべきか、休業とすべきか?
・労災申請をしたいと言われたら、会社はどう対応したらよいか?
・労災申請の結論はいつ頃に出るのか?
・労災の不支給決定について労働者が争ったらどうなるか?
・ケンカの当事者の懲戒処分はどうするか?
・ケンカについて当事者双方に原因がある場合はどうか?
・ケンカの当事者の今後の配置はどうしたらよいか?
・被害者が、加害者と職場で顔を合わせたくない、在宅勤務希望と言ったらどうするか?
・ケンカが理由で被害者がメンタル疾患になった場合はどう対応すればよいか?
・被害者から加害者への損害賠償請求、被害届の提出があったらどうしたらよいか?
・被害者から被害届について相談をされたら会社はどうしたらよいか?
・そもそも社内でケンカがあったら警察を呼ぶべきか?
・被害者から会社への使用者責任、安全配慮義務違反の指摘があったらどうしたらよいか?
・休職期間満了までに労災の結論が出ていない場合はどうするか?
・労災の結論が出るまで休職期間を延長した方がよいか?
・休職期間満了による自然退職後に労災が認められたらどうなるか?
など様々です。

これらの検討の前提として、同僚同士のケンカに業務起因性があるか否かが重要なポイントになります。今回ご紹介する裁判例は、労基署段階では被災者の自招行為によるものであるとして負傷と業務との間に相当因果関係がないと判断し不支給処分としたものの、裁判所は業務起因性を肯定した事案です(国・向島労基署長事件・東京地裁令和6年1月24日判決・労経速2561号)。

2 同僚同士のケンカはよくあること?

裁判所は「労働者が業務中に同僚からの暴行によって負傷した場合には、一般的に複数名が就労する職場内における対人関係に起因するトラブルが稀ではないことを考慮すれば、当該負傷は、通常、労働者の業務に内在又は随伴する危険が現実化したものと評価することができる。したがって、当該暴行が、行為者の私的怨恨に基づくものである場合や、自招行為によるものである場合等、明らかに業務に起因しないものである場合を除き、当該暴行による負傷は、業務に起因する負傷であると認めるのが相当である」としたうえで、

「原告が自身の車両を駐車した直後に車両点検及び帰宅準備をしている中で生じた」ものであるとして、本件負傷は「業務中に同僚からの暴行」を受けたことによるものであると認定し、

さらに、原告が「コラー」と怒鳴りつけこと、「ぶつけんじゃねぇよ」などと発言したものの、これらは粗暴、粗野であり適切さを欠くものではあるが、少なくとも、当該状況では暴行を自招するものであったとは評価できないと判断しました(判決文の中では、当日の暴行に至る経緯や当事者間の過去のトラブルが認定されています)。

裁判所が「複数名の就労する職場内における対人関係に起因するトラブルが稀ではない」と述べている部分は気になります。対人関係に起因するトラブルはあってもトラブル=殴り合いのケンカではないように思います。ただ裁判所としては、上記のような考え方で業務起因性を捉えているので、そのようなことも踏まえて「1」の論点について会社としては検討していく必要があります。

この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士


岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)

【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
【Podcast】岸田鑑彦の『間違えないで!労務トラブル最初の一手』
【YouTube】弁護士岸田とストーリーエディター栃尾の『人馬一体』

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