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自己都合になりますと伝えた退職勧奨の効力は?
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もし会社が「このままの勤務態度、能力では、ちょっとウチで働くのは厳しいと思う。退職願を出してくれれば受理します。その場合は自己都合で処理します。」と言ったとしましょう。最終的にこれに応じて従業員から退職願が提出された場合、自己都合退職でしょうか、それとも会社からの退職勧奨に応じたということで会社都合の合意退職になるでしょうか。
今回ご紹介するのは、会社からの退職勧奨に応じて退職願を提出したものの、退職の意思表示に瑕疵があった、自由意思に基づくものでないから退職の意思表示は効力を生じない等として退職の効力が争われた事案です(U事件・東京地裁令和6年3月28日判決・労経速2562号)。
この事案では、次のような退職勧奨がおこわなれました。
C総務部長は、原告に対し、原告が営業に自信がなく仕事が大変な様子であるから今後について退職することも含めて考えてもらいたい旨、これについては被告代表者も同意見であり被告としての意見である旨、原告の勤務状況が改善するとは考え難く今後も被告で働き続けるのは難しい旨、原告はまだ若いので他社で本当に自分に合った仕事を見つけてほしい旨伝えた(証拠略)。
原告は、C総務部長に対し、この場で即断することはできず配偶者と相談するために一度持ち帰って検討したい旨伝えた。
C総務部長は、原告に対し、退職の決断ができたら退職願を出してもらいたい旨、退職願を出したら数日間の身辺整理の猶予を与えるものの実質的に仕事は終わりになる旨、有給休暇消化の希望があれば消化ができ1か月程度になる旨、本件退職勧奨については被告として熟慮を重ねた上での決断である旨改めて伝えた。C総務部長は、原告の本件退職勧奨の理由を教えてほしい旨の質問に対し、原告が営業活動に向いていないことと実績を上げられていないことと回答し、原告自身も自信を喪失しているように見える旨伝えた。
C総務部長は、原告の退職願にサインしなかった場合はどうなるのかといった質問に対し、仮定の話はしたくなく原告には被告の思いを理解して退職してもらいたいと思っている旨伝えた。C総務部長は、原告の普通解雇か整理解雇かといった発言に対し、解雇ではなく自己都合による自主退職である旨伝えた。
原告は、C総務部長に対し、転職活動のための期間をもう少しほしい旨、会社都合退職に変更にしてほしい旨伝えたところ、C総務部長は、原告に対し、要望としては聞くが条件交渉はしない旨伝えた。
原告は、同日の面談の冒頭において、C総務部長に対し、有給休暇の取得等の点で考慮してもらいたい旨伝えたところ、C総務部長は、原告に対し、まずは退職するか否かをはっきりすべきであり、退職後の有給休暇等の条件交渉はその後である旨伝えた。
原告は、C総務部長の指示に応じて、本件退職願の作成日欄及び氏名欄に記入したものの、印章を持参していなかったことから、その場では押印できなかった。
C総務部長は、原告に対し、本件退職願については被告として受理することを伝えるとともに、原告の退職日をいつにするかについて原告の有給休暇の残日数を確認するなどしながら、同月15日が最終出社日となり、その後有給休暇取得によって同年2月14日が退職日となる旨伝えた。
原告は、C総務部長に対し、解雇予告手当といった発言をしたところ、C総務部長は、原告に対し、解雇ではなく自主退職であるから解雇予告手当は関係ない旨伝えた。
原告は、その後、C総務部長に対し、退職を決めようと思っているので結婚休暇を取得していなかったことなどを考慮して、できれば同年3月末日退職にしてほしいことなどを伝えて、退職日についての条件交渉をした。C総務部長は、原告に対し、諸々を考慮しても退職日は、同年2月14日となる旨伝えた。
C総務部長は、原告が条件交渉をする中で出た解雇予告手当30日といった発言に対し、本件は解雇ではなく自主退職であること、解雇のほうが転職の際に不利になることを伝えた。
原告は、C総務部長に対し、被告を退職するが、退職日については保留し本件退職願に退職日を記入したくない旨述べたものの、C総務部長から、退職日を5日後ろにずらすことができるか検討するのでひとまず本件退職願に退職日を同年2月14日として記入するように指示されるとともに、本件退職願についてはC総務部長が一旦預かる旨言われたことから、本件退職願に退職日を同年2月14日と記入し、C総務部長に対し提出した。
原告は、同日、C総務部長から、退職日を同年2月14日と記載した本件退職願に押印するように求められ、本件退職願に押印した。また、原告は、C総務部長から、退職後連絡先、源泉徴収票等の必要書類及び住民税の納付方法等について聴取を受け、後日、退職届等の退職手続に必要な書類を被告に対し返送するように指示された。原告は、同日、被告に対し、セキュリティカードを返却した。
原告は、令和2年1月16日以降、被告に出勤しなかった。
裁判所は、会社からの働きかけが退職勧奨であることを前提に、原告が退職勧奨に応じて退職願に署名押印して提出したこと、以後出勤していないこと、退職勧奨の際も会社から解雇ではなく自主退職である旨明確に伝えられたことが認められるとして、退職勧奨に応じ、退職合意をしたと推認できると判断しています。
なお原告は、山梨県民信用組合事件において示された自由意思論は、退職合意の意思表示の場面においても適用され、本件における合意退職の意思表示は自由意思に基づくものとはいえない旨主張しました。
これに対して裁判所は、合意退職の意思表示は、退職することといったように効果が明確であり、原告及び被告間で情報格差が類型的に生じるような場面とはいえない。そうすると、本件は、上記判例とは事案を異にするというべきであり、自由意思論を適用すべき事案であるとはいえない、と判断しています。
もっとも、労働者の合意退職の意思表示は、重要な意思表示であるから、その認定には慎重になるべきとはいえるものの、本件においては、原告が本件退職願に記入した上で、原告が被告から解雇通知されたことを認めるに足りる証拠がないにもかかわらず、同月16日以降出勤していないことからすれば、原告が合意退職の意思表示をしたことは明らかであるといえる、としています。
通常、退職勧奨の場合、会社都合の合意退職として処理します。そのため退職勧奨を行った際に、原告からの会社都合にしてほしいという要求に対して、自己都合の自主退職ですと説明しているところがやや気になる点です。ただこの事案では、最終的には自己都合であるとの説明を受けても、退職願を提出し退職する旨の合意をしているので、自己都合か会社都合かの説明のところがあまり重要視されなかったのかもしれません。
この事案とは異なり、退職勧奨の場合に「このままだと逮捕される」「このままだと懲戒解雇になる」等の事実と反する説明をして退職合意(今回でいうところの退職願の提出)に至った場合には、錯誤などで取り消しの可能性はあり得ます。
基本的に退職勧奨に応じて合意が成立した場合は、退職届や退職願ではなく、退職合意書を取り交わすのがよいでしょう。
この記事の監修者:岸田 鑑彦弁護士

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岸田鑑彦(きしだ あきひこ)
【プロフィール】
慶應義塾大学法学部法律学科卒業。平成21年弁護士登録。訴訟、労働審判、労働委員会等あらゆる労働事件の使用者側の代理を務めるとともに、労働組合対応として数多くの団体交渉に立ち会う。企業人事担当者向け、社会保険労務士向けの研修講師を多数務めるほか、「ビジネスガイド」(日本法令)、「先見労務管理」(労働調査会)、労働新聞社など数多くの労働関連紙誌に寄稿。
【著書】
「労務トラブルの初動対応と解決のテクニック」(日本法令)
「事例で学ぶパワハラ防止・対応の実務解説とQ&A」(共著)(労働新聞社)
「労働時間・休日・休暇 (実務Q&Aシリーズ) 」(共著)(労務行政)
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【YouTube】弁護士岸田とストーリーエディター栃尾の『人馬一体』
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