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減給規定には何をどこまで記載するべきか?
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目次
「問題を起こした従業員の賃金を下げたいのですが、この就業規則を根拠にして下げることはできますか?」などの質問を受けることがあります。実は、賃金を同意なく下げることは就業規則の根拠があれば、可能な場合もあります。もっとも何をどこまで規定に定めなければならないのか、明確では無く判断に迷うことがあります。今回は、最近の2つの裁判例がこの点について判断していましたのでご紹介致します。
なお、本稿では懲戒処分による減給ではなく人事措置としての減給を「減給」と記載しております。
被告は、イベントホール、貸会議室等の施設運営事業等を営む株式会社です。原告は、被告に入社後、営業部第三営業所長兼設営事業所長に就任し、賃金テーブル上「所長3級」と位置付けられていましたが、平成30年10月1日付けで所長の職を解かれ(裁判所はパワハラの事実があったことを認定しています)、職務を営業職に変更するとともに(本件降格)、職級を所長3級から営業職1級に変更しました。原告は、本件降格の効力や賃金減額の効力を争い、地位の確認や差額賃金の支払等を求める訴えを提起しました。
裁判所は、本件降格の効力は認めたものの、次のとおり述べて、賃金減額の効力を否定しました。
(裁判所の判断)
裁判所は以下の通り、減給を行うためには給与規程に賃金の減額事由及び具体的な減額幅を明示するべきであると判断しました。
「被告は、給与規程9条1項及び2項を根拠として、本俸及び諸手当が能力、実績、技量、勤怠等を参酌して上位又は下位に相当すると判断したとき、業務内容の変更に伴って相当でないと判断したときは、昇給又は降給させることができる旨主張する。」
「賃金は労働者にとって最も重要な労働条件の一つであるから、これを使用者が労働者との合意なく一方的に変更できるためには、労働契約又は労働契約の内容となる就業規則上の根拠が必要であり、労働契約又は就業規則において、少なくとも賃金を減額する事由及び当該事由に対応する具体的な減額幅が明示されている必要があると解すべきである。」
「これを本件についてみると、まず本俸については、給与規程上、『能力、実績、技量、勤怠等を参酌し、上位または下位に相当すると判断した場合、昇給又は降給することがある。』(9条1項)、『業務内容の変更に伴い、その業務に相当しないと会社が判断した場合、昇給または降給することがある。』(同条2項)と定められているのみであって、賃金を決定する際の考慮要素は示されているものの、少なくともどのような場合に、どの程度の金額を減額するのかを読み取ることはできないから、賃金を減額する事由及び当該事由に対応する具体的な減額幅が明示されていたとは認められない。たしかに、被告においては、賃金テーブルを設け、配置された役職ごとの基本給を定めていたことが認められるが・・・、少なくとも、当該賃金テーブルは労働契約又は就業規則に定められたものではなく、労働者への周知もされていなかったのであるから・・・、被告が賃金テーブルを設けていたとしても、労働者の基本給を減額するための労働契約又は就業規則上の根拠としては不十分であるといわざるを得ない。」
「以上の点を踏まえて検討すると、被告が原告の本俸を減額した点については、労働契約又は就業規則上の根拠がなく無効というべきである」
原告は被告(東京都および地方銀行などが出資するプライベートエクイティファンド(バイアウトファンド)の管理運営やコンサルティングを行う株式会社)に雇用されていました。
原告は、人事評価制度の変更やそれに基づく人事評価及び賃金減額が違法無効であるとして未払賃金などの支払いを被告に求めました:
裁判所は、原告の「給与規程に減給事由、減給方法及び減給幅等の基準が明示されていないため、これらの規程を根拠に減給することはできない」との主張に対して、以下の判断を下しました。つまり、仮に給与規程に減給事由、減給方法及び減給幅等の基準が明示されていなくとも、賃金テーブルなどで基本給の上限及び下限を示していたり、昇給テーブル、人事評価の方法及び考課基準などを説明会で明示し周知していれば、足りると判断しています。
「また、原告は、平成24年給与規程19条1項には、減給事由、減給方法及び減給幅等の基準が明示されていない点を指摘するが、被告は、職員の能力、勤務成績等を考査して年1回原則として4月に基本給の改定を行う旨記載されていることからすると、基本給改定の考慮要素及び方法は明示されているというべきであり、また、平成26年人事評価制度を導入する際、各資格の基本給の上限及び下限を明示した賃金テーブル、昇給テーブル、人事評価の方法及び考課基準等が定められ、人事評価制度の変更に関する説明会において、前記各事項が記載された資料に基づき説明が行われ、その内容が従業員に周知されていることを考慮すれば、就業規則中に減給事由、減給方法及び減給幅等の基準が明示されていないことをもって直ちに不合理であるとまでは認められない。」
賃金テーブル及び減額事由や減額幅の周知が必要
上述のとおり、裁判所は、S事件では、就業規則(給与規程を含む)に基づいて賃金を減額するにあたっては、就業規則において「減額事由及び当該事由に対応する具体的な減額幅」の明示まで必要であると述べ、労働者に周知されていなかった賃金テーブルでは根拠として不十分であると判示しました。
一方、裁判所は、N事件では勤務成績等を考査して年1回原則として4月に基本給の改定を行う旨の規定と説明会での資料などでの賃金テーブル及び減額事由や減額幅の周知がなされていれば足りると判断しています。
これら二つの判断は矛盾しているものではなく、賃金を減給するには、何らかの方法で減額事由及び減額幅などのルールを周知しておく必要があるということになります。また、賃金テーブルなどの周知も必要となります。
多くの給与規程には賃金の減額規定があったとしても、具体的な減額事由や減額幅は明記されておらず、賃金テーブルも周知されておりません。このような状態のままでは、減給の効力を争われた場合無効と判断されますので注意が必要です。
この記事の監修者:向井蘭弁護士

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)
【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数
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