退職勧奨の進め方とは?応じない場合の対処法も弁護士が解説

更新担当者 弁護士 山﨑駿(やまざき しゅん)

退職勧奨に応じてもらえない場合

リーマンショック以降日本経済が縮小しており、転職しても、これまでよりも多く給料をもらえるとは限らなくなりました。

退職勧奨の途中で合同労組に加入して、容易に退職勧奨に応じない事例が多くなってきたと感じます。

ある製造業のお客様の事案です。会社が勤務態度が不良である社員を退職させようとして、退職勧奨を行いました。

会社は高額ではないものの若干の割増退職金を用意して話し合いを進めましたが、途中で社員が合同労組に加入し、年収の三年分の高額の割増退職金を要求するようになりました。

会社としてはとても三年分の割増退職金を支払うことができませんので、話し合いは平行線を辿ることになりました。

勤務態度が不良であっても、解雇できるほど勤務態度が悪いわけでもないため、なかなか会社としても打つ手はありません。

この事例では、組合員である社員の年齢が高く、かつこの会社の給与水準が高いため、再就職してもとても同じ年収を維持できないという背景があると思われます。

このような事案では会社が焦って無理をして高い割増の退職金を提示する事は避けなければなりません。その後の交渉では、一度提示した金額を事実上、下げる事はできません。

この事案では組合から突然退職による解決の申し出がありました。組合員の再就職が決まって早期に退職しなければならなくなったようです。最後は会社にも感謝をして円満に終了することができました。今後もなかなか退職勧奨に応じない事例が増えると思います。

1、退職勧奨とは(解雇との違い)

退職勧奨(退職勧告)とは、会社から社員に退職を促す活動のことです。社員の合意を得たうえで退職届を提出してもらい、穏便な形で会社を辞めてもらうことを目指します。

解雇と混同されることもありますが、社員に任意の退職を求める点で退職勧奨と解雇は異なります。会社が一方的に雇用契約を解約するのが解雇で、会社と社員の合意の上で雇用契約を解約するのが退職勧奨です。

このように、退職勧奨は雇用契約を合意で解約する行為と解釈できます。退職勧奨を行うこと自体に違法性はなく、スムーズに手続きが済めば、社員が退職した後のトラブルを避けることができます。

強制的に社員を退職させる解雇の場合は訴訟などに発展するリスクが高いため、なるべく円満な解決を目指すのが賢明です。

 

2、退職勧奨を行う理由例

退職勧奨が検討される理由には、さまざまなものが考えられます。代表的な理由としては、社員の能力不足が挙げられるでしょう。他の社員への指導を担ってもらうつもりで雇ったのに教育できるだけの能力が備わっていないなど、期待していた職務を遂行できなかった場合に退職勧奨が行われることがあります。営業部門の社員の営業成績が振るわない、管理職のマネジメント能力が十分でないといった理由で退職勧奨が行われることもあるでしょう。能力不足の社員を放置することで職場環境が悪化する恐れもあり、退職を促すことで状況を改善しようという狙いがあるといえます。

次に、トラブルの頻発も退職勧奨を行う理由となり得ます。部下に対するパワハラや異性の社員に対するセクハラが問題となっている、欠勤が多いといったケースがこの理由に該当します。また、協調性がなく、他の社員に過度な負担をかけている場合なども退職勧奨の対象となるでしょう。

退職勧奨が行われる際は、社員側ではなく、会社側に原因がある場合もあります。これは、経営上の事情が理由となるケースです。事業の方針を転換する、採算が取れていない部門を廃止するなど、会社都合の人員整理で退職勧奨が行われることもあります。

3、退職勧奨を行うメリット・デメリット

退職勧奨によって雇用契約を解約することは、企業にとってメリットがあります。

まず、退職勧奨は普通解雇や懲戒解雇と違い、成功すれば法的リスクが大幅に軽減されます。

普通解雇や懲戒解雇は従業員の同意なしに行われ、一方的な行動のため、トラブルが生じやすく、法廷で争われた場合、不当解雇であるとして企業が敗訴する危険性もあります。

一方で、退職勧奨は、従業員の同意を基に進められ、合意に基づいた柔軟な手続きを可能にします。これにより、企業と従業員の間の紛争を未然に防ぐことができ、結果的に企業の信用を守ることに繋がります。

また、退職勧奨は企業にとって有利な条件の取り決めを許容します。

具体的には、退職に伴う準備として、従業員に引き継ぎ業務や備品の返却を義務付けることが可能です。

これにより新しい社員がスムーズに業務に入れるようになり、業務の停滞を防ぐことができるでしょう。

例えば、業務の特殊性から重要な取引先の顧客情報を引き継ぐことで、業務の継続性を保つことができます。

他方で、退職勧奨にはデメリットも存在します。

退職の意思を強制するものではないため、退職を承諾してもらうまでの交渉が難航することもあります。

その際、何度も面談を重ねることが必要なケースも多く、時間や労力がかかるため、企業からすると面倒であるという印象を持たれることもあります。

加えて、合意に至らない場合、さらなる対応策を考える必要があり、そのためのリソースも消耗する可能性があります。

したがって、退職勧奨を適切に進めるためには、事前の準備と計画が求められます。

このように、退職勧奨は企業にとって優れた選択肢でありつつも、実施にあたっては慎重なアプローチが不可欠であることを理解しておくべきです。

合法的かつ円滑な退職を促進するために、適切な方法を講じることが重要です。

 

4、退職勧奨の進め方(退職合意書の締結を目指す)

社員に退職勧奨を行うときは、正しい進め方。やり方を前もって押さえておくとスムーズです。

適切な手順を踏んで退職勧奨を行い、問題の円満な解決を目指しましょう。

最初に、社内で退職勧奨の方針を共有します。

ある社員に退職勧奨を行う場合、いきなり行動に移るのではなく、当人の上司や会社幹部にその旨を伝えておくことが重要です。

会社が一丸となって退職を求めているのだと当該社員に理解させることで、退職届の提出を促しやすくなります。

次に、退職勧奨を行う理由を整理しましょう。

退職を促すだけの説得力がある理由を挙げ、面談に備えてメモを作成しておきます。

社員に反論されても冷静に応じられるように、万全の準備を整えておく必要があります。

会社が退職勧奨を行うきっかけについて、社員側が認識していない可能性がありますので、認識を一致させることが必要です。

次のステップは、当該社員との面談です。

会議室の個室などに社員を呼び出し、退職してほしい旨を直接伝えてください。

この際、いきなり退職を促すのではなく、まず会社側として雇用を続ける努力をしてきたことを強調すると反感を買いにくいです。

退職についての検討を促したら、回答期限を伝えましょう。

当該社員がその場で退職の意思を示した場合は、条件について話し合ってください。

話し合っておくべきなのは、金銭面の処遇、そして退職の時期です。

当該社員が退職後の生活に不安を感じているようであれば、一定額の退職金を支給するのも一つの方法です。

退職の条件についてお互いの合意を得られたら、退職合意書を取り交わすという流れになります。

 

5、退職勧奨を行うときの注意点

退職勧奨を行うときは、事後のトラブルを防ぐためにいくつかの注意点に配慮することが不可欠です。

日本アイ・ビー・エム事件(東京地判平成23・12・28労経速2133号3頁)では、「使用者は、退職勧奨に際して、当該労働者に対してする説得活動について,そのための手段・方法が社会通念上相当と認められる範囲を逸脱しない限り、使用者による正当な業務行為としてこれを行い得るものと解するのが相当であり、労働者の自発的な退職意思を形成する本来の目的実現のために社会通念上相当と認められる限度を超えて、当該労働者に対して不当な心理的圧力を加えたり,又は,その名誉感情を不当に害するような言辞を用いたりすることによって、その自由な退職意思の形成を妨げるに足りる不当な行為ないし言動をすることは許されず,そのようなことがされた退職勧奨行為は、もはや、その限度を超えた違法なものとして不法行為を構成することとなる。」という判断枠組みが示されています。

まず、長時間多数回にわたる退職勧奨は厳禁です。

当該社員を何度も呼び出し、長時間拘束して退職を促す行為は「退職の強要」と見なされるおそれがあります。

例えば、過去の裁判例では、労働者が1か月に30回以上の退職勧奨を受けた結果、裁判所でそれが違法な退職強要と認定された事例がありました。

次に、退職を目的とした配置転換(異動)や業務の取り上げも禁止されます。

例えば、特定の社員に対して嫌がらせの一環として業務を奪うような行為は、裁判で慰謝料の支払いを命じられるリスクが高いです。

配置転換が本当に必要な場合は、その理由を明確に説明し、社員が理解できるよう配慮することが重要です。

特に、業務の変更が退職に追い込む意図を持つものだと誤解されないよう注意が必要です。

また、「退職しないなら解雇する」などといった言葉は絶対に避けるべきです。

このような発言は結果的に解雇の意思表示と認定され、労働者が裁判で合意が無効だと主張すれば、会社側が不利益を被る可能性があります。

そのため、退職勧奨の際には論理的、冷静に理由を説明し、社員に納得感を持ってもらうことを心がけるべきです。

このような注意点をしっかりと把握して実行することで、トラブルを未然に防ぎ、円満な退職勧奨を進めることができるでしょう。

 

6、違法な退職勧奨・退職強要と判断された裁判例

違法な退職勧奨と判断された裁判例にはいくつかの重要なケースが存在します。

まずは、全日空(退職強要)事件(大阪高判平成13・3・14労判809号61頁)です。

この事件では、女性客室乗務員が事故から復職する際に、約4か月間にわたって30回以上の面談を受けた結果、労働者の権利が侵害されたとされました。

この面談の中では、担当者が「CAとして能力がない」、「別の道があるだろう」、「ほかのCAに迷惑がかかる」と述べ、大声を出したり机を叩いたりしました。

最終的に裁判所は、このような状況を許容できる範囲を超えた違法な退職強要と認定し、80万円の慰謝料支払いを命じました。

この判決は、労働者に対する心理的圧力の具体例として引き合いに出され、退職勧奨における適切な方法について深い示唆を提供しています。

続いて、下関商業高校事件(最一小判昭和55・7・10労判345号20頁)も注目に値します。

この事案では、市立高校の教員が退職勧奨を受けた際に、数か月間にわたって11回と13回もの出頭を命じられました。

その際の発言には、「あなたが辞めれば欠員の補充もできるし、学校設備の充実もできる」、「夏休みは授業がないのだから、毎日来てもらって勧奨しましょう。」といった退職を促すための発言がなされていました。

最高裁はこのような退職勧奨が違法であると判断し、この教員に対する損害賠償を認めました。

昭和電線電纜事件(横浜地判平成16・5・28労判878号40頁)では、従業員が同僚に対する暴言が問題とされる中で退職勧奨を受け、最終的に退職の合意が不当であるとして訴えを起こしました。

裁判所は、退職の条件として示された「解雇の可能性」が従業員に誤った判断を強いたことを認め、退職の合意を無効とし、復職と賃金の支払いを命じました。

これにより、退職勧奨においては、企業の説明が労働者に与える影響が重視される結果となりました。

大和証券・日の出証券事件(大阪地判平成27・4・24労判ジャーナル42号2頁)では、労働者が長期にわたっていわゆる「追い出し部屋」で執務させられ退職に追い込まれたと主張しました。

裁判所は、このような嫌がらせ行為が退職勧奨の許容範囲を超えたものであるとして、会社に慰謝料の支払いを命じました。

このようなケーススタディから得られる教訓は、退職勧奨の手法が適正であっても、労働者への配慮や適切なコミュニケーションが欠かせないということです。

これらの裁判例は、退職勧奨が法的に認められる範囲を明確にする指針となっており、企業には適法に行動する責任があることを示しています。

労働者に対して尊重を持って対応することが、企業の信用やトラブル回避に寄与する重要な要素であると言えるでしょう。

7、退職勧奨に応じてもらえない場合

退職勧奨に応じてもらえない場合、その対応には慎重さと戦略が求められます。

まず、退職勧奨を行う理由となった問題点等について社員が認識していない場合、社員は感情的に反発して受け入れないことが一般的です。

企業側としてはなぜ退職勧奨を行うのか、労働者に対して誠意を持ってその理由を説明することが不可欠です。

具体的には、仕事にミスが多い、業務成績が芳しくない、業績不振、組織再編成などといった事情があれば、過去の注意指導歴、業務実績、会社の業績を示すデータや事実を基に説得を試みることが効果的です。

社員が不安を抱えている場合には、退職金(解決金)の上乗せや再就職支援がどのように提供されるかについても触れることで、心理的な安心感を与えることが重要です。

ただし、この段階で強圧的な言動を取ることは厳禁です。

たとえば、「これが最後のチャンスだ」といったプレッシャーをかける表現は、後々のトラブルの原因となります。

法律的な観点からも、こうした言い方は退職強要と捉えられかねず、企業側にとってリスクです。したがって、冷静かつ論理的に伝えることに重きを置き、相手の意見にも耳を傾ける姿勢が必要です。

8、録音の重要性

録音は、退職勧奨の際に極めて重要な役割を果たします。

退職の提案が行われる場面では、双方の言動や意図を明確に記録することができるため、後の争いを避けるための有効な手段となります。

特に、退職勧奨に際しては、「不当な心理的圧力をかけられた」や「名誉を傷つけるような暴言を吐かれた」といった主張が裁判で持ち出されることがあります。

このため、録音を行っておくことで、事実関係を証明する材料を確保できるのです。

もっとも、従業員側も録音を行っていることが多く、裁判においても、従業員側が録音された証拠を提出されることが多いです。

そのため、退職勧奨を実施する場合は、録音され、今後紛争になった場合に証拠として使われることを前提に対応する必要があります。

具体的には、退職勧奨の面談に臨む際には、事前に面談の目的や意図を明確にし、適切な言葉遣いを心掛け、感情的な発言や圧力をかけるような表現は避けましょう。

9、退職勧奨による退職は会社都合退職

退職勧奨によって退職した場合、失業保険上の扱いは会社都合退職とされます。

これは、退職者が「特定受給資格者」または「特定理由離職者」に該当し、雇用保険の基本手当の受給条件に影響を与えるためです。

具体的には、ハローワークの定義に従い、退職勧奨に応じて退職した人は特定受給資格者として認められます。

会社都合退職の利点として、退職手当の受給が早く、しかも受給期間が自己都合退職よりも長いことがあります。

具体的には、申し込みから7日間が経過すれば基本手当を受給できるため、退職後すぐに生活の安定が期待できます。

これは、収入が途切れやすい退職後の生活において、非常に重要なポイントとなります。

一方、自己都合退職の場合は、受給開始までに3か月の待機期間が必要である上、受給期間も短くなることが多いです。このように、退職勧奨に応じて会社を離れることは、経済的な面でも退職者にとって有利に働くことが多いと言えます。

 

10、解雇・退職勧奨に関する解決事例とその他参考情報

解雇・退職勧奨の解決事例として、当事務所では以下のようなものがございます。どのようにして弁護士と共に、解雇・退職勧奨に際して生じるトラブルを解決するのかのご参考にしてください。

また、労働問題で起きる代表的なトラブルや弁護士に相談すべき理由について解説した記事もございますので、ぜひご一読ください。

 

解雇・退職勧奨に関する解決事例の一部

・セクハラ等を行った従業員に配転命令を行ったところ組合へ加入し、パワーハラスメントであると主張して団体交渉を要求してきたが、パワーハラスメントでないことを立証し解決に導いた事例

・営業回りの従業員から残業代請求の訴訟が提起されたが、請求額の約1割の額で和解による解決を図ることができた事例

 

 

その他参考情報

・労働問題で起きるトラブルとは。労働問題は弁護士に相談するべき?

 

8、解雇・退職勧奨には専門的な知識が必要です。まずは弁護士にご相談ください。

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題社員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
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この記事の監修者:向井蘭弁護士


護士 向井蘭(むかい らん)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 向井蘭(むかい らん)

【プロフィール】
弁護士。
1997年東北大学法学部卒業、2003年弁護士登録(第一東京弁護士会所属)。
同年、狩野祐光法律事務所(現杜若経営法律事務所)に入所。
経営法曹会議会員。
労働法務を専門とし使用者側の労働事件を主に取り扱う事務所に所属。
これまで、過労死訴訟、解雇訴訟、石綿じん肺訴訟。賃金削減(就業規則不利益変更無効)事件、男女差別訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件、昇格差別事件(組合間差別)など、主に労働組合対応が必要とされる労働事件に関与。近年、企業法務担当者向けの労働問題に関するセミナー講師を務める他、労働関連誌への執筆も多数

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