労基法違反の雇用契約を結んだことが民法上の不法行為に当たるか

労基法違反の雇用契約を結んだことが民法上の不法行為に当たるか等が問題となった裁判例(東京地裁立川支部R7.3.6判決)をご紹介致します。
なお、本件の他の争点として、非常勤医師が担当患者をゼロにされたことによる慰謝料請求もあり、この点についても解説します。

労基法違反の雇用契約を結んだことが民法上の不法行為に当たるか


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1.事案の概要

本件は、被告運営の病院の非常勤医師として雇用された原告が、労基法に反する違法な内容(有給休暇なし)の雇用契約を結んだことにより労基署への通報にかかった費用の損害賠償、及び被告にその是正を求めた日以来、担当患者数を減らされ、挙句患者を担当させてもらえなくなった等により、精神的苦痛を受けたとして損害賠償を求めた事案です。

被告は、原告からの指摘及び労基署の指導を受け、直ぐに雇用契約書を修正しています

2.裁判所の判断

⑴ 有給休暇なしの雇用契約を結んだ点

契約締結という取引行為における不法行為は、被害者の意思も介在されるので、違法な取引行為を事実上強要したといった事情がない限り、諸法規に反する内容が含まれていたとしても、直ちに民法上の不法行為に該当するとは言えないとしました。

その上で、本件ではそのような事情は見当たらず、不法行為には該当しないと判示しました。

⑵ 患者を担当させなかった点

原告に割り当てられた患者数は、被告に対して雇用契約上の違法な内容の是正を求めた令和5年2月19日以降減少し、同年8月15日以降は完全に0人となりました(R5.2.21~10.10の間で31日の担当日のうち21日で0人)。この点、裁判所は、何らかの意図に基づき、原告に患者を診療させないことを目的としたと推認させるとしました。

被告側の①被告病院における患者の各医師に対する振分けの制度上、そのような結果になったに過ぎない、②被告病院が良質な医療サービスを提供するために有する合理的裁量として、患者に評判が良く、看護師との総合協力の体制が取りやすい医師に患者を多く割り当てた結果であるとの主張については、以下のように判示し、これを認めませんでした。

まず、原告が割り当てられた患者数は、労基法39条違反を指摘し、是正を求めて以降、それまで1日当たり6ないし7人であったのに、大半の日がその半数ないしそれ以下に減少しており、偶然の事情だけで発生したとは考え難いとしました。

また、被告に一定の裁量があることは認められるが、全く診療を行わせないのは懲戒処分類似の行為といわざるを得ないが、就業規則には本件のような扱いは定められていないとしました。そして、仮に規程にない事実上の処分をなし得るとしても、被告病院の業務や患者に重大な悪影響を及ぼすような行為がある場合に、応急措置としてのみされるべきところ、本件では2か月間経過しており長期間に過ぎるとしました。

さらに、原告に、患者又は看護師に対して、患者を診察することを禁ずるほどの不適切な行為があったとまで認定するには足りないし、被告がそのように判断したとしても、少なくとも、速やかに、その旨を原告に告知し、是正の機会を与えなければならないところ、被告がそれを行ったとは言えないとしました。

以上のことから、少なくとも、被告病院において原告に対する割当患者数が0人となった令和5年8月15日以降において、民法上の不法行為が成立するとし、慰謝料は少なくとも20万円を下回らないと判示しました。

3.まとめ

まず有給休暇なしとの雇用契約については、労基法違反として違法、無効になりますが、これだけで直ちに民法上の不法行為に当たるものではありません。民法上の不法行為というと交通事故等の事実行為によるものが一般的に思い浮かびますが、契約締結等の取引行為が不法行為に当たる場合もあります。典型的なのは消費者契約等で騙されて商品を買わされるような事案です。例えば契約の場合には、その契約が嫌であれば結ばなければ良いので、労基法違反の契約を結んだだけでは不法行為にならず、騙された、強要されたといった事情が必要になります。誤解されないように言っておくと、本件のような契約に基づいて、実際に労働者からの有給休暇申請を拒否し、これにより労働者が損害を被った場合は不法行為に当たります。この場合は有給休暇の申請を拒否した行為が不法行為になるわけです。本件では、労基署等から指摘されて契約を修正しており、実際に有給休暇申請を拒否したわけではありませんでした。

一方、担当患者を0人としたことについては不法行為が成立するとしています。仮に原告の態度に問題があったのだとしても、原告に対する説明や改善指導を行い、かつそれを立証することができないと合理的理由の点では苦しくなるかと思います。

この記事の監修者:岡 正俊弁護士


岡 正俊(おか まさとし)

杜若経営法律事務所 弁護士
弁護士 岡 正俊(おか まさとし)

【プロフィール】
早稲田大学法学部卒業。平成13年弁護士登録。企業法務。特に、使用者側の労働事件を数多く取り扱っています。最近では、労働組合対応を取り扱う弁護士が減っておりますが、労働事件でお困りの企業様には、特にお役に立てると思います。

当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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