会社幹部を解雇したところ解雇無効と合わせ未払い残業代請求訴訟を提起されたものの、解雇の有効性及び管理監督者性に関する主張・立証が功を奏して、解雇が有効であること及び管理監督者であることを前提にした和解に成功した事例

業種 加工食品の製造業
従業員数 100名未満
解決方法 労働審判(調停による和解)
結果 請求額 解決金
約1000万円 給与約3ヶ月分

 

1, お問い合わせ状況

会社の幹部従業員を解雇したところ、当該元従業員が弁護士を通じて解雇の無効確認と未払い残業代請求をしてきたというご相談でした。
 

2, 当事務所の対応と解決のポイント

(1)訴訟段階での対応方針

申立人である元従業員からは・解雇が無効であるとの主張に加え・長時間の労働が常態化していたとの主張がありました。
 
しかし、会社としては・解雇の正当性が正当なものであるとの思いに加えて、・社長の右腕として会社経営に携わっていたのだとの思いが強く、実際に労働実態や会社内での職務権限を精査すると、・当該元従業員について解雇されても止むを得ないような事由が多々見られたこと及び・(原告の主張する労働時間内に“労働時間”とは言えない時間帯が多く含まれていることのほか)申立人が労基法
上の管理監督者であると判断される可能性も十二分にある事案であることが判明しました。
 
ちなみに、ある従業員が労基法上の管理監督者に該当するか否かは、「職務内容、権限及び責任並びに勤務態様等に関する実態を総合的に考慮して判断」するものとされ(白石哲編著『労働関係訴訟の実務〔第2版〕』(商事法務・平成30年)153頁)、具体的考慮要素について裁判所は①職務内容が少なくともある部門全体の統括的な立場にあること、②部下に対する労務管理上の決定権限等につき一定の裁量権を有し、人事考課・機密事項に接していること、③管理職手当などで時間外手当が支給されないことを十分に補っていること、④自己の出退勤を自ら決定する権限があること、という判断基準を示しています(ゲートウェイ21事件-東京地判平20・9・30労判977号74頁、東和システム事件-東京地判平21・3・9労判981号21頁・菅野和夫「労働法第12版」493頁)。
 
そこで、①職務上の権限として、会社の経営に関わる会議に出席していたり、会社と従業員との意見交換会に会社側の代表者として出席していたりする事情を丁寧に主張し、②労務管理上の権限として、自身の裁量で採用や退職勧奨を行なっていた事情を対象の人物ごとに主張したほか、全社的な人事考課に関与していた事情を実際の人事考課プロセスをもとに主張し、③待遇面について、管理職でない従業員との比較を具体的計算とともに示し、④出退勤の自由について、残業の許可制が対象の元従業員に適用されていなかったことを示したりするなど、とにかく対象の従業員がいかに権限・裁量を持って働いていたかを事細かに整理して主張するよう工夫しました。社の安全配慮義務違反が争われた過去の裁判例の中から、本件と事故状況が類似する事案を調査し、その裁判例に基づいて、仮に会社に安全配慮義務が認められる場合でも、原告側にも5割の過失が認められることを主張しました。

(2)解決内容

原告労働者からの請求金額は1000万円近い金額でしたが、労働審判委員会からは、解雇が有効であること及び管理監督者であることを前提とした心証が示され、請求額から7〜8割近く減額した内容での和解解決となりました。
 

(3)解決のポイント

管理監督者(として扱っていた従業員)からの未払い残業代請求は高額化しやすい傾向にあります。
 
その要因はいくつかありますが、そもそも労基法上の管理監督者であると認められるためのハードルが非常に高いことに加え、通常管理監督者(として扱っていた従業員)の給料が高く設定されていることが多くその分割増賃金の基礎単価が割高になることや、管理監督者として扱っていたためそもそも割増賃金の支払いが一切されていない場合が多いことなどがあげられます。
 
管理監督者性の主張が認められないと、単に「未払いの残業代を支払え」との判断が下されるだけでなく、役職手当として支払っていた金銭まで割増賃金の基礎単価に含まれて計算されるなどある意味二重で苦しい状況になってしまいます(管理監督者(として扱っていた従業員)に支給していた役職手当の返還請求が認められた事案もありますが本稿では割愛させていただきます。)。
 
管理監督者性の主張において重要なのは、(実際に労基法上の管理監督者たるに相応しい権限を与えていたことは大前提として、)対象の従業員の“仕事の仕方”をいかに上記①〜④に引きつけて主張できるかです。
 
本件では、実際に会社が使用していた組織図のほか、役職毎に作成されていた職務権限表や業務上作成された資料(業務指示のメールや自身が決済を行なった際の資料など)なども用いながら、本人が如何に大きな権限を有していたかを客観的にわかりやすく主張立証しことが効果的だったと感じています。
 
その結果、労働審判委員会から、会社側に有利な内容の心証が示されて、請求額より大幅に減額した内容で和解解決となりました。
 

3, 労災に関する解決事例とその他参考情報

労災に関する解決事例の一部

・管理職・管理監督者から1000万円の未払い残業代請求!?

 

・管理職から残業代請求がなされた事例

・大手コンビニエンスストアチェーンの店長職の従業員が会社に残業代請求をしてきたが、4割の減額に成功した事例

 

 

4、労働問題には専門的な知識が必要です。まずは弁護士にご相談ください。

使用者側の労務トラブルに取り組んで40年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題従業員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。
 
今回ご紹介した企業様からは裁判終了後も当事務所との顧問契約を継続していただいており、賃金制度設計の見直しや日頃の労務管理についてのアドバイスをさせていただいております。労働紛争は目の前の紛争事件の解決のみではなく、紛争が解決した後に同じような問題が起こらないようにフォローすることも重要になります。
 
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この記事を執筆した弁護士

本田泰平(ほんだ たいへい)

杜若経営法律事務所 弁護士
本田泰平(ほんだ たいへい)

弁護士プロフィール:
弁護士。

会社側の人事労務問題(問題社員対応、解雇紛争、未払残業代請求対応、労災対応、労働組合対応等etc…)を専門的に取り扱っている。
会社側の代理人として、解雇紛争事案や未払残業代事案など多数の訴訟・労働審判対応のほか、保全事件対応やあっせん手続対応等もおこなってきた。