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降格・減給が無効であるとして、従業員から地位確認等を求める労働審判を申し立てられたが、賃金減額に対する本人の同意が有効であることを具体的に主張し、解決金の支払により合意退職とすることができた事例

業種 情報サービス業
従業員数 100名未満
解決方法 労働審判
結果 請求額 解決金
約390万円 解決金約330万円・合意退職

 

1, お問い合わせ状況

情報サービス業を営む企業様から、在職中の従業員に労働審判を申し立てられたとして、ご相談をいただきました。ご相談の時点で、答弁書の提出期限まで約2週間、第1回期日まで約1か月という状況でした。

申立ての内容は、①職能等級の引下げとこれに伴う月額約10万円の賃金減額が無効であるとして、従前の職能等級及び賃金の支払を受ける労働契約上の地位の確認を求めるもの、②減額分の未払賃金の支払を求めるもの、③一連の対応がパワーハラスメントに当たるとして損害賠償を求めるものでした。

会社としては、当該従業員との間で既に信頼関係が失われていたことから、一定の金銭的負担が生じるとしても、雇用関係そのものを解消したいという強いご意向をお持ちでした。

 

2, 当事務所の対応と解決のポイント

(1)当事務所の対応

本件の中心的な争点は、賃金の減額について本人の同意があったといえるか、また、その同意が有効といえるかという点でした。労働者の同意による労働条件の不利益変更については、同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかという観点から厳格に判断されており、使用者側にとって決して有利な争点ではありません。

もっとも、本件には、①減額前の雇用契約書に、当該賃金額が特定のプロジェクトの終了時までのものである旨が明記されていたこと、②会社が面談により説明の機会を設け、本人が契約書を持ち帰って検討したうえで、数日後に自ら署名押印して提出していること、③従前の賃金は当該プロジェクトへの従事を前提として例外的に高く設定されたものであり、減額後の賃金はむしろ社内の職能資格制度に沿った水準であることなど、同意の有効性を基礎づける事情が複数存在しました。

他方で、仮に地位確認請求が認められた場合には、賃金差額の負担が将来にわたって継続するうえ、信頼関係を欠いたままの就労の継続は、会社にとって大きな負担となります。

そこで当事務所では、答弁書において、本件が会社による一方的な降格・減給処分ではなく本人の合意に基づくものであることを、契約書の記載及び面談の経過に沿って具体的に主張しました。パワーハラスメントの主張についても、労働条件の見直しに関する説明や勤務場所の変更等はいずれも業務上の必要性に基づくものであり、業務の適正な範囲を超えるものではないことを反論しました。そのうえで、訴訟に移行した場合の見通しとリスクを具体的に見積もり、退職を前提とする解決金の水準をあらかじめ会社と共有したうえで、第1回期日において解決案を提示しました。

 

(2)解決内容

第1回期日で会社側が提示した従前賃金の6か月分相当の解決案をもとに交渉を行い、第2回期日において、減額期間の差額賃金相当額を上乗せした解決金約330万円を支払い、当該従業員が退職して労働契約が終了するという内容で調停が成立しました。

ご相談から約1か月半という短期間で、訴訟に移行することなく、会社が最も重視していた雇用関係の解消を実現することができました。

 

(3)解決のポイント

本件で会社が最も重視していたのは、解決金の額よりも、当該従業員との雇用関係を確実に終了させることでした。地位確認請求が認められれば、賃金差額の負担が将来にわたって続くだけでなく、信頼関係を欠いたままの就労を継続させざるを得なくなるためです。

そこで当事務所では、受任の当初から、争点についての反論と並行して、退職を前提とする解決の道筋を組み立てました。会社にとって何が最も重要かを早期に見極め、そこから逆算して手続を進めたことが、限られた期日の中で結論を得ることにつながりました。

また、賃金の不利益変更に対する労働者の同意は、書面に署名押印があるというだけでは足りず、変更の内容や不利益の程度について十分な説明を受けたうえで、労働者が自由な意思に基づいて同意したと認めるに足りる客観的な合理的理由が必要とされます。本件では、契約書上、高い賃金が特定のプロジェクトの期間に限られる旨が明記されていたこと、説明の機会と持ち帰って検討する時間が確保されていたこと、減額後の賃金が社内制度に沿った合理的な水準であったことを書証に基づいて具体的に主張したことで、交渉の土台となる説得力を確保することができました。

労働審判は原則として3回以内の期日で審理が終結する手続であり、第1回期日でおおむね心証が形成されます。法律構成としては地位確認であっても、実質的には雇用関係の解消と金銭的な清算が問題となる事案においては、答弁書の段階から、争点についての反論と、最終的な着地点を見据えた解決案の双方を準備しておくことが、早期解決の鍵となります。

弊所では、紛争が生じた後の対応にとどまらず、賃金・処遇の見直しにあたっての制度設計や手続面のサポートも行っております。労働条件の変更をご検討の際は、実行前の段階でぜひご相談ください。

 

3、労働問題には専門的な知識が必要です。まずは弁護士にご相談ください。

使用者側の労務トラブルに取り組んで50年以上。700社以上の顧問先を持ち、数多くの解決実績を持つ法律事務所です。労務問題に関する講演は年間150件を超え、問題従業員対応、残業代請求、団体交渉、労働組合対策、ハラスメントなど企業の労務問題に広く対応しております。

今回ご紹介した企業様からは裁判終了後も当事務所との顧問契約を継続していただいており、賃金制度設計の見直しや日頃の労務管理についてのアドバイスをさせていただいております。労働紛争は目の前の紛争事件の解決のみではなく、紛争が解決した後に同じような問題が起こらないようにフォローすることも重要になります。

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5、当事務所では労働問題に役立つ情報を発信しています。

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この記事を執筆した弁護士

渡邉三紗(わたなべ みさ)

杜若経営法律事務所 弁護士
渡邉三紗(わたなべ みさ)