労働審判への対応

労働者(元労働者)が労働審判を申し立てた場合、裁判所が使用者に期日呼出状及び答弁書催告状を送ります。

労働審判期日呼出状、労働審判申立書が届いたら、どうすれば良いのでしょうか?

ほとんどの企業は労働審判の経験がないため、期日呼出状及び答弁書催告状を受け取っても、何をどうすればよいのかわからないと思われます。
本項では、当職の経験から、期日呼出状及び答弁書催告状が届いた場合のポイントをお伝えします。

労働審判における答弁書の役割

労働審判は、通常の裁判とは異なり原則3回以内の期日で迅速に審理が行われます。第1回期日で大枠の判断が下されることが多いため、会社側の主張をまとめた答弁書は極めて重要な役割を果たします。

事前に的確な反論を裁判所へ伝えることで、有利な解決を目指すための基盤を築くことができます。

労働審判における答弁書の書き方

答弁書には、法律や規則で定められた事項を漏れなく記載しなければなりません。

単に相手の主張を否定するだけでなく、法的な根拠に基づいた記載が求められます。

訴訟の答弁書の書き方と同様に、説得力のある充実した書面を作成することが不可欠です。

申立ての趣旨に対する事実の認否

労働者側の要求である「申立ての趣旨」に対し、会社としてどのような判断を求めるかを明確に記載します。

また、申立書に書かれた個々の事実について、「認める」「否認する」「不知(知らない)」のいずれかを明記する認否を行います。

ここで不注意に事実を認めてしまうと後から覆すのが難しくなるため、慎重に検討しなければなりません。

事実関係の争点を明確に絞り込むことが、短い期日で審理を進める労働審判において非常に重要です。

反論の根拠となる事実の記載

会社側の反論を裏付ける具体的な事実を、時系列に沿ってわかりやすく記載します。

あわせて、労使間で認識が異なる法的または事実上の争点を整理し、それに関連する事情を説明します。

裁判所の公開している書式や記載例などを参考にしながら、論理的な構成を組み立てる必要があります。

ただし、簡易な記載例を埋めるだけでは十分な主張が伝わらないことが多いため、事案に応じた詳細な事実関係を補足して作成しなければなりません。

トラブル類型別の反論ポイント

労働審判で申し立てられるトラブルにはいくつかの典型的なケースが存在します。

それぞれの事案の性質に合わせ、会社側に有利となる法的な主張や事実の反論を的確に構成する必要があります。

未払い残業代トラブルのケース

残業代の請求を受けた場合、労働者が主張する労働時間が正確かどうかを確認することが第一歩です。

タイムカードや業務記録などを精査し、休憩時間や私用での滞在が含まれていないかをチェックして反論します。

また、管理監督者にあたるか、固定残業代制度が適正に運用されているかといった法的な主張も欠かせません。

計算方法に誤りがある場合は、正しい算定根拠を示して反論を組み立てる必要があります。

不当解雇トラブルのケース

不当解雇であるとして復職や未払い賃金(バックペイ)を求められた場合、解雇の客観的合理性と社会的相当性を主張しなければなりません。

能力不足や協調性の欠如、重大な規律違反など、解雇に至った具体的な経緯を詳細に説明します。

また、これまでに会社が行ってきた指導や注意の記録を示し、解雇がやむを得ない措置であったことを説得力をもって伝える必要があります。

他社に再就職している事実があれば、その点も指摘して反論します。

ハラスメントトラブルのケース

パワハラやセクハラによる慰謝料を請求された場合、まずは被害者が主張する事実が本当にあったのかを調査し、事実関係を争う場合はその旨を明記します。

また、業務上必要な指導の範囲内であり不法行為には該当しないという主張や、会社として適切な再発防止策や事後対応を行っていたという事実を記載して反論します。

慰謝料が認められるほどの違法性がないことを客観的に説明することが求められます。

提出期限に間に合わない場合の対応

答弁書の提出期限は、通常、第1回期日の1週間から10日ほど前に設定されます。

準備期間が非常に短いため、期日の通知を受け取ったら直ちに作成に取り掛からなければなりません。

期限の遵守および遅延時のリスク

裁判所や労働審判員は、事前に提出された書面を読み込んでから審理に臨みます。

そのため、指定された期限までに必ず提出することが求められます。

万が一、作成が間に合わない場合でも、そのまま放置してはいけません。

早期に裁判所へ連絡を入れた上で、最低限の認否や大枠の主張だけでも先行して提出する対応が不可欠です。

準備が遅れると、会社側の言い分が審判員に伝わらないまま手続が進んでしまうおそれがあります。

答弁書作成時の注意点

答弁書は、中立な立場にある裁判所に事実を正しく伝えるためのものです。

感情的な記載を避け、客観的な証拠に基づいた説得力のある内容に仕上げる必要があります。

虚偽の記載によるリスク

会社側を有利に見せようとして、答弁書に嘘や不正確な情報を記載してはいけません。

相手方から「嘘だらけである」「虚偽の記載だ」と反論され、事実でないことが判明した場合、裁判所からの信用を大きく損なう結果となります。

わからない事実については推測で書かず、「不知」とするなど、誠実な対応を心がけることが求められます。

事実に基づいた正確な主張を行うことが、最終的に良い結果をもたらす要因となります。

主張を裏付ける客観的な証拠

どれほど理路整然と反論を記述しても、それを裏付ける証拠がなければ裁判所に事実として認めてもらうことは困難です。

就業規則や雇用契約書、タイムカード、業務日報、メールの履歴など、争点に関連する客観的な資料を漏れなく収集して提出する必要があります。

証拠に基づいていない主張は説得力を持たないため、答弁書の作成と並行して速やかに証拠集めを行うことが不可欠です。

この記事を執筆した弁護士

樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

杜若経営法律事務所 弁護士
樋口陽亮 (ひぐち ようすけ)

弁護士プロフィール:
弁護士。

東京都出身。
慶應義塾大学法科大学院修了。
2016年弁護士登録(第一東京弁護士会)。
経営法曹会議会員。
企業の人事労務関係を専門分野とし、個々の企業に合わせ専門的かつ実務に即したアドバイスを提供する。これまで解雇訴訟やハラスメント訴訟、団体交渉拒否・不誠実団体交渉救済申立事件など、多数の労働事件について使用者側の代理人弁護士として幅広く対応。人事労務担当者・社会保険労務士向けの研修会やセミナー等も開催する。

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