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「試用期間だから採用拒否しても問題ない」と安易に考え、雇用解消後に労務トラブルに発展するケースがよく見受けられます。
試用期間であっても労働者は労働法により雇用を守られており、容易に採用拒否をすることはできません。
本ページでは、弁護士が試用期間社員の雇用解消における、5つのポイントを解説いたします。
1.ポイント1 本採用拒否とは「解雇」である
(1)試用期間、本採用拒否の法的性質
試用期間であっても既に労働契約は成立していると解されており、その法的性質は解約権留保付労働契約といわれています(三菱樹脂事件・最判昭48年12月12日、労判189-16)。
そして本採用拒否とは、既に成立している労働契約を一方的に終了させるものであることから、解雇にほかなりません。そのため、本採用拒否を行うためには、通常の解雇と同様に「客観的に合理的で社会通念上相当である」ことが求められます(労働契約法16条)。
(2)本採用拒否の基準
それでは、本採用拒否の基準は、通常の解雇と全く同じでしょうか。
この点について、判例は「(通常の解雇と比べて)より広い範囲における解雇の自由が認められてしかるべき」(前掲三菱樹脂事件)と述べています。こういった判例からすると、本採用拒否は通常の解雇の場合よりも緩やかに認められているようにも思えます。
しかしながら、「通常の解雇が有効になるためには100点が必要だが、本採用拒否の場合には80点で足りる」という数値や明確な基準はありません。そのため、結局のところ、本採用拒否に客観的な理由と社会通念上の相当性があるかどうか、それを立証できるかどうかで判断されることになります。具体的に,何月何日に、どこで、誰が、どのように、何をしたのかといった事実を客観的証拠により認定できるようにしておく必要があります。
本採用拒否の適否が争われた場合には、通常の解雇と同程度の理由がなければ裁判所を説得できないというのが筆者の感覚です。本採用拒否をする場合には、使用者側としても通常の解雇と同程度の覚悟が必要です。
2.ポイント2 試用期間中は丁寧な教育指導をすることを意識する
(1)裁判所が着目しているのは教育指導の機会
本人の能力不足を理由とする本採用拒否の場合、裁判所は本人への教育や改善の機会をどれだけ与えていたかに着目します。「本人の適格性に問題があれば、解雇をする前にまず丁寧に指導するべき」というのが裁判所の考え方です。したがって、特に新卒社員を本採用拒否するケースなどでは、丁寧に指導や教育のステップを踏んだのに改善がみられなかったということが説明できていないと、本採用拒否は有効になりません。
(2)試用期間中の教育指導のポイント
① 業務成果や指導の客観的な記録を残す
教育指導のポイントの一つ目は、指導教育を目に見える形で客観的な記録で残すということです。こうした記録を残しておくことで、丁寧な指導が行われていたことを裁判所に説明することができます。
具体的な記録の残し方としては、日報や業務報告などを日々書面で提出させた上で、改善点を指摘するという方法が効果的です。何月何日に、どこで、誰が、どのように、何をしたのかといった具体的な事情、及び本人の改善状況の事実が分かるようにしておく必要があります。
② 定期的に面談を行い、改善点や評価を口頭でも伝える
教育指導のポイントの二つ目は、定期的に面談を行い、改善点や注意事項を口頭で伝えることです。
問題社員の対応について会社の相談を受けていると、膨大な量の注意指導書や懲戒処分通知書を記録として残している一方で、実は面談や口頭での注意を一切行っていなかったというケースに出くわすことがあります。なぜ面談等を行っていないのか理由を聞くと、「本人に直接注意すると反抗的な態度になる」、「毎回言い返されるので面倒になってしまった」、「怖くて注意できない」等という理由でできないことが多いようです。
ところが、実務ではいくら注意指導書や懲戒処分通知書を証拠とするために用意周到に揃えていても、裁判官に「会社は始めから従業員を辞めさせるために計画的にやっていた」と心証を与えてしまい、かえって会社に不利に作用することがあります。裁判所は、会社が本心から注意指導をして本人を改善させたいと思っていたのか、解雇の口実を作るためだけに注意指導をしていたのかということを見抜きます。「会社が本当に改善させたかったのでれば、本人と直接向き合って指導していたはずだ」というように考えます。
逆説的ではありますが、辞めさせたいと思うような問題社員ほど、親身に面談等で指導をして改善の機会を与えるべきなのです。
3.ポイント3 まずは退職勧奨による合意退職を試みる
ポイント1で説明したとおり、本採用拒否が争われた場合にはその有効性が厳しく問われることになります。そのため、いきなり本採用拒否をするのではなく、可能な限り退職勧奨により自発的に退職してもらうというのが望ましいといえます。
試用期間中の従業員に対する退職勧奨をスムーズに進めるためのポイントは、次の二点です。
① 試用期間の早い段階で自分の力量を自覚してもらう
一つ目は、事前課題や面談を通して、本人に自分の力量を自覚させた上で、このままでは本採用が難しいことを面談などで事前に伝えておくということです。
例えば、3ヶ月の試用期間があったとすれば、1ヶ月ごとに働きぶりを評価する機会を設けてください。1ヶ月ごとに勤務実態を判断して、会社としての改善点を指摘し、次の1ヶ月ないし2、3週間の間に改善がみられるかを観察します。それでも全く改善がみられない場合には、このままでは本採用は難しい旨を通知して、最後の期間まで観察を続けます。また、ポイント2で説明した日々の業務日報などによる指導も効果的です。
このように対応することで従業員自身が自分の力量を自覚し、場合によっては「この会社では自分は務まらない」と認識する従業員もでてくるでしょう。こういった認識がある場合には、合意での退職という方向に話も運びやすくなります。
② 具体的なスケジュール設定を考える
試用期間の期間は限られています。多くの会社では試用期間を3ヶ月から6ヶ月に設定しています。そのため、本採用が難しいと考えた時点から早急にスケジュールを考えて、準備を進める必要があります。早期の段階から本人に課題や改善点について面談をして本人に問題点を自覚してもらう、業務日報で日々の業務実績を残しておくことが重要です。
残念ながら、実際には入社してから1〜2ヶ月目を何も対応せずに無駄に過ごしてしまっている会社が多いというのが筆者の実感です。試用期間満了の直前で本採用が難しいと考えても、打つ手は限られてしまいます。
どうしても試用期間満了日までに準備が間に合わないという場合には、試用期間の延長を検討する必要もあります。ただし、試用期間の延長は使用者の一方的な意思表示ではできず、労働契約上の根拠(就業規則や労働者との個別合意等)が必要です。
4.ポイント4 試用期間の途中で本採用拒否はリスクが高い
原則として、試用期間の途中に適格性なしと判断して本採用拒否をすることはできないという点には注意が必要です。試用期間とは労働者の適性を判断するための期間であり、設けられた期間は、労働者の適性の判断のために用いるべきものだからです。
裁判例(医療法人財団健和会事件・東京地判平21・10・15)でも、試用期間を3ヶ月とした場合に、20日間程度の試用期間を残して、事務能力の欠如を理由として本採用拒否した事案において、裁判所は「客観的に合理的理由を有し社会通念上相当であるとまでは認められない」として、本採用拒否を無効と判断しています。
5.ポイント5 安易な本採用は行わない
ここまで本採用拒否が難しいということを説明してきましたが、だからといって「とりあえず本採用をして、ダメなら後から解雇しよう」と考えるのはNGです。
たしかに、ポイント1では、本採用拒否は通常の解雇と同程度の理由が必要という話をしました。
しかし、従業員と退職の話をするためには、きっかけや節目といったタイミングが重要です。従業員も試用期間の存在は気にしており、試用期間満了のタイミングで話をした方が納得して退職をしてもらいやすく、早期に話がまとまりやすいというのが実務上の感覚です。逆にいったん本採用をしてしまった後だと、本人も心情的に容易に退職に応じてくれません。
そのため、どうしても本採用にさせたくないという場面では、試用期間中に本人に退職勧奨を行い試用期間で終わらせるよう努力する必要があります。