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  • 不利益変更③

第21回 平成21年12月7日 「不利益変更③」

設例
A商事は3期連続赤字で、今期もこのまま行けば赤字になる見通しである。取引金融機関は今後融資を継続するためには今期は黒字である必要があると述べ、さらに今後の経営改善計画を提出するように述べている。A商事は、有利子負債が多く、取引金融機関が融資を打ち切れば倒産してしまう。A商事は経営改善計画を立てようとしていますが、大幅な売上の伸びは期待できないため、人件費削減に手を付けざるを得ない。A商事には労働組合がありますが、組合員比率は20%程度である。他の従業員は労働組合に加入していない。A商事は、賃金の10%を削減することを従業員および労働組合に提案しようと考えている。A商事はどのように手続きを進めればよいか?

1 労働条件の不利益変更とは

(1)労働契約も約束である

契約とは簡単にいうと約束であり、一度約束したことは原則として双方の合意がなければ変更してはならない。労働契約は、賃金の支払い義務と労務の提供を互いに約束することで成り立っている。したがって、労働契約においても、双方の合意がなければ賃金を下げるなどをすることはできない(労働契約法8条)。

しかし、労働契約というのは商取引とは異なり、場合によっては数十年間にもわたり契約関係が続くものであり、かつ契約を結んでいる者は何十人、何百人、何千人といることが多い。そのため、契約内容を変更するのに個別同意をとることが困難な場合もあるし、労働時間などについては全員統一して変更する必要性が高い場合もある。

そこで、日本では、使用者が就業規則により必ずしも個別同意を必要とせずに就業規則を制定、変更することにより、労働者との労働契約を変更することが可能である。
ただし、就業規則を変えさえすれば、無制限に労働契約を変更できるのであれば労働者が保護されなくなってしまう。
そのため、労働契約法に定める要件の下に合理性が認められる場合に限って、労働者に対し就業規則の拘束力を認めるようにした(労働契約法第7条)。

(2)労働協約は使用者と労働組合との契約である

労働協約とは「労働組合と使用者またはその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名または記名押印したもの」である(労働組合法14条)。労使双方が「労働条件その他」について書面で署名、記名押印したものであれば、「覚書」、「議事録」でも労働協約となる。
使用者は、労働組合に労働条件変更の提案を行い、労働組合と合意すれば、労働協約を締結することになる。労働協約を締結した場合は、その効力は組合員にも及ぶ。労働組合法第16条は「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする」と定めている。

そのため、労働協約が定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効となる(強行的効力)。無効となった労働契約の部分は労働協約の定めた内容となる(直律的効力)。強行的効力と直律的効力を併せて規範的効力と呼ぶ。
例えば、組合員個人が使用者と労働組合が締結した労働協約の労働条件変更の内容(賃金カットなど)に不賛成であっても、組合員である限り、労働組合と使用者の労働協約に拘束される。そのため、使用者は、組合員については、労働組合と労働協約を結ぶことで組合員の労働条件を変更することができる。
もっとも、非組合員については労働協約の効力は及ばないため(一部の例外を除く)、使用者は非組合員については個別同意をとるか、就業規則を変更することによって労働条件を変更しなければならない。

2 労働条件変更の方法と問題点

(1) 個別合意による労働条件変更

① 方法


個別合意による労働条件の方法については、様々な文案があるが、就業規則との関係を考慮する必要がある。労働者と使用者が個別合意をしても、その内容が就業規則に定める労働条件の基準を下回る場合は、無効となり無効となった部分は就業規則に定める基準によると規定している(労働契約法12条、労働基準法93条)。

そのため、労働者と使用者が個別合意をしても、就業規則を変更していないと就業規則と個別合意が抵触する範囲で無効となってしまう。労働者と使用者が個別合意をしても、同時に就業規則を変更しなければならない。

労働者と使用者の個別合意の文例としては、簡単ではあるが以下のようなものが挙げられる。

                          合意書
                                          平成●年●月●日

甲(労働者の氏名)は、別紙の乙の就業規則(平成●年●月●日変更のもの)の変更内容に同意する



乙 


② 問題点


・就業規則により変更可能な労働条件か

労働契約法第10条は、但し書きにおいて「労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第12条に該当する場合を除き、この限りではない」と定めている。


要するに、就業規則の変更によっても変更することが出来ないと合意した労働条件については、就業規則により労働条件を変更できないとしたものである。

したがって、就業規則により労働条件を変更する場合は、①就業規則の変更によることを許容するものと、②個別の合意のみによることとし、就業規則による変更を排除するもののいずれであるかを確認する必要がある。①の場合は就業規則により労働条件を変更することができるが、②の場合は就業規則により労働条件を変更することができなくなるからである。
もっともほとんどの場合は、上記①なのか②なのかは労働契約書や労働条件通知書にも記載されていないものであるが、労働契約法の文言からは雇用契約締結時などの事情から②であることが明確ではない限り、①の合意であると認定し、就業規則変更の手続きを進めても構わない。


・黙示の合意でも足りるか
労働契約法8条は「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定めている。

労働契約法の「合意」は黙示の合意でも足りるのだろうか?
たとえば、会社が賃金カットを実施すると述べて、従業員が異議を述べなかった。このような場合は黙示の合意があったと認定して良いのだろうか?

かりに数ヶ月程度異議を述べず、突然外部の労働組合に入って異議を述べ始めた場合などはどうか?
この点について定めた明確な裁判例はないが、判例(シンガー・ソーイング・メシーン事件(最高裁昭和48年1月19日))は、賃金放棄については、放棄の意思表示が労働者の自由な意思にもとづくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していなければならないとしているので、単に数ヶ月異議を述べなかっただけでは黙示の合意は認定できないと思われる。実務上はやはり黙っているからといって労働条件の変更に賛成したということは難しく、書面による同意がなければ個別同意があったとは判断されないと考える。

(2) 労働協約による労働条件の変更

① 方法


労働協約は、使用者と労働組合が協議し合意した場合、合意事項について締結する。労使双方が、書面に署名または記名押印する必要がある。ただし、非組合員の労働条件を変更する場合は、労働協約の効力は非組合員に及ばないので、就業規則変更か個別同意を得て(もしくは双方により)労働条件を変更する必要がある。

 


② 問題点


・規範的効力と不利益変更

会社と従業員が20万円の賃金を支払うことで契約を結んでいたとする。労働組合が会社と当該従業員の給料については25万円であると合意した場合はどうなるか?
労働契約よりも労働協約の効力が優先するため、規範的効力より従業員の給料は25万円となる。

では、労働組合がかりに会社と業績不振であるから当該従業員の給料については23万円であると合意したとした場合は、どうなるか?
従来は労働者に不利な労働協約は労働者に効力は及ばないとする学説もあったが、現在は、下記の最高裁判例により、個別の労働者の有利不利を問わず労働協約の効力は特段の事情がない限り組合員に及ぶことで実務上は事実上決着した。したがって、使用者は、労働組合員については、労働組合と賃金カットなど組合員に不利益な内容について合意し労働協約を締結する事で解決することができる。

朝日火災海上事件(最高裁平成9年3月27日)
「本件労働協約は、上告人の定年及び退職金算定方法を不利益に変更する者であり、昭和53年度から昭和61年度までの間に昇給があることを考慮しても、これにより上告人が受ける不利益は決して小さいものではないが、同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力を否定すべき理由はない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することが出来る。本件労働協約に定める基準が上告人の労働条件を不利益に変更するものであることの一事をもってその規範的効力を否定することは出来ないし、また、上告人の個別の同意又は組合に対する授権がない限り、その規範的効力を認めることができないものと解することもできない」

 

・一般的拘束力とは
労働組合法17条は「一の工場事業場に使用される同種の労働者の4分の3以上の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に関しても、当該労働協約が適用されるものとする」と定めている。
この立法趣旨は、多数組合との労働協約に定められた労働条件は労使間の利害調整が十分に図られた合理的なものであると推定し、これにより事業場の労働条件を統一的に規律することは、公正妥当な労働条件の実現が図れると同時に組合の団結力の維持にも資することにある。

そのため、同一事業場の中の4分の3以上の労働者で構成される労働組合が使用者と労働協約を締結した場合は、他の同種の労働者に関しても労働協約の効力が拡張される。したがって、使用者は、同一事業場の中の4分の3以上の労働者で構成される労働組合がある場合は、賃金カットなどの労働条件変更についても、その労働組合と合意して労働協約を締結すれば、他の同種の労働者についても労働協約の効力が及ぶことになる。
もっとも、同種の労働者とは、労働協約の適用対象者が正社員である場合は、非組合員のなかの正社員ではない契約社員、パート労働者には効力は及ばないとしている。

また、同一事業場の中の4分の3以上の労働者で構成される労働組合がある場合に、その他に少数の従業員で構成される労働組合がある場合は、労働協約の効力は少数組合にも及ぶか。
この点について裁判例は分かれているが、否定する裁判例が多数である。
少数組合の組合員についても一般的拘束力の適用を認めてしまうと、使用者は多数組合と団体交渉と合意に至れば、少数組合員に対しても効力を及ぼす事が可能になり、少数組合との団体交渉を蔑ろにする危険性があり、少数組合の団結権を尊重するためにも、一般的拘束力の適用を少数組合の組合員に及ぼすべきではないと解されている。
したがって、実務上は少数組合員には労働協約の一般的拘束力は及ばないと扱うべきであり、同一事業場の中の4分の3以上の労働者で構成される労働組合がある場合でも、その他の少数組合と団体交渉を行い合意に至るよう努力するべきである。

(3) 就業規則の変更による労働条件変更 

① 方法


就業規則による不利益変更が有効であるためには以下の要件をみたす必要がある(労働契約法第10条)。

要件1 変更後の就業規則を労働者に周知させること
従来は、労働者に周知させるだけでは足りず、労基署に届けないと就業規則は効力を有さないのではないかとの議論があったが、労働契約法の制定により労基署への届出は民事上の効力発生要件ではなくなり、立法的に解決された。就業規則の周知とは
1 常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、
2 書面を労働者に交付すること 
3 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること等の方法により、
労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知りうるようにしておくことをいう(労働契約法施行通達)。


要件2 就業規則による不利益変更が以下の事情に照らして合理的であること
労働契約法は、第10条で労働条件変更を就業規則の変更により行う場合は、以下の要素に照らして就業規則の変更が合理的である場合は、労働契約の内容である労働条件は、変更後の就業規則に定めるところによるものとなる。

 

1 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
2 使用者側の変更の必要性
3 変更後の就業規則の内容の相当性
4 労働組合などとの交渉の経緯
5 その他の就業規則の変更に係る事情

最高裁判所の判例は、合理性を判断する際の考慮要素として、Ⅰ就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、Ⅱ使用者側の変更の必要性の内容・程度、Ⅲ変更後の就業規則の内容自体の相当性、Ⅳ代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、Ⅴ労働組合等との交渉の経緯、Ⅵ他の労働組合又はほかの従業員の対応、Ⅶ同種事項に関するわが国社会における一般的状況などを挙げていた。今回の労働契約法の改正によってⅣとⅦは、「変更後の就業規則の内容の相当性」という文言に吸収された。ⅤとⅥは、「労働組合等との交渉の状況」という文言に吸収された。

労働契約法があげる上記1~5の要素については、「1 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」、「2 使用者側の変更の必要性」が重要であり、「1 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」と「2 使用者側の変更の必要性」の要素の相関関係により合理性は決まることが多いと言われている。

例えば、賃金を20%削減するなど「1 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」が大きい場合でも、固定費を削減しなければ資金繰りに行き詰まるなどの事情があるなど「2 使用者側の変更の必要性」が高い場合は、合理性が認められる可能性がある。また、逆に一部の手当を数百円削減するなど「1 就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度」が小さい場合でも、会社の経営に余裕があり経費削減を行う必要性がないなど「2 使用者側の変更の必要性」が低い場合は、合理性が認められない可能性がある。

では、労働組合との合意は合理性の判断にどのような影響を与えるのだろうか?


第四銀行事件判決(最高裁平成9年2月28日、労判710号12頁)は、定年延長(55歳から60歳)に伴って、賃金を大幅にダウンした事例(賃金が55歳時点で従来の6割に減るが、定年延長により総収入は200万円増額になる)であるが、本件就業規則の変更は、行員の約90%で組織されているA労働組合との交渉、合意を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測できると判断した。このように労働組合と合意し労働協約を結んだうえで就業規則の変更により労働条件を変更した場合は、少なくとも合理性を肯定する可能性を高める重要な事情になる。

一方、みちのく銀行事件判決(最高裁平成12年9月7日、労判787号6頁)も、高齢層の従業員の賃金と退職金を大幅にダウンした事例(賃金が高齢者のみ4割くらい減った)であるが、(原告は少数組合に所属)「多数労働組合が同意していても、不利益が大きい場合にはその同意を大きな考慮要素として評価することはできない」と判断した。


したがって、不利益性が大きい場合には、労働組合の合意があっても、少数組合員、非組合員については合理性を推定することはできないとされている。この事例の場合は、第四銀行は定年が延長され不利益はある程度軽減されていたこと、50歳以上の行員についても6割が組合員で、その組合が同意したこと、みちのく銀行は高齢層の従業員のみが賃金と退職金をカットされ、組合員については優遇されていたことから、労働組合の合意は高齢層の従業員の利益を調整して行われたものではないことから第四銀行事件と判断に差が出たと言われている。
もっとも、労働組合と合意した事実は、就業規則の変更の合理性を肯定する上で大きな事情になるので、使用者としては労働組合と団体交渉を行い労働条件変更について合意を目指すべきである。

3 労働組合がある場合の労働条件変更の進め方

労働組合が存在する場合、まず使用者は労働組合に労働条件を変更する旨の提案を行う。使用者は文書で労働条件の変更内容、理由を通知する。後に裁判所や労働委員会に紛争が持ち込まれた場合に備えて、文書で労働条件変更の提案をした方がよい。

非組合員も存在する場合は、使用者は、対象となる全ての従業員を集めて説明会を行う。この際、組合員を除外せず説明会を行う。質問も受け付けて非組合員の不安や疑問点を解消する。一度の説明会で足りなければ複数回説明会を行っても良い。

通常、使用者が労働条件変更の提案をした場合、労働組合が団体交渉を申し込み、使用者は申しいれを受けて団体交渉を行う。労働組合が申しいれを行わないのであれば、使用者から団体交渉を申し入れてもよい。

労使交渉の末、使用者と労働組合が合意できれば、労働協約を締結する。労働協約を締結するだけではなく、忘れずに就業規則も同様に変更する。労働協約は原則として組合員に対してのみ効力が及ぶため、非組合員に対し労働条件変更の効力を及ぼすためには就業規則を変更する必要があるからである。

労使交渉の末、使用者と労働組合が合意できない場合はどうしたらよいか。上記で述べた就業規則変更の合理性の判断枠組みから判断して、労働組合の合意が無くとも有効であると認められる可能性が高いのであれば、就業規則を労働組合との合意が無くとも変更し、労働協約ではなく就業規則のみにより労働条件を変更することになる。

労働組合の合意がなければ有効であると認められない可能性が高いのであれば、就業規則変更を断念することになる。

既に同一事項について労働協約がある場合は、期間の定めがある労働協約であれば期間が経過するのを待ち(通常自動更新条項があるので不更新の通知をすることになる)、期間の定めがない労働協約については労働協約を解約することになる。

 

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