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第19回 平成21年11月16日 「不利益変更①」

1)労働条件の不利益変更とは

①労働条件の不利益変更とは

労働契約というのは、賃金の支払い義務と労務の提供を互いに約束することで成り立っています。
契約は守らなければならない。
契約は双方の合意がなければ変更してはいけない。
原則として労働契約というのは双方の合意がないと変更してはいけないことになります。
しかし、労働契約というのは商取引とは異なり、場合によっては数十年間に及ぶものであり、かつ契約を結んでいる者は何十人、何百人、何千人といるわけです。いちいち契約内容を変更するのに個別同意をとるのも煩雑ですし、労働時間などについては全員統一して変更する必要性が高いものです。

そこで、日本では会社が一方的に就業規則を制定できるようにして、労働者との労働契約を変更できるようにしました。
ただし、何でもかんでも就業規則を変えさえすれば、労働契約を変更できるのであれば労働者が保護されなくなってしまう。
そこで日本の裁判所は合理的なないようの就業規則にかぎって労働者に対する拘束力を認めるようになりました。
また、労働協約には強い効力を認めました。

 

②労働条件変更の方法

(1) 個別合意による労働条件の変更


労働契約法8条「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる」と定めています。
黙示の合意でも足りるのかどうか?

たとえば、会社が賃金カットを実施すると述べて、従業員が異議を述べなかった。就業規則の変更手続きにおいても従業員代表は賛成をした。

このような場合は黙示の合意があったと認定して良いのでしょうか?
仮に数ヶ月程度異議を述べず、突然外部の労働組合に入って異議を述べ始めた場合などはどうでしょうか?
この点についての裁判例はありません。

ただし、後述するように賃金放棄については、放棄の意思表示が労働者の自由な意思にもとづくものであると認めるに足る合理的な理由が客観的に存在していなければならないとしていますので、単に数ヶ月異議を述べなかっただけでは黙示の合意は認定できないと思われます。

実務上はやはり黙っているからといって賛成したということは難しいと思われます。

 

(2) 労働協約の変更


・規範的効力とは

労働組合法第16条「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働契約に定がない部分についても、同様とする」と定めています。
労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効となりますが、その効力を強行的効力と呼びます。
無効となった部分は労働協約の定めた内容となります、これを直律的効力と呼びます。
強行的効力と直律的効力を併せて規範的効力と呼びます。


・規範的効力と不利益変更

会社と従業員が25万円の賃金を支払うことで契約を結んでいたとします。
労働組合が会社と当該従業員の給料については30万円であると合意した場合はどうなるでしょうか?
これは合意よりも労働協約が優先しますから、規範的効力より給料は30万円となりますね。

労働組合が仮にに会社と業績不振であるから当該従業員の給料については23万円であると合意したとした場合は、どうでしょうか?
従来は労働者に不利な労働協約は労働者に効力は及ばないとする学説もありました。
または、賃金なども重要な労働条件については、組合員の個別の授権(委任ですね)がなければ効力を有しないという学説も裁判例もありました。

その争いに決着をつけた最高裁判例があります。

朝日火災海上事件
「本件労働協約は、上告人の定年及び退職金算定方法を不利益に変更する者であり、昭和53年度から昭和61年度までの間に昇給があることを考慮しても、これにより上告人が受ける不利益は決して小さいものではないが、同協約が締結されるに至った以上の経緯、当時の被上告会社の経営状態、同協約に定められた基準の全体としての合理性に照らせば、同協約が特定の又は一部の組合員を殊更不利益に取り扱うことを目的として締結されたなど労働組合の目的を逸脱して締結されたものとはいえず、その規範的効力を否定すべき理由はない。これと同旨の原審の判断は、正当として是認することが出来る。本件労働協約に定める基準が上告人の労働条件を不利益に変更するものであることの一事をもってその規範的効力を否定することは出来ないし、また、上告人の個別の同意又は組合に対する授権がない限り、その規範的効力を認めることができないものと解することもできない」


・一般的拘束力とは

労働組合法17条「一の工場事業場に使用される同種の労働者の4分の3以上の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用される他の同種の労働者に多関しても、当該労働協約が適用されるものとする」と定めています。

制度趣旨は、多数組合との労働協約に定められた労働条件は労使間の利害調整が十分に図られた合理的なものであると推定し、これにより事業場の労働条件を統一的に起立することは、公正妥当な労働条件の実現が図れると同時に組合の団結力の維持にも資することにあります。


・同種の労働者とは何か

労働協約の適用対象者が正社員である場合は、非組合員のなかの正社員ではない、契約社員、パート労働者には拘束力は及びません。

・少数組合員にも適用はあるか

この点については裁判例は分かれていますが、否定説が優勢です。
少数組合員についても一般的拘束力の適用を認めてしまうと、会社は多数組合と団体交渉と合意に至れば、少数組合員に対しても効力を及ぼしてしまうわけですから少数組合を蔑ろにしてしまうのではないかと言われています。

少数組合の団結権を尊重する趣旨です。
実務上は少数組合員には適用されないと考えた方が無難です。

 


(3)就業規則の変更 


就業規則による不利益変更が有効であるためには(労働契約法第10条)

(要件1)変更後の就業規則を労働者に周知させること
従来は、労基署に届けないと効力を有さないのではないかという議論がありましたが、今回労働契約法が定まったことにより立法的に解決しました。

1.常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、または備え付けること、2 書面を労働者に交付すること 3 磁気テープ、磁気ディスクその他これらに準ずるものに記録し、かつ、各作業場に労働者が当該記録の内容を常時確認できる機器を設置すること等の方法により、労働者が知ろうと思えばいつでも就業規則の存在や内容を知りうるようにしておくこと
をいいます。

(要件2)就業規則による不利益変更が以下の事情に照らして合理的であること
①就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度
②使用者側の変更の必要性
③変更後の就業規則の内容の相当性
④労働組合などとの交渉の経緯
⑤その他の就業規則の変更に係る事情

最高裁判所の判例は、合理性を判断する際の考慮要素として、Ⅰ就業規則の変更によって労働者が被る不利益の程度、Ⅱ使用者側の変更の必要性の内容・程度、Ⅲ変更後の就業規則の内容自体の相当性、Ⅳ代償措置その他関連する他の労働条件の改善状況、Ⅴ労働組合等との交渉の経緯、Ⅵ他の労働組合又はほかの従業員の対応、Ⅶ同種事項に関するわが国社会における一般的状況などを挙げていました。
今回の労働契約法の改正によって
ⅣとⅦは、「変更後の就業規則の内容の相当性」という文言に吸収されました。
ⅤとⅥは、「労働組合等との交渉の状況」という文言に吸収されました。

では、これらの要素を分析してみます。
後の判例の分析でも述べますが、重要なのは①と②になります。
②の必要性については、賃金、退職金をカットする場合は高度な必要性が求められることになります。
この必要性と不利益については比較考慮して検討する必要があると言われております。

2)労働組合の合意はどのような影響を与えるか?

判例番号3、17~18頁  第四銀行事件判決(最高裁平成9年2月28日、労判710号12頁)は、定年延長(55歳から60歳)に伴って、賃金を大幅にダウンした事例(賃金が55歳時点で従来の6割に減るが、定年延長により総収入は200万円増額になる)なのですが、本件就業規則の変更は、行員の約90%で組織されているA労働組合との交渉、合意を経て労働協約を経て労働協約を締結した上で行われたものであるから、変更後の就業規則の内容は労使間の利益調整がされた結果としての合理的なものであると一応推測できると判断しました。

判例番号6、16頁  一方、みちのく銀行事件判決(最高裁平成12年9月7日、労判787号6頁)も、高齢層の従業員の賃金と退職金を大幅にダウンした事例(賃金が高齢者のみ4割くらい減る)なのですが、(原告は少数組合に所属)
「多数労働組合が同意していても、不利益が大きい場合にはその同意を大きな考慮要素として評価することはできない」と判断しました。

したがって、不利益性が大きい場合には、労働組合の合意があっても、少数組合員、非組合員については合理性を推定することはできないとされています。

この事例の場合は、第四銀行は定年が延長され不利益はある程度軽減されていたこと、50歳以上の行員についても6割が組合員で、その組合が同意したこと、みちのく銀行は高齢層の従業員のみが賃金と退職金をカットされ、組合員については優遇されていたことから、組合の合意は高齢層の従業員の利益を調整して行われたものではないことから差が出たと言われています。

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