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未払い残業代:対応事例1 

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物流企業A社(社員約30名)は、これまで社員に残業代を支払っていませんでしたが、創業してから約30年間何ら労使トラブルがありませんでした。

ところが、管理職との人間関係のトラブルから、在籍している社員2名が労働組合に 加入しました。社員2名は、団体交渉で様々な要求を行いましたが、その中に未払い残業代の問題が含まれていました。
A社社長は、これ まで歩合給を支払えば未払い残業代を支払う必要はないと考えていたため、労働組合の説明により残業代を支払わなければならないこと、その金額が膨大なものになることを知りました。

しかし、労働組合員の2名に未払い残業代を支払えば、他の非組合員の社員にも未払い残業代を支払わな ければなりません。全社員に2年分の未払い残業代を支払う余裕はありません。一方で、労働組合は、A社が未払い残業代を支払わない場合は訴訟も辞さないと述べています。この段階で、A社社長とA社の顧問社労士の先生が私の所に相談にみえました。
 
 

対応策の考え方

会社に在籍しているのであれば、他の社員に影響を与えることは必至です。会社に在籍している他の社員が請求することも十分ありえます。未払い残業代を請求している既に発生した残業代を清算することと、これから発生する残業代を抑えることが必要となります。
本来であれば、消滅時効にかからない過去2年分の未払い残業代を支払うべきではありますが、会社にその資力が無い場合、既に発生した残業代を清算する方法としては、(私が考えるものとして)以下のものがあります。
 
①一部期間支払プラス時効消滅を待つ
②一部支払 (もしくは一部期間支払)プラス残額放棄 
③全額放棄
④何もしない
  

①一部期間支払プラス時効消滅を待つ 

・方法
通知文を出して、給与振り込み指定預金口座に振り込みます。通知文を作成して渡すことは必須です。通知文がないと、何に対する 支払であるかが不明確となり、民法上の未払い残業代に対する弁済の要件をみたさなくなるためです。漫然と金銭を支払った場合は、後に臨時の賞与として扱われる可能性もあります。なるべく説明会を開き説明します。
労使関係が良好でなければ、説明会で質問・抗議が出るので準備を する必要があります。
 
・メリット
社員の同意が不要です。後に述べる未払い残業代放棄の事例とは異なり、署名を拒否されるリスクはありません。また、社員には思わぬ収入が入るので、多くは社員も納得します。例えば、この方法で2ヶ月分の残業代を支払った場 合、過去の未払い残業代については、1年10ヶ月経てば消滅時効により消滅します。
→トラブルがなく時間が経過すれば、法的リスクが 無く消滅します。
 
・デメリット
社員にとっては、おおよその2年分の未払い残業代が計算できてしまいます。労使関係が不安定であれば、新たな未払い残業代問題の引き金を引いてしまうことになります。
また、ある程度の予算が不要であり、金銭的に全く余裕のない 会社はこの方法を採ることはできません。

 
●殿
 
通知書
 
平成 23年●月●日
●株式会社
代表取締役 ●
 
平成●年●月●日から平成 ●年●月●日までの未払い残業代(法定労働時間外労働に対する割増賃金。深夜、休日労働に対するものも含む)●円を平成●年●月●日にあなたの給与振り込み指定預金口座に振り込みましたので、ご 確認下さい。
 

 

②一部支払(もしくは一部期間支払)プラス残額放棄

残業代については放棄させることは可能か?
未払い残業代も賃金ですから社員が請求権を放棄することが可能です(示談契約の事例ですが、東京高裁判決平成4年7月23日、労働判例643号 84頁)。もっとも賃金については、労働者の自由な意思にもとづくものであると認めるに足りる客観的な事情が必要であり(シンガー・ ソーイング・メシーン事件判決最高裁昭和48年1月19日)、慎重に対応する必要があります。そうなると問題となるのは、労働者の自 由な意思にもとづくものであると認めるに足りる客観的な事情が何かです。私個人は、使用者の経営が苦しいので全て未払い残業代を支払えないという説明と、使用者の体力の範囲内で一部のみ未払い残業代を解決金として支払うという客観的事実が必要であると思います。そのために、説明会や個別面談などで会社には未払い残業代を全て支払うゆとりはないこと、会社の体力の範囲内で一部のみ未払い残業代を支払う 旨の説明をしておく必要があります(争われる危険が高い場合は説明資料も渡す必要があります)。また、すぐに同意書や放棄書にサインさせるのではなく、一度自宅に帰って考えさせるなどの時間を与えることも、労働者の自由な意思にもとづくものであると認めるに足りる客観的な事 情にあたるといえると思います。
 
・方法
まず(できれば)現社員全員の未払い残業代の計算をします。次に社員に解決 金として支払う原資を決定します。次に原資を未払い残業代に応じて各社員に割り付けます。例えば、社員が20名で、原資が300万円 であれば、社員の未払い残業代に応じて、300万円を分配します(比例配分)。全体説明会を開きます。次に個別面接を行います。
次に個別面接で同意書を取り付けて、同時に現金で解決金として未払い残業代を支払います。労働者は、後に「会社が同意を強要した」と主張するかもし れませんので、上記のとおり、個別面談では、無理にその場でサインさせるのではなく、一度考える時間を与えてもよいと思います。
 
・メリット
過去の未払い残業代について短時間で解決することができます。また、社員には思わぬ収入が入るので、多くは社員も納得しま す。規定を改定する場合、規定の改定、給料(金額)の改定についての同意書も同時に取ることができます。
 
・デメリット
(同意書、放棄書の取り方によっては)法的にリスクが残ります。また、ある程度の予算が不要であり、金銭的に全く余裕のない会社はこの方法を採 ることはできません。
 

 

③全額放棄

・方法
個別面接をして放棄書を取り付けます。
 
 
● 株式会社
●社長殿
 
放棄書
 
平成 23年●月●日
 
平成●年●月●日から平成●年● 月●日までの未払い残業代(法定労働時間外労働に対する割増賃金。深夜、休日労働に対するものも含む)については全て放棄します。
 
 
・メリット
お金がかかりません。放棄書を取り付ければ、短期に解決することが可能です。
 
・デメリット
放棄書にサインしない可能性があり ます。その場合は、退職して未払い残業代請求を行うものと思われます。サインした場合でも、上記�Aのとおり、まったく会社が未払い残業代の一部も支払わないとなると、労働者の自由な意思にもとづくものであると認めるに足りる客観的な事情がないということで、裁判所で放棄の効力(任意性)が否定される可能性があります。
 

 

④何もしない

・方法
(当たり前ですが)ありません。
 
・メリット
お金がかかりません。放棄の場合の時のような、社員の同意は不要です。将来の未払い残業代を抑制できれば、2年間で消滅することになります。
 
・デメリット
退職した社員、もしくは在籍している社員が残業代を請求して、受け取った場合は、現在在籍している社員も残業代を請求する可能性があります。 
 
 
実際の対応
この事例では、社内に労働組合があり、労働組合 とは団体交渉を行い解決しようとしつつ、他の社員については早期に解決する必要があることから、会社は�Aの方法を採ることにしました。上記�Aに記載したような方法で説明を行い同時に賃金規定も改定し、解決金を支払い、同意書を取り付けました。社労士の先生には賃金規定の改定を行っていただきました。社内に労働組合がある場合は、労働組合員も同様に説明をする必要があります。結果として、個別面談では、労働組合 員の方は反対して同意書にサインしていただくことはありませんでした。会社は労働組合との団体交渉も続けましたが、労働組合員以外の 他の社員からの同意書を全て取り付けた後、労働組合を通じて、労働組合員にのみ未払い残業代を支払いました。その点では、組合員と非組合員に不平等感が残りました。しかし、労働組合員以外の方が非常に会社の方針に理解を示してくれましたので、会社は、訴訟を提起されるのを避 けるためにやむを得ず会社が計算した組合員の未払い残業代を支払いました。この未払い残業代問題が収まった後は、労働組合との団体交 渉の回数も減り、比較的平和な労使関係が続いております。

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