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新入社員採用時のトラブル防止

はじめに  

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ほとんどの採用時のトラブルは採用面接時に使用者が応募者に対して期待していた能力、勤務態度と現実の落差にあると思われます。応募者は、採用してもらうために自分をよく見せようとするわけですから、自分の能力以上に自分の実績、能力をアピールすることになります。使用者が、そのアピールを真に受けて採用したところ、実際は全く仕事ができない、勤務態度が悪いなど期待との落差に驚き、トラブルになります。
最近は、不況の影響もあってか、試用期間であっても容易に自分から退職しないケースが増えております。会社は、試用期間中であるからといって、安易に解雇する場合がありますが、以下の具体的事例で述べるとおり合理的な理由無く解雇することはできません。
 

A 具体的事例

・Aさんを試用期間中だが、ろくに挨拶もしない、先輩と取引先を訪問した際居眠りをするなど、勤務態度がすこぶる悪い。これを理由に解雇することはできるか。
 
試用期間中であれば、自由に解雇できると誤解されている方が多いですが、そのようなことはありません。試用期間中の解雇であっても、客観的に合理的な理由がなければ解雇は無効となります。実務上の感覚からいえば、解雇の有効性の判断が正社員の場合に比べて若干緩やかになるだけであると思います。なお、試用期間中、14日以内であれば解雇予告は必要ありませんが(労基法21条)、解雇予告を行う必要が無いからと言って、解雇が常に有効となるわけではありませんので、注意が必要です。
日本コンクリート事件判決(津地裁決定昭和46年5月11日労判136号6頁)は参考になります。出勤率が8割台の従業員を試用期間中に解雇したものですが(解雇は有効と判断されました)、正社員の場合と異なり若干緩やかに解雇の有効性について判断しているように読めます。試用期間中の解雇で裁判になる例はあまりありません。労働者も、試用期間中であれば仕方がないかとあきらめる事例が多かったからだと思われます。しかし、今後労務トラブルが増加し続けていけば、試用期間中の解雇の裁判も増え続けるものと思われます。
したがって、実務上は、勤怠不良などの客観的な証拠をそろえたうえで、試用期間中に解雇する前に、退職勧奨をして辞職してもらうか、合意して退職してもらう(退職届を出してもらう)ことが大切であると思われます。
Aさんの場合は、「ろくに挨拶もしない、先輩と取引先を訪問した際居眠りをする」とのことですが、挨拶をしなかった、居眠りをした事実を後になって証明するのはむずかしいものです。通常は口頭で注意するのだと思いますが、口頭で注意すると共に、メールで注意を重ねて行うなどして証拠を残しておくべきだと思います。何度注意しても、直らない場合は退職勧奨を行い、それに応じない場合は、本採用を見送る旨の通知文書を出します。本採用を見送るといっても法律上は解雇にあたりますので、30日前に予告するか、30日間の予告手当を支払う必要があります。
 

 

・入社後の健康診断で、営業職として採用したBさんに内臓疾患が見つかった。就業は困難なので試用期間中に退職して欲しいが、どうしたらよいか。

 

先ほど述べたとおり、試用期間中の解雇であっても客観的に合理的な理由が必要です。試用期間中の解雇をする上で、事案によっては、会社が調査をすることも必要となります。
Bさんの内臓疾患が、就業が困難な程度のものであっても、会社は、Bさんの同意を得た上で、Bさんの主治医に面談し、会社の業務内容を伝えた上で、就業が可能かどうかを聞くべきであると思います。就業が困難か否かの判断は実は難しく、医師によっても判断が分かれることがあります。Bさんの主治医の意見を聞かずに内定を取り消した場合は、会社がなすべき調査を行っておらず、内定取り消しに合理的理由はなく、内定取り消しは無効となるものと思われます。
・主治医がBさんの就業が困難であると判断した場合は、Bさんも納得して退職すると思われます。
・主治医がBさんの就業に問題がないと判断した場合は、会社の指定する別の医師にBさんを診断させるべきです。主治医がBさんの就業に問題がないと判断しても、会社の指定する別の医師がBさんの就業が困難であると判断する場合があります。医師の意見が分かれた場合は、難しい判断を迫られます。「会社としてもBさんの健康を考えると仕事をさせて健康を悪化させたくない。1年契約で雇用して様子をみた方がお互いよいと思う」と述べるなどして、試用期間の雇用契約内容を変更して、1年間の雇用契約期間を設けて再契約の提案をします。1年間のうちに欠勤が多いなどの具体的事実があらわれた場合は、Bさんも納得して1年契約満了時に円満に退職すると思われます。このような方法をとることで円満に解決することができます。
 

 

・試用期間を終え、Cさんの能力が、こちらが期待するほどのものではないとわかった。給料を下げることは可能か。

 

試用期間中といえども、会社と社員との間には雇用契約が成立しています。雇用契約とは会社と社員との約束事であり、双方が合意しないと内容を変えることは出来ません。特に給料は、雇用契約のうちの重要な約束事のうちの一つですから、試用期間後といえども、会社が社員の給料を社員の同意なく下げることはできません。
したがって、Cさんの能力が低かったとしても、Cさんの同意なしに給料を下げることはできません。Cさんの給料を下げるのであれば、給料を変更する旨の合意書を作成し、Cさんにサインしてもらう必要があります。文書で合意書を作るのは違和感があるかもしれませんが、労基署や裁判所は文書がないと社員に不利な同意は認めませんので、仕方がありません。具体的には「採用面接ではCさんは○ができると言っていたが、実際には○はできなかった。Cさんを雇用し続けたいが、給料を当初の約束の○万円から○万円に変更したいと思う。よければこの文書にサインして欲しい」と述べるなどして話し合いの機会を持ちます。Cさんが拒否した場合でも、説得を続けます。どうしても拒否するのであれば、賃金の変更幅を小さくするかわりに、1年後に再協議する旨の文書を提示して理解を求めサインしてもらい、1年間で成果をみきわめて再協議することになります。

 
・Dさんが、勤務開始後、身元保証書と誓約書を提出しようとしない。これを理由に解雇することはできるか。

 

身元保証書と誓約書を提出する義務は法律に定められていません。したがって、会社が採用する際に、身元保証書と誓約書を提出することを前提に雇用したとしても、内容によっては、社員も提出を拒むことができます。例えば、「業務上生じた損害はすべて社員が負担するものとする」などという社員に負担の重い誓約文書や身元保証書は、提出を拒否できます。そうではなく、例えば「就業規則を遵守します。」「在籍時は営業秘密を第三者に漏らしません」などの内容であれば、社員としての当然の義務を明記したものでありますので、拒否する正当な理由はありません。社員が誓約書や身元保証書の提出を拒む場合は、なぜ提出を拒むのか理由を聞きます。提出を拒む理由を述べなかったり、合理的な理由で無かったり(今までこのようなものは書いたことが無いので書きたくないなど)した場合は、提出期限を決めて、文書で身元保証書と誓約書の提出を命じます。それでも従わない場合は、従わない理由を説明させて、合理的な理由が無い場合は退職勧奨し、退職勧奨に応じない場合は、業務命令違反で懲戒解雇に至らない懲戒処分を行うことになるかと思います。身元保証書と誓約書不提出を理由とした解雇(本採用の見送り)は、合理的な理由があるとは思えません。本採用後の勤務態度をみて、退職してもらうかどうかを判断することになります。

 
・Eさんが1日勤務しただけで、出勤しなくなった。1日分の給与を支払う義務はあるか。また、退職届を提出させる必要はあるか。

 

1日勤務しただけであっても、1日分の給料を支払う必要があります。このEさんのように数日間出勤しただけで出勤しなくなった人については、会社が連絡をしても連絡がとれないことがあります。このような場合、会社が連絡を取ることを放置しているとEさんが、「会社から解雇された」と労基署や裁判所(労働審判)に訴える可能性があります。信じられないかもしれませんが、よくある事例です。したがって、社員を呼び出して退職届を提出させる必要があります。しかし、ほとんどの場合は、連絡すら取れない場合が多いと思われます。そのような場合は、まず、社員の連絡先(両親などの家族でも可)に「突然出社しなくなり困惑をしております。早急に出社してください」との文書を送付します。このような文書があれば後に解雇したとのあらぬ疑いをかけられなくてすむことになります。出社せよとの文書に何ら応答が無く無断欠勤が相当期間続いた場合は、普通解雇か懲戒解雇をすることになります。しかし、解雇も本人に通知文が届かないと効果が発生しませんので、本人が解雇通知を受け取らない場合は(不在で届かない)、対応に非常に苦慮することになります。このような場合は、就業規則に「無断欠勤が30日以上続いた場合は当然に退職したものとする」との条項があれば、退職届がなくとも就業規則記載の日数が経過するのをまって退職したと扱うことが可能ですので予め就業規則にこのような条項を明記しておくとよいと思います。
 

B 採用時にトラブルが起きないようにするには、会社側は予めどのような点について気をつけるべきか、アドバイスをお願いします。

冒頭で述べたとおり、応募者の本来の能力や勤務態度が事前にわかれば、トラブルは相当程度防ぐことができます。特定の能力を前提に勤務させるのであれば、やはり実技試験を行うのが一番であると思います。実際に業務と同じレベルの仕事をさせることが一番能力を図るに適していると思われます。
実技試験では能力を図ることが出来ない場合、勤務態度などを事前に知りたいのであれば、どうしたらよいのでしょうか?前の勤務先の推薦状をもらってくるように依頼するのも一つの方法です。日本ではあまりなじみがありませんが、欧米では一般的で、日本の外資系企業でもよく行う方法です。本人が納得して前の勤務先の推薦状をもらってくるのですから、個人情報保護法に違反するということはありません。前の勤務先でトラブルを起こしているのであれば、まず推薦状を前の勤務先が発行することはありません。応募者が推薦状をもらうことができないというのであれば、会社は推薦状をもらうことができない理由を聞いて、その内容に納得が出来ない場合は、採用しない方がよいと思います。
また、雇い入れ通知書や雇用契約を結び、労働条件を明確にし、無用なトラブルを防ぐことも重要であると思います。

 

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