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  • 合同労組の最近の動向2011年版

合同労組の最近の傾向

※以下は、向井蘭弁護士が執筆し、ビジネスガイド2011年10月号に掲載された記事を再録したものです。

 現在日本経済は縮小を続け、今後もその傾向は変わらないと思います。
 特に大企業ではない中小企業の事例に接するとそれをひしひしと感じます。
 以前であれば、右肩上がりの経済成長の果実を労使双方が分け合うことができましたが、現在は右肩下がりの経済衰退の負担を労使のどちらが負担するのかという話に変わりつつあります。
 社会が変化するにつれ、合同労組との交渉や関係も変化します。そこで、最近の合同労組の傾向について私が個人的に感じたことをお伝えしたいと思います。ただし、守秘義務の関係から事案の内容を変更して記載している箇所があります。

1. 在籍したまま残業代を請求する

 社員が会社に在籍したまま合同労組に加入して残業代を請求する事例が増えています。従来は退職してから残業代を請求することがほとんどでしたが、最近は在職しながら残業代を請求する事例が増えているように思います。退職しても同じ収入を得られるようなあてがないということもあるのでしょうが、会社に恨みを持ってあえて会社に在籍しながら合同労組を通じて残業代を請求しているようです。
 在職しながら残業代を請求する場合と退職してから残業代を請求する場合とでは会社にかかる負担が全く異なります。在籍しながら残業代を請求する場合は、他の従業員にも残業代を支払っていない場合がほとんどであり、他の従業員も関心を持って見守っています。法律上は支払わなければならないとしても、組合員のみに支払うことはできません。かといって、全ての社員に未払い残業代を支払っては中小企業であれば会社が倒産してしまうことがあります。

 例えば以下のような事例がありました。
 物流業のお客様の話です。ある社員一名が合同労組に加入して残業代を請求しました。この社員の方は退職してから残業代を請求するのでは無く、在籍しながら残業代を請求しました。物流業で全く残業代を支払っていなかったため、その請求金額は膨大なものに上りました。その会社の給与水準は非常に高く経営者としては、残業代込みで給料を支払っていたのでした。組合員の方の年齢は高く、持病を抱えていたため (ただし休職を命じるまでには行きませんでした )少なくとも同じような給与水準の会社にはおそらく再就職できない状況にありました。また、お子さんがまだ小さくて教育費がかかり、かつ多額の住宅ローンが残っているような状況でした。この方の内心はわかりませんが、経済的に追い込まれるような状況にあったのではないかと思います。そのため会社を退職せずに在籍しながら残業代を請求したのだと思います。団体交渉は難航しました。もちろんある程度は会社も支払うことは覚悟しているのですが、合同労組の求める金額との開きが大きく話はまとまらず、組合員の方は訴訟(労働審判ではない通常訴訟)を起こしました。労働審判の場合は退職前提の話し合いに応じることを前提としていることが多く、会社側としても見通しが立つのですが、通常訴訟の場合は退職を前提にしていないことが多いものです。
 訴訟では組合員の主張に反論しながら、組合員の代理人弁護士(合同労組の顧問弁護士である事が多いようです)に退職前提の話し合いが可能かどうか提案しました。
 このような話し合いを進めながら、他の社員については、就業規則を変更し人件費の原資の中で残業代を手当などの形で支払う方式に変えました。時給単価が大幅に下がり不利益変更にあたるため手当方式の導入、賃金の内訳の変更について同意書を取りました。合同労組とも交渉しましたが、同意することができませんでしたので、就業規則を変更することで対応しました。就業規則変更に合理性がないとして争われる可能性は高かったですが、やむをえず実施しました。
 紆余曲折ありましたが、訴訟の中の和解交渉を進め、会社が未払い残業代にある程度金額を上乗せしてその代わり退職をしてもらうことで合意する事ができました。

ポイント

会社に在籍している社員が合同労組を通じて残業代を請求した場合は、請求してきた社員だけで無く他の社員についても対策を同時に進めるべきです。

同意書

1 私は,株式会社●より,本日,私が勤務する株式会社●の賃金規定が添付別紙のとおり改訂されるとの説明を受けました。

2 今回の改定により、新しく固定残業手当が創設され、この固定残業手当もいわゆる残業代(所定労働時間を超える労働時間,深夜労働時間及び休日労働時間の対価)として支払われるようになることを了解致しました。

3 また,上記のいわゆる残業代として支払われる上記手当てが,実際の労働時間に基づいて法律にのっとって計算した金額を
�@ 下回る場合には差額分(下回る部分)について会社から支払われること
�A 上回る場合には差額分(上回る部分)について翌月以降のいわゆる残業代として繰り越されること
を了解致しました。

4 賃金規定の改訂により,私の給与がどのように変化するかは,以下の通り説明を受け,了解致しました。
 改定前
 基本給●円、役職手当●円、資格技能手当●円、営業手当●円、扶養手当●円、住宅手当●円
 改訂後
 基本給●円、役職手当●年、資格技能手当●円、営業手当●円、扶養手当●円、住宅手当●円、
 固定残業手当●円

5 賃金規定の改訂について,上記のとおり説明を受けその内容について承諾いたしましたので,本同意書に署名致します。


平成23年 月  日
株式会社
代表取締役 ● 殿
住所:                      
氏名:                ○印


2. 退職勧奨に容易に応じない

 リーマンショック以降日本経済が縮小しており、転職しても、これまでよりも多く給料をもらえるとは限らなくなりました。退職勧奨の途中で合同労組に加入して、容易に退職勧奨に応じない事例が多くなってきたと感じます。
 ある製造業のお客様の事案です。会社が勤務態度が不良である社員を退職させようとして、退職勧奨を行いました。会社は高額ではないものの若干の割増退職金を用意して話し合いを進めましたが、途中で社員が合同労組に加入し、年収の三年分の高額の割増退職金を要求するようになりました。会社としてはとても三年分の割増退職金を支払うことができませんので、話し合いは平行線を辿ることになりました。勤務態度が不良であっても、解雇できるほど勤務態度が悪いわけでもないため、なかなか会社としても打つ手はありません。
 この事例では、組合員である社員の年齢が高く、かつこの会社の給与水準が高いため、再就職してもとても同じ年収を維持できないという背景があると思われます。このような事案では会社が焦って無理をして高い割増の退職金を提示する事は避けなければなりません。その後の交渉では、一度提示した金額を事実上、下げる事はできません。
 この事案では組合から突然退職による解決の申し出がありました。組合員の再就職が決まって早期に退職しなければならなくなったようです。最後は会社にも感謝をして円満に終了することができました。今後もなかなか退職勧奨に応じない事例が増えると思います。

ポイント
金銭で早期に解決できそうかどうかを早めに見極める。早期に解決できないと判断した場合は、提示金額を含めて慎重に対応する。

3. 局面の打開に労働審判を用いる

 団体交渉で紛争事案を解決するのが労働組合の役割の一つであると思います。しかし、団体交渉では使用者が労働組合の主張に譲歩する必要はありませんので、議題によっては労使の主張が平行線を辿ることがままあります。最近は労使の主張が平行線を辿った場合に労働審判を活用する例も増えています。
 比較的手続きが簡易で短期間で解決することから合同労組としては個別労使紛争を解決するには適していると判断しているのかもしれません。労働委員会や紛争調整委員会のあっせん手続も良いのですが、あまりにも双方の主張に隔たりがある場合は話し合いがうまくまとまらない場合があります。労使双方の主張に隔たりがあっても、労働審判の場合は、裁判所(正確には労働審判委員会、以下同じ)が心証を開示して、調停が成立する場合が多いので、そのような場合の紛争解決形式としては労働審判が適していると思います。
事例は以下の通りです。
 ある会社で営業担当の社員が社長とトラブルを起こし、退職しました。元社員は合同労組を通じて残業代を請求しました。団体交渉では労使双方の主張が平行線を辿りました。というのも元社員は残業をしたと主張するのですが、退職の一週間前から残業時間を記録したという手帳を除いて証拠が全くありません。会社もタイムカードや日報などの記録をつけていませんでした。三回団体交渉を開催しましたが、金額に隔たりがありすぎてまとまりませんでした。その後三ヶ月ほど合同労組から連絡がありませんでしたが、労働審判申立書が会社に届きました。弁護士をつけずに本人が労働審判を申し立てました。労働審判の期日当日は、元社員だけでなく合同労組関係者が裁判所にいました。東京では弁護士を付けずに労働審判を申し立てることはほとんどありませんが、地方に行きますと弁護士を付けずに労働審判を申し立てることがままあります。おそらく合同労組の助言や援助があったと思われます。
 合同労組関係者は裁判所に対して、労働審判の際、同席することを求めましたが、裁判所は認めませんでした。この事案では、元社員の主張が不明確であったり、足りないところも多くあったのですが、弁護士を付けずに労働者本人が申し立てをした場合は、裁判所が主張や証拠が足りないところについて適宜元社員に質問をして補充してしまうことがあります。この事案の場合もそうでした。裁判所が積極的に質問し、問題のある労働審判の申し立てを事実上補充してしまいました。具体的に言いますと、残業代の計算に誤りがあったり、残業の会社の指示命令についてなんら記載がなかったにもかかわらず、裁判所が質問をすることで事実上誤りを直したり、補充してしまいました。裁判所は、元社員の手帳が退職前一週間分しかないにせよ、会社が労働時間を把握する義務を怠っているので、手帳の記載内容をもとにした残業代の請求を認めると心証を開示しました。会社は大変不満でしたが、その後の通常訴訟(裁判官があまりいない裁判所では、同じ裁判官が引き続き担当します)でその結果が変わる可能性は低いと考え、それを受け入れました。このように民事訴訟法上は問題があると思うのですが、労働審判の場合は迅速に解決するという目的から積極的に裁判所が当事者に質問をして事実上主張や立証を補充してしまいます。裁判所の方針にもよりますが、事案によっては弁護士をつけずとも合同労組の援助、助言で申し立てをする事が可能です。このように、これまで合同労組と会社との交渉はなるべく裁判にならないように話し合いで決着をつけようとしていたと思いますが、労働審判を活用する事により、弁護士を付けずとも裁判所で解決することが可能であると言えます。

ポイント
団体交渉の最中でも、労働審判になる可能性を踏まえて主張や証拠を整理しておく必要があります。

4. パワハラの訴えが増えている

 最近はパワハラが団体交渉の議題になることがよくあります。これがパワハラに当たるのかなと理解に苦しむことも多くありました。上司や経営者と人間関係がうまくいかない場合、自分の意に沿わない場合は全てパワハラにあたると主張する方や合同労組もいます。冗談で言っているのかなとも思うことがありますが、表情からすると真剣で、冗談で言っているわけではないのだと初めて理解することもありました。
 ある合同労組に社員が加入した事案でパワハラに当たるか否か問題になったことあります。

 ・指示した作業をいつまでも行わないので注意したこと
 ・就業時間中にインターネットばかり見ているので注意したこと
 ・指示した作業をいつまでも行わないので締め切りを設定して文書で作業を行うように指導したこと
 ・お客様に失礼な態度を取ったのでそのことを注意したこと

がパワハラに当たると主張してきた事案もあります。
 確かに多少厳しい口調で注意をしたのかもしれませんが、人格を否定した様な発言はなく、民法上の不法行為などに当たることはない事案でした。
 しかし、組合員の方はこのパワハラなる行為により心療内科に通うようになり、夜も眠られなくなったと主張します。
 事実関係にも食い違いがあり、言ったのか言わないのか客観的な証拠は双方とも無く、これも議論が平行線を辿ったことがありました。
 結局、合同労組が労働委員会のあっせんを申したて、その中で退職するかわりに一定の金銭を支払うことで話がまとまりました。
 私は労働審判などを通じて裁判所特に東京地裁労働部があまりパワハラを認定しないことを知っていましたので、パワハラについては安易にお金を支払うべきではないと考えていますが、退職などにより紛争が解決することができるのであれば、トータルの解決金は多少譲歩しても良いかと思います。
 今後このようなパワハラに関するトラブルはますます増えてくると感じます。

ポイント

パワハラについては、違法であると認定されることは意外と少ない。対象厳しく注意してくらいでは違法にはならない。パワハラと主張されても、ひるむ事無く具体的事実を主張する。

5. 組合員の意向を強く重視する

 これは当たり前のことだと思うかもしれません。しかし、合同労組によっては組合員の明らかな非違行為を放置しているとしか思えない事態も起きています。特に社内に労働組合を立ち上げている場合はそうです。例えば、ある会社において上司が業務時間中に作業工程についての改善活動のための集会を開こうと業務上の指示を出したとします。しかし、執行委員長は「分会として改善活動には反対する」と述べて集会の参加を拒否しました。組合員は知識がありませんので、何をどこまでして良いのかわかっていないのだと思います。本来は合同労組が指導して、業務上の指示を守るように教えるべきですが、合同労組は、組合を立ち上げた支部の執行委員長の意向を相当重視しているようです。明らかな違法行為で懲戒処分に該当する行為である事が分かっていながら、やめるように指導しないというのは、私は理解に苦しみますが、合同労組としてはあくまでも支部の実行委員長の意向を重視するようです。このような明らかな暴走行為をあえて放置するような事例が最近目立ってきているように思えます。

ポイント
合同労組が渋谷分会の暴走行為を止められない場合があります。会社は粛々と就業規則に照らして警告・処分を行なうべきです。

おわりに

 以上の通り、私の最近の合同労組との交渉の最近の傾向について個人的な感想を書かせて頂きました。
 いずれにしても、労使双方十分な話し合いをすることが肝要です。これは労働組合法を守るということにもつながりますが、労使双方が十分な話し合いをすることで、様々な解決の糸口が見え始め(単に時間が解決するとうこともありますが)、使用者にとって良い解決にもつながるからです。労使双方が十分な話し合いをすることは正直精神的にも肉体的にも負担はかかりますが、その負担を厭わず会社の担当者の方には是非十分な話し合いの機会を持つように努めていただきたいと思います。


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