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労働組合との交渉に留意すべき事案② 

mukai3.jpg 本稿では、団体交渉に関する実務上の留意事項を、弁護士の立場から述べさせていただきました。団体交渉の開催場所や進め方などの具体的な方法について記載することも考えたのですが、今回は思い切って団体交渉そのものについて、私の考え方や体験談を踏まえて述べさせていただきました。先生方の実務にお役立ていただければ幸いです。

※本稿は、向井蘭弁護士が執筆し、東京社労士会会報2011年11月号に掲載された記事を再録したものです。

団体交渉を受けるべきか、受けざるべきか

【事例】
 A社は設備メンテナンス業を営んでおり、勤務態度の悪い従業員Bを解雇しました。従業員Bは解雇撤回を求めて、労働組合Cに加入しました。A社は、「従業員Bはすでに当社の従業員ではないので、団体交渉に応じる義務はない」と述べ、団体交渉には応じない予定です。従業員Bは、「生活が苦しく扶養家族が多いため、徹底的に争いたい、職場に戻りたい」と言っているようです。A社はどうしたらよいでしょうか?
 また、A社が従業員Bとは雇用契約ではなく、業務委託契約(仕事を受けるか受けないかについて自由があり、仕事があるときだけ契約をして、報酬は時間ではなく仕事の成果に応じて支払われるもの)を結んでいた場合はどうでしょうか?

団体交渉応諾義務は非常に強力な義務である

労働組合法は、使用者に強い義務を課しています。労働組合法は、使用者は、労働組合の団体交渉開催要求に応じなければならないと定めました。
つまり、労働組合法は、使用者に対して労働組合との交渉のテーブルにはつくように義務付けたのです。一方で、労働組合法は使用者には労働組合の要求に応じたり、譲歩する義務はないと定め、使用者に配慮を示しています。
その他、労働組合法は労働組合に争議権(ストライキ)を与えていますが、あくまでも労働組合法は使用者に労働組合との交渉のテーブルにつかせて、団体交渉を促進させることで労使のもめごとを解決させようとしているのです。
労働委員会や裁判所は、以上のような労働組合法の趣旨に沿って使用者が団体交渉に応じるべきか否かを判断することになります。
つまり、『余程のことがない限り、使用者に団体交渉に応じるべきであると判断する』ことになります。私自身も、何度も労働委員会や裁判所で団体交渉応諾義務が如何に強力なものであるかを、身を持って痛感しています。


解雇撤回請求は受けるべきか、受けざるべきか?

会社が社員を解雇した場合、会社は、解雇された社員は「退職者」として扱います。要するに「従業員ではない」と扱います。労働組合法は「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」(労働組合法第7条2号)を禁止すると規定しています。一見すると解雇された社員は「使用者が雇用する労働者」にあたらず、団体交渉には応じなくともよいように思えます。実際に、解雇した従業員は従業員ではないので、団体交渉には応じないという使用者も少なくはありません。しかし、この対応は本当に問題はないのでしょうか?
この点については実務上決着がついており、「NO!」という判例が確立しています。つまり、解雇した従業員について、解雇を議題とした団体交渉に応じないことは団体交渉拒否にあたると、裁判所も判断しているのです。雇い止めや再雇用拒否も同じです。この点は充分にご注意いただきたいと思います。
従って今回の事案では、『従業員Bが解雇されたとはいえ、A社は団体交渉に応じなければならない』ということになります。


業務委託契約を結んでいた場合の最高裁判例の分析

事例の最後に「A社が従業員Bとは雇用契約ではなく、業務委託契約(仕事を受けるか受けないかについて自由があり、仕事があるときだけ契約をして、報酬は時間ではなく仕事の成果に応じて支払われるもの)を結んでいた場合はどうか?」と書きましたが、これについて最近、興味深い2つの最高裁判例が出ました。

INAXメンテナンス事件最高裁判決(最高裁平成23年4月12日)と新国立劇場運営財団事件最高裁判決(最高裁平成23年4月12日)です。
いずれも業務委託契約を結んでいた方の労働組合法上の労働者性が争われた事案です。使用者側は、業務委託契約を結んでいる方は労働組合法上の労働者ではないので、業務委託契約を結んでいる方の所属する労働組合の団体交渉開催要求を拒否しました。

仕事の応諾の自由が一応認められ、場所的時間的拘束が緩やかな事案でしたが、二審の労働組合法上の労働者には当たらないとの判断を覆し、最高裁で労働組合法上の労働者性が認められました。
私個人は、この流れはやむを得ないのではないかと思います。上記で述べたとおり、労働組合法は労働組合に強い権限を与えているわけではないので、その反面労働組合員として保護すべき対象を広げてバランスをとっているのではないかと思います。最高裁は、労働組合法上の全体の法体系をふまえて、労働組合法の入り口で労働者ではないとしてまったく労働組合法の保護を与えないとするのはいき過ぎであると警鐘を鳴らしたといえます。

説例の事案では、業務委託の内容が明確ではありませんが、「業務委託契約を結んでおり、従業員Bは労働組合法上の労働者ではない」という理由だけで団体交渉を行うのではなく、最高裁判例に照らして慎重に判断する必要があります。


団体交渉を行わないとどうなるか?

団体交渉に応じないとどのようなことが起きるのか?具体的に述べたいと思います。社会保険労務士の先生方のお客様の中には「団体交渉には応じたくない」という経営者の方もいるかもしれません。かりにそのようなお客様がいらした場合は、以下の記載を参考にしていただけると幸いです。

労働委員会に持ち込まれた場合の負担

使用者が団体交渉に応じない場合は、労働組合が各都道府県の労働委員会に救済命令申立を行う可能性があります。労働組合が救済命令申立を行った場合は、使用者はそれに応じなければなりません。ほとんどの使用者は弁護士を代理人として選任しますので、弁護士費用がかかるようになります。弁護士の私が言うのも何ですが、必要ではない弁護士費用を支出するのはあまり得策であるとは思いません。

また、今の労働委員会の手続きは、比較的審理に時間がかかるもので(それでもだいぶ短くなったと言われていますが)、特に審問(証人尋問のようなもの)は裁判所と異なり、かなり時間をとって行います。中小企業の場合は、会社社長や取締役自らが審問に臨みますので、その準備にかかる労力や時間は相当なものです。私の担当した案件では、社長が営業に自ら出ている会社だったのですが、社長がこの審問の準備だけで時間を取られ、売上が落ちてしまったほどです。それほど準備は大変です。

また、労働委員会の出す命令も団体交渉を開催しないことを不当労働行為と認めるものがほとんどであり、使用者はこれに不服であれば、中央労働委員会に再審査の申立を行うか、地方裁判所に命令を取り消すための行政訴訟を提起しなければなりません。ここまで来るだけで、相当中小企業であれば疲弊してしまいます。労働委員会の出す命令を受け入れるのであれば、そこで手続きは終わりますが、このあとで述べる通り、一度使用者が不当労働行為の救済命令をもらってしまえば、同時に進行している裁判所の裁判にも悪影響を及ぼします。

労働組合はどう考えるか

労働組合は、もちろんストライキや街宣活動やビラ配りなどにより活動することもありますが、基本的には、団体交渉を通じて労働組合員の労働条件や待遇を改善することを目指しています。

要するに、労働組合は団体交渉を行なってナンボなのです。団体交渉を開催することが労働組合にとっての一番大事な活動内容といっても過言ではないと思います。
そうであれば、なおさら団体交渉を開催しなければいいではないかと思う使用者の方もいらっしゃるかもしれませんが、私はそうではないと思います。以下理由を2つ述べます。


団体交渉に応じるべき2つの理由

まず、団体交渉に関する無益な紛争は防いだほうがよいと私は思います。
団体交渉を開催しない場合は、労働組合は組織をあげて総力戦で戦うことが多いです。


先程も言いましたとおり、労働組合は団体交渉を行なってナンボの組織ですから、団体交渉を開催しない使用者に対しては、労働組合の威信をかけて戦ってきます。裁判所(解雇であれば賃金仮払いの仮処分など)や労働委員会を通じて戦うだけでなく、労働基準監督署、当該使用者の監督官庁、取引銀行、取引先にも「要請」と称して団体交渉に応じるように活動を行います。ほとんどの使用者は、団体交渉を開催しないことを軽く考えていますので、この時点で驚き動揺します。しかし、もうこの時点では時すでに遅く、使用者が大幅な譲歩をしなければ紛争自体は終了しなくなります。

次に、当然ですが、団体交渉を開催することで紛争解決に近づく可能性は十分あるのでその機会を使わない手はありません。
ほとんどの労働組合はどのような形で紛争を解決するか、終わらせるのかをいつも考えています(そうではない労働組合も一部ありますが)。

労働組合も労働組合の労働条件や待遇を改善することを目的とはしていますが、労働組合員ご本人ではないので、団体交渉で声を荒らげることや、過大な請求や要求を行うことはあっても、紛争を解決しようという点では使用者と利害は一致するわけです。そうであれば、使用者としては、団体交渉開催や事務折衝を通じて交渉をすすめるべきだと思います。


団体交渉を打ち切るべきか打ち切らざるべきか

団体交渉開催を承諾し、話し合いが始まる―。これでお互い最初の一歩を踏み出したことになるわけですが、相手の戦略か、はたまた単なる嫌がらせか、むやみに話し合いを長期化しようとするケースも実際に少なくはありません。その場合、会社はどのような対応をすべきでしょうか?

私の個人的見解では、『意地でも会社から団体交渉を打ち切るようなことはしない』ようにしています。意地でも、というと語弊がありますが、冒頭でも述べましたとおり、労働組合法は使用者に強い団体交渉応諾義務を課しているので、団体交渉を打ち切ることは団体交渉拒否と判断されかねず、非常にリスクを伴うからです。団体交渉拒否の上記のようなリスクを説明すると、大体のお客様は納得して団体交渉を続けます。労働組合もだんだんくたびれてくるのかどうか知りませんが、団体交渉の間隔もどんどん空いてきて、結局は団体交渉を開催しなくなることもよくあります。しかし、1年以上交渉したが合意に達しなかったとか、89回団体交渉をしたけれども合意に至らなかった場合は、団体交渉を打ち切っても団体交渉の拒否にはあたらないという裁判例があるので、長期間に渡っても結論が出ない場合は、団体交渉を打ち切ることは可能ではあります。
もっとも、団体交渉を打ち切ったとしても、紛争そのものは解決しません。
労働組合は団体交渉ではなく、労働委員会や裁判所で決着をつけようとするだけですから、そのあとのリスクを考えても、団体交渉の打ち切りは、あまりおすすめしません。


裁判に持ち込まれない確率とは?! ~団体交渉の回数と裁判の勝率~

刺激的なタイトルをつけている割には、特に私自身が具体的なデータを持っているわけではないのですが、「団体交渉の回数だけ重ねても内容が伴っていないと意味が無いぞ」、「会社のアリバイづくりのために団体交渉を行っているんじゃねえぞ」と労働組合の方々はよく言いますが、果たしてこれは本当でしょうか? 私個人の意見は「NO」です。特定の団体交渉の議題については、団体交渉の回数と裁判の勝率は比例すると思っています。

例えば、整理解雇、配転や就業規則変更にもとづく労働条件の不利益変更を行おうとした場合に、労働組合が事前に団体交渉を申し入れることがあります。会社の本音としては、早く整理解雇や配転を行いたいところですが、そこを逆手にとって、使用者が積極的に労働組合と団体交渉をしたいと言った場合はどうなるのでしょうか?

私の経験から述べますと、主客逆転、使用者が積極的になると、逆に労働組合が団体交渉の日程を入れようとしなくなることが多くありました。会社が労働組合に団体交渉の具体的な日程を申し出ても、「忙しい」とか「都合が悪い」などと言って、先延ばしにするのです。労働組合もこれまでの経験から、団体交渉の回数を重ねれば重ねるほど、自分たちの勝率が低くなることをわかっているのだと思います。
なぜならば、整理解雇、就業規則変更に基づく労働条件の不利益変更の場合は、当然団体交渉を行わないことで、結論に影響がでるからです。このような議題の場合は、判例上または労働契約法上、使用者が事前に団体交渉をすることを義務付けているためです。

このような場合、私は、団体交渉開催希望候補日の日程を何度も文書で提案し、労働組合に団体交渉を開催するように迫るようにしています。労働組合も「団体交渉は開催したくない」とは本音を言えませんので、苦情の表情を浮かべている上部団体の方もいました。団体交渉を開催することで、かえって会社が有利に立つこともあるのです。

団体交渉を行おうとしない会社に対する裁判所の考え方

団体交渉拒否について労働委員会で争われ、解雇が無効であることについて裁判所で争うと、2つの案件が平行して行われることがあります。理屈上は全く別の事件なのですが、実務上はそうではありません。
まず、上記の通り、整理解雇や就業規則変更に基づく労働条件の不利益変更など判例上または労働契約法上、団体交渉を事前に行う必要がありますが、このような場合に団体交渉を行おうとしないと裁判所の心証は相当悪くなります。


いかに経営状態が悪くとも、団体交渉をしようとしない場合は、使用者が裁判に負ける確率が高くなります。最悪の場合は、訴訟で負けた場合の未払賃金が支払えなくて倒産することになります。
整理解雇や就業規則変更にもとづく労働条件の不利益変更ではない場合でも、団体交渉を行おうとしない会社に対しては心証が悪いと言えます。本来、関係のないことではあるのですが、団体交渉すら行おうとしない不誠実な会社であると印象を持たれた場合に、それを挽回するのは相当大変な労力を必要とします。


団体交渉に可能な限り何度も応じて、それでも交渉が決裂した場合と、最初から団体交渉を行わない場合では、全く裁判所の心証が異なります。これは私の経験からも断言できます。
労働組合としては、逆に労働委員会などで団体交渉拒否の命令をもらってから裁判の結果を待ちたいと思うようです。労働委員会の命令を利用して、自らに有利な判決を得ようとするからです。
以上の点からも、『よほどのことがない限り団体交渉には応じるべきである』と私は思います。


終わりに

2回にわたり私なりの個人的な意見を記載させて頂きました。

私は、会社側の労働事件にたずさわってきて9年目を迎えますが、すぐに労使紛争を解決する特効薬はないとつくづく感じています。地道に交渉相手と向き合って解決することが結局はお客様の利益になると思っております。

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労働組合との交渉に留意すべき事案②

弁護士に依頼する場合

 

※労働組合との交渉に留意すべき事案①②は、向井蘭弁護士が執筆し、東京社労士会会報2011年10月号と11月号に掲載された記事を再録したものです。

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